BACK INDEX NEXT

    FINAL FANTASY W 〜豊穣の国のクリスタル・4〜


    「よいしょっと。……ヤン、テラ。大丈夫?」
     洞窟の途中で見つけた結界にコテージを張りながら、セシルはこの洞窟内でここまで主戦力として戦っていた二人を振り返る。返事はなく、ヤンとテラはぐったりした様子で、セシルに視線を向けただけだった。
    「……大丈夫に見えるか?」
     応じたのは、火を熾していたシドだ。
    「見えません。すみません」
     謝ったセシルに、ヤンは小さく笑みを浮かべる。
    「お気になさらず。……気遣い、感謝いたす」
    「これっくらい何ともないわ。ちょっと休めば回復するわい」
     テラは疲れを隠さず、けれど手をひらひらと振ってみせた。
    「……それにしてもこの洞窟、結構深いね。……今、地下四階?」
     セシルはコテージを張り終えると、火の傍に近付いた。
     火を熾し終えたシドは、この洞窟の地図作りに余念がない。その手元を覗き込んで、セシルは小さく唸った。
    「そうじゃの。……恐らく、この先が最深部じゃ」
     シドが指し示したのは、この結界のすぐ先にある扉だった。その先から強い力を感じたセシル達は、体制を立て直すためにこの結界まで戻ってきたのだ。
     洞窟に入って以降、やはり主戦力であるヤンとテラの消耗が激しい。それに、テラが攻撃に入った分、弱いとはいえ白魔法を仕えるセシルが回復役を務めていたため、二人ほどではないがセシルも消耗していた。
     そんな状態のままダークエルフがいるであろう最深部に突入するのは、自殺行為に等しい。急ぐことと無謀は違うのだ。
     セシルはそんなことを思いながら、道具袋から出した非常食を全員に配る。ちなみに、ここでは磁場の関係で鍋も使えないため、どうしても乾物中心になってしまう。本当は体が温まり心を落ち着かせるような温かい食べ物が欲しいところだが、そうも言ってはいられない。
     簡易的な食事を早々に済ませると、ヤンとテラはセシルとシドに断りをいれ、コテージに入っていった。
     よっぽど疲れていたのだろうが、それも無理はない。二人は、本当によく戦ってくれていた。シドも木槌で応戦していたものの、装備が薄くて前に出ることが敵わなかったのだ。
    「……防具もダメだというのが痛いの」
     セシルの心のを読んだかのように、シドがそう呟く。セシルは小さく頷いた。
    「そうだね。……僕、この洞窟に入ってから全く役に立てていないからね」
    「そんなん、わしもじゃ。……まあ、お前さんは暗黒騎士じゃないだけ、まだましじゃな」
    「……確かに」
     暗黒騎士のままだったら、白魔法も使えない。本当に単なる足手まといだ。パラディンに転職して本当によかった。
     このままの状態でダークエルフに挑むのは、正直不安だ。だが、そうも言ってはいられない。とりあえず出来ることは、最善を尽くすために体力を回復させることだろう。
    「シド。僕らも休もう」
    「そうじゃな」
     シドは大きく頷くと、ゆっくりとした動作でコテージへと向かったのだった。

     土のクリスタルの前に、ダークエルフは陣取っていた。よっぽどクリスタルを取り返されたくないのだろう。
     近付いて来たセシル達の気配に気付いたダークエルフが顔を上げ、目を細めた。
    「何ダ、オ前タチハ? クリスタルヲ取リ返シニ来タノカ?」
     発声の方法が異なるのか、異様に高く耳障りにすら感じる声音で、ダークエルフが言葉を紡ぐ。
    「愚カダナ! コノ洞窟デハ金属ノ武器ハ使エナイ! オ前タチハココデ死ヌ!!」
     笑いながらの言葉に、ヤンとテラが前に進み出る。
    「させぬ!」
    「ここは我らにお任せを!」
     二人の言葉に、セシルとシドは頷くしかない。戦闘の邪魔にならないよう、セシルとシドは一歩引いた。
     ヤンが腰を低く落とす。
    「はああああっ!!」
    「ゆくぞ!!」
     気合をためるヤンの横で、テラがロッドを掲げ、呪文を唱え始めた。
    「紅蓮なる業火よ! 全ての不浄を滅す灼熱の炎よ! 我が前の邪悪を灰燼と化せ! 彼の者に等しき滅びを与えよ! ファイガ!!」
     ヤンの気合を込めた鋭い突きが炸裂し、炎系最上級魔法のファイガがダークエルフを包み込む。だが、ダークエルフに堪えたような様子はない。にまり、と底意地の悪そうな笑みを口元に浮かべるのみだ。
    「ヤハリ愚カダナ。気ハ済ンダカ? ソロソロ、コチラカラ行クゾ!!」
     同時に巨大な力の奔流をセシルは感じた。人の身では身につけることなど出来なだろうと思われるほどの、強い魔力。
     それがダークエルフに向かって流れていく。
     そうしてダークエルフが口から発する聞き取れない音は、恐らく呪文だ。
    「まずい!」
     セシルはざっと顔色を変えた、瞬間。
    「死ヌガイイ!!」
     ダークエルフを中心に魔力が爆発し、炎が炸裂した。
     反射的に息を止め、顔を両腕で庇いながら、セシルは切に願う。
     ――せめて、剣が使えれば、と。

    BACK INDEX NEXT

    Designed by TENKIYA
    inserted by FC2 system