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    FINAL FANTASY W 〜豊穣の国のクリスタル・1〜


     シドに案内されたのは、控えの間の先にある兵士たちが常駐する小部屋。そこの壁をバシッと叩き、シドは得意げに胸を反らした。
    「ここじゃ! ここにエンタープライズがある」
     そう言って壁に手を這わせたシドは、一つの石をぐっと押し込んだ。すると大きな音をたてて、壁が動き出す。そうして、セシル達の目の前に人一人は楽に通れそうな大きさの入り口が現れた。その先には地下へと続く階段がある。
    「……すごい」
     というか、よく城のこんな場所にこんな大掛かりな仕掛けを、とセシルが感心半分呆れ半分で呟くと、シドは得意げに鼻を鳴らした。
    「ふふん。灯台下暗し! ってやつじゃ」
     セシルは曖昧に笑った。それにしてもこんなところに隠すなんて、ある意味大胆だ。
     そんなことを考えながら、セシル達はシドの後に続いて階段を降りる。そして、その先に。巨大な船影があった。
    「こいつが最新型の飛空艇、エンタープライズじゃ! さ、はよ乗らんかい!」
     薄暗さのせいで全体の様子が掴めないまま、シドに急かされた一同はエンタープライズに乗り込む。シドは舵を握ると、にやりと笑った。
    「エンタープライズ、発進!!」
     エンジンの音が高鳴る。それと同時に開く天井に、セシルは目を丸くするしかない。どんな仕掛けになっているのか、さっぱりだ。
     これだけ大掛かりな仕掛けを短期間で作れるとは思えない。なら、セシルが暗黒騎士でこの国にいた頃から、この仕掛けを城に隠していたことになる。
    「……うわぁ」
     セシルは思わず頭を抱えた。何だか色々と複雑だ。一方、飛空艇初体験らしいテラとヤンは、純粋に驚くばかりだ。
    「うおおおっ!? これは凄い……!」
    「と、飛んでおる……!」
     それに満足そうに笑ったシドだったが、エンタープライズとは異なるエンジン音を耳にした瞬間、表情を険しくし後ろを振り返った。
    「赤き翼か!? おのれ、このエンタープライズの力、見せ付けてくれるっ!!」
     普段は飛空艇を戦闘に使うことをよしとしないシドだが、パロムとポロムの犠牲が彼の闘志に火をつけたらしい。今にも突進しそうなシドだったが、セシルは近づいてくる飛空艇に掲げられたものを見て目を細めると、シドを制した。
    「待ってくれ! あれは……白旗!?」
     白旗を掲げた赤き翼は、ゆっくりと減速するとエンタープライズに接舷してきた。そして、その甲板に立つ人物を見たセシルは、驚愕に目を見開かせる。声をあげたのは、シドだった。
    「カイン!? お前、何を……!?」
     セシルはすっと手を上げてシドを制すと、一度だけ息を吸った。
    「……ローザは、無事だろうな?」
     セシルの口をついた声音は、自分が思っていたよりも落ち着いていた。竜を模した兜から微かに覗く口元が笑みの形を作る。
    「……気になるか? そうだな。ローザを返して欲しくば……トロイアの、土のクリスタルと交換だ」
     その条件に。全員の顔色が変わった。
    「何!?」
    「何と卑怯な……!」
     テラとヤンの声を聞きながら、セシルは唇を噛み締める。カインの胸倉に掴みかかりたい衝動を、全力で抑えていた。
    「カイン、君は……!」
     だが、カインはあっさりとセシルに背を向ける。
    「用件はそれだけだ。クリスタルを手に入れたら、また連絡する」
     一方的にそう言って、赤き翼の飛空艇は去っていった。それを見届けるセシルの後ろで、シドが悔しそうに呻く。
    「カインの奴……!」
    「……セシル殿。どうなされるおつもりで?」
     ヤンの言葉に、セシルは目を閉じた。
     分かっている。一人の命とクリスタル。引き換えに出来るものではない。本来なら、ローザを見捨ててでもクリスタルを死守するべきなのだろう。だが、足掻きたい自分がいる。ローザもクリスタルもどちらも守りたいと、そう願う自分がいるのだ。
    「……トロイアへ行く」
     何を選ぶにしろ、彼の地へ向かわなければ話にならない。セシルは顔を上げてそう言った。
    「けど、その前に……。シド、レミが心配していたよ。一度、城下町に行こう。……それから、ミシディアに。トロイアはそれからだ」
     あの幼くも立派な魔道士達のことを、ミシディアの長老に伝えなければ。
    「……分かった」
     シドの言葉と共に、飛空艇はゆっくりと地上へと下降していったのだった。

    「お父さん! セシルさん! ……よかった」
     涙ぐみながらもそう言って微笑んで見せたレミに、さすがに心配をかけすぎたと、シドは気まずそうに頭をかいた。
     だが、これからシドはバロンを離れトロイアへと向かうこととなる。それを思うと心が痛んだセシルだが、シドによってそれを伝えられたレミは、あっさりと頷いて見せた。
    「分かったわ。止めても無駄でしょ? お父さんが一度決めたことを曲げるわけ、ないもの。……みなさん、父をよろしくお願いします」
     やはり父であるシドを一番理解しているのは、娘のレミだった。
     笑顔を浮かべてみせるレミに、セシルがひとつ大きく頷くと、レミは少しだけ安堵したような表情を見せてから、セシル達を見送ってくれる。
     それから向かったミシディアで、セシルはあの時以来祈りの塔に篭り祈りを捧げ続けている長老に、パロムとポロムのことを報告した。
     長老は驚きに目を見開き、それから悲しみの中にも誇らしげな笑みを浮かべ、ぽつりと呟く。
    「そうか……。あやつら、最後に私を越えたか……」
     そう。あの二人は子供である前に立派な魔道士で、セシルにとってはかけがえのない仲間であり、妹と弟でもあった。
     その喪失感を未だ胸に抱えたまま。セシル達はバロン北西部位置する、水と緑に囲まれた国トロイアへと降り立った。

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