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    FINAL FANTASY W 〜豊穣の国のクリスタル・2〜


    「何と……女子ばかりの城か……!」
     水と緑に囲まれた白亜の城に足を踏み入れたヤンが、目を丸くする。この城の城門を守る兵士も文官も、すれ違う者はみな女性ばかりだ。
     代々土のクリスタルに仕えるこの国は、現在八人姉妹の神官によって治められている。そして土のクリスタルがもたらす豊穣の恩恵によって栄えてきた国だ。
     セシル達はまず、神官達へのお目通りを願った。拒否されるかもしれないと考えていたのだが、実際には接見はあっさりと許可され、神官達の元へと通される。
     そうしてセシル達が聞いたのは、驚愕の事実だった。
     土のクリスタルは現在この城にはない、とのことだった。
     何でもクリスタルの巨大な力を欲したダークエルフによって、この城の北東部に位置する洞窟に持ち去られてしまったらしい。
     この地方は、元々はやせ衰えた荒涼とした土地だった。それを土のクリスタルの恵みを受けてここまで美しい国へと発展したのだ。だが、その恵みの糧のクリスタルはここにはない。今は、まだいい。土地がすぐに衰えてしまうということはないだろう。けれど、この状態が長引けばこの場所がいずれ寂しい土地へと戻ってしまうのは想像に難くない。
     土のクリスタルを取り戻さなければならない。
     そんな重々しい話を神官達から聞き、重苦しい雰囲気のまま辞去したセシル達は、前途多難さに思わず深く息を吐く。その空気を払ったのは、やや興奮気味の声だった。
    「バロンとは雰囲気が全然違うのぅ! おおっ!? べっぴんさん発見!!」
     一人テンションを持ち直したシドを、テラが呆れたようなじとっとした目で見つめていた。
     ここ数日間共に過ごしただけだが、シドとテラは物凄く仲が悪い。だが、それも一種の同属嫌悪だというのが、セシルの見解だ。
     根本的なところが似ているのだ、この二人は。
     一つの道を突き進み、極めて。生涯の伴侶と定めた人を早くに亡くし、男手一人で娘を育ててきた。
     本当は、気付いていた。テラの、レミを見る視線がとても優しく、切なげだったことを。誰を思い出しているかなど、聞くまでもない。
    「……盛んなじじぃじゃな」
     テラの言葉に、セシルとヤンは苦笑した。
     単純に性格が合わないというのも、もちろんあるのだろうけど。
     テラのそんな呟きが聞こえたわけではないだろうが、美女に積極的に話しかけていたシドが、くるりとこちらを振り向いた。
    「おおい、セシル! どうやらこの国には王子がいるようじゃぞ!」
     その言葉に、セシルとヤンは首を傾げた。王政をとっていない国に王子がいるというのは、何ともおかしな話である。
     不思議そうなセシル達の表情で同じことに思い至ったらしいシドは、慌てて言葉を付け足した。
    「いや、この国の王子じゃなくてな! 最近近くの海岸に流れ着いた男を拾ったそうじゃが、そいつがどうやらどこぞの国の王子を名乗っているらしい」
     その言葉に。セシルとヤンはぴしりと動きを止めた。
    「金の髪に女と見紛う程の美しい男で、医務室で休んどるそうじゃ。そうそう、何か楽器を持っていたって話じゃな」
     シドの話が終わるか否か。ほぼ同時に、セシルとヤンは全力で駆け出していた。この瞬間ばかりは、正直クリスタルもゴルベーザも頭から飛んでいた。
    「うおおおお!? セシル!? ヤン!?」
     まったく事情が掴めないシドと、大体の事情は察したものの思い当たった人物に複雑な感情を抱くテラは、あっさりとセシル達に置いていかれたのだった。

    「すみません! ここにダムシアンの王子がいるって聞いたんですが!!」
     医務室の扉を勢いよくあけて叫びながら入室したセシル達は、やたらと恰幅のいい白衣を着た中年の女性に、ぎろりと睨まれた。射殺さんばかりのその視線に、百戦錬磨のはずのセシルとヤンは同時に肩を竦ませる。
    「ここは医務室です。病人や怪我人が寝ているのですからお静かに!」
    「か、かたじけないっ」
     そんな殺気を出さなくても、とは思うが注意の内容は尤もだ。
     気が急いてそわそわしつつも、ヤンは礼儀正しく頭を下げる。セシルもそれに習って頭を下げると、後ろからシドとテラの足音がした。
    「あの、それで……ギルバートは?」
     その言葉に、看護師はほんの少しだけ表情を緩めた。
    「お知り合いですか? 確かにギルバート様はこちらにおります。ただ、非常に衰弱しておいでです。元々、身体が弱かったうえに、相当の無理をしたようですね」
     その言葉に、セシルは血の気が引くのと同時に安堵するという大変器用さを求められる状態に陥っていた。自分は今、どんな顔色をしているのだろうか。
     セシルは小さく深呼吸して、気持ちを整える。
    「……会えますか?」
     その問いに、看護師はひとつ頷くと、セシル達を奥へと誘った。看護師の後に続いて、セシル達は医務室の奥へと進む。白を基調とした、薬の臭いが充満する部屋。その部屋の一番奥にあるベッドに、見覚えのある姿が横たわっていた。
     医務室だと言うことも、先程の看護師の注意も忘れて、セシルはその人物の名を呼ぶ。
    「ギルバート!」
     その声に、ベッドに眠っていたギルバートの肩がふるりと震えた。小さな衣擦れの音と共に、その頭がゆっくりと動く。その傍らに、セシルとヤンは駆け寄った。

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