BACK INDEX NEXT

    FINAL FANTASY W 〜豊穣の国のクリスタル・3〜


    「セシ、ル……ヤン」
     掠れる様なか細い声で、囁くようにそう呟いて。けれどギルバートはほっと笑った。そのあまりにも弱々しい様子に、ヤンは痛ましげな視線を向ける。
    「ギルバート殿……」
    「よかった……。無事、だったんだね……。僕も、戦うよ……」
     そう言ってギルバートは身体を起こそうとする。しかし、上半身を支えようとした腕に力が入らなかったらしい。がくりと身体が傾ぎベッドから落ちそうになったギルバートを、ヤンが慌てて支えた。
     ごめん、と呟くギルバートの顔色は青白く、肌はかさかさに乾いていた。艶やかだった金の髪も、今はその輝きを失っている。
     素人目に見ても、決してよい状況とは言えなかった。
    「ギルバート殿。今はお身体を大事にされよ。無理はなさらぬほうがよい」
     ヤンの言葉に、ギルバートは小さく唇を噛む。弱々しい雰囲気はあるが、その瞳は輝きを失ってはいなかった。もう彼は、アンナを失った時の、ただ泣き崩れるだけの青年ではない。
     セシルはギルバートの手を取って、首を横に振る。
    「今は安静にしてるんだ、ギルバート。……気持ちだけ、ありがたくもらっておくよ」
    「……分かったよ。セシル、その格好、パラディンだね? ……おめでとう」
     吟遊詩人として世界を渡り歩いたギルバートは聖騎士の事も知っていたらしい。そう言って薄く微笑むと、何かを探すように首を廻らせた。
    「それにしても……君達が無事だということは……リディアも?」
     召喚士の少女を妹のように可愛がっていたギルバートの言葉に、セシルとヤンは俯く。嘘は言えない。けれど、リヴァイアサンに飲み込まれたなどと真実を伝えられるはずもない。
     だが、二人の表情が全てを物語ってしまっていた。ギルバートは悲しそうに微笑む。
    「……そうか。でも、丈夫じゃない僕がこうして生きているんだ。……リディアも、この世界のどこかできっと……元気にしているよね」
    「……ああ」
     頷くことしか、出来なかった。
    「でも、情けないよ。……こんな時に、寝ているしか出来ない、なんて……」
     囁くような声音でそう言って、ギルバートは自嘲の笑みを浮かべる。それに応じたのはシドだった。
    「なーに! 心配するな! セシル達にはわしがついておる!」
     威勢のよい声に、ギルバートは不思議そうに瞬きを繰り返した。
    「もしかして……あなたが飛空艇技師の、シドさん?」
    「いかにも! どうやらセシルやローザが世話になったようじゃ! おぬしの分はわしがしっかりとサポートするから、安心して休んでおれ!」
    「! ……そうだ、セシル。ローザは……今、どんな状況なんだ?」
     その言葉にセシルはしまった、と思った。クリスタルのことをすっかり失念していたのだ。心の中でローザに詫びた。
    「それが……この国のクリスタルと交換ということになってしまった」
     声を潜めたのは、この部屋にはこの国の看護師も控えているからだ。
    「しかし、この国のクリスタルはダークエルフに奪われてしまったとの事。……どう動くにしてもクリスタルを取り返さねばなりますまい」
     ヤンの言葉に、セシルとシドはこくりと頷く。
    「ダークエルフ……」
     ギルバートは一瞬だけ考え込むと、枕元の鉢植えに手を伸ばした。そこには白い小さな花をつけた草が植えられている。その中の一つを、ギルバートは根から引き抜き、セシルに手渡した。
    「……これは?」
    「ひそひ草。対の花に言葉を送れる不思議な草だよ。持って行って欲しい。……僕の、代わりに」
     セシルはその可愛らしい花をそっと受け取った。
    「分かった。……ありがとう、ギルバート」
    「いや。……本当は、ついて行ければいいんだけど……」
     力ない呟きに、今まで物陰に隠れるようにして事態を見守り、姿を見せなかったテラが現れ、怒鳴った。
    「そんな身体で何を言っておる! 馬鹿も休み休み言うんじゃな!」
     ギルバートの目が、これ以上もなく見開かれた。
    「テラ、さん……?」
    「大人しくそこで寝ておるんじゃな! クリスタルはわしが取り返すっ!」
     そう言って背を向けるテラからギルバートに向けられる感情が、若干変化しているような気がするのはセシルの気のせいではないだろう。
     ギルバートは薄く微笑んで、瞳を閉じる。
    「……はい」
     そこで医者の制止が入り、セシル達はギルバートの元を後にすることとなった。

     ダークエルフの潜伏先である磁力の洞窟周辺は、森が豊かだ。そのため、エンタープライズが着陸できるような開けた土地がない。
     そのため、セシル達はトロイア周辺にあるチョコボの森まで徒歩で出かけ、そこから低空ながらも空が飛べる黒チョコボに乗って洞窟へと向かうこととなった。
     磁力の洞窟は、その名の通り常に磁力が発生している洞窟である。洞窟の主となったダークエルフが金属を弱点とするため、金属類を扱えないようにするため洞窟を磁場で覆っているという。
     金属を身につけていると、身動きをとることすら難しいらしい。
     その事前情報を元に、セシル達は装備を変更していた、モンク僧のヤンや魔道士のテラは装備を変更する必要はあまりなかったが、セシルやシドは普段と比べると心もとない。
     洞窟に入れば、その不安は更に強いものになった。
     魔物の気配が立ち込めている。しかも、相当に強い。
    「……私の爪は大丈夫なようです」
     ヤンが爪の具合を確かめながらそう言う横で、テラが力強くセシルに頷いてみせる。
    「案ずるな。わしの魔法がついておる!」
     セシルは信頼の目を向け、頷き返した。
    「頼んだよ、二人とも」
     だが、この洞窟の攻略は一筋縄ではいかないだろう。
     だからこそゴルベーザはここのクリスタルの回収を後回しにし、セシル達に取って来させようとしているのだろう。
     セシルはいつも以上に周囲に気を配りつつ、奥へと足を向けたのだった。

    BACK INDEX NEXT

    Designed by TENKIYA
    inserted by FC2 system