FINAL FANTASY W 〜再会と真実と・8〜
「……パロム……ポロム?」
二人の動きが妙だと気がついたのは、パロムとポロムが迫りくる壁に身体を向け、背中合わせに立った時だった。
セシルに名前を呼ばれて、双子の魔道士は同時にセシルの方を見る。その瞳の色に、セシルは嫌な予感を覚えた。
双子はしばらくセシルを見つめた後、笑った。こんな時だというのに、とても嬉しそうに。とても幸せそうに。
「あんちゃん! ありがとよ!」
「お兄様が出来たみたいで、嬉しかったですわ」
満面の笑みで言われた言葉に、セシルの心臓が嫌な音をたてる。
何故、そんな顔でそんな言葉を言うのか。まるで、今生の別れのような。
「お前達……何を!?」
同じく嫌な予感がしたのだろう。顔色を変えたテラが声を上げる。
「あんた達をここで死なせはしない!」
「テラ様! セシルさんをお願いいたしますわ!」
その言葉に、ヤンとシドも顔色を変える。パロムが壁を睨み付ける様に見て、叫んだ。
「行くぞ! ポロム!!」
「うん!!」
セシルは咄嗟に壁から手を離し、二人に駆け寄ろうとする。だが、二人から放たれた魔力の奔流が、それを阻んだ。
「やめっ……!」
「「ブレイク!!」」
狭い空間を、眩い光が満たす。
そして、光の晴れた後に現れた光景に、セシルは呆然と膝をついた。
壁は、止まっていた。幼い双子の小さな両手が、壁を押し留めたのだ。その身体を、自ら石化させて。
「パロム……ポロム……!」
セシルの喉からは掠れた声しか出なかった。ただ、名前を呼ぶことしか出来ない。何も言葉にならなかった。
「何という……。待っておれ! 魔を打ち砕く、破邪の光よ! 全ての悪意を打ち払わん! エスナ!」
状態異常を回復させる白魔法だ。石化も回復させることが出来る魔法である。しかし。
「……だめじゃ。この石化状態は、二人の意思によるもの。エスナも効かん……。この、馬鹿者どもが……死ぬのは、この老いぼれでよかったろうに……」
悔しそうに呟くテラの視線の先には、石化したままの双子の姿があった。
弟子のように思っていた小さな魔道士達の行動に、テラは衝撃と動揺を隠せないようだ。
「このような……幼子が……!」
ヤンも衝撃を隠しきれず、重々しく呟いて双子の顔を覗き込んだ。石化したものの、二人の表情はまっすぐで、どこまでも迷いがない。
シドが唇を噛み締め、壁に拳を叩き付けた。
「――弔い合戦じゃ。……エンタープライズを出す!」
シドのその言葉に、セシルは顔を上げた。ここでずっと落ち込んでいたら、双子に怒られてしまう。
――しっかりしろよな、あんちゃん。
――落ち込んでる暇なんて、ありませんわよ。
そんな声が聞こえた気がして、セシルは小さく苦笑を零すと、表情を引き締めた。
「……待っていろ、ゴルベーザ!」
「ふむ、カイナッツォもやられたか……。セシルめ、ちゃくちゃくと力をつけているようだ……」
思案に暮れるゴルベーザに、カインは近づいた。
「ゴルベーザ様。ひとつ、ご提案が」
「何だ? カイン」
「最後の土のクリスタル……セシルに手に入れさせてはいかがでしょう?」
「トロイアの土のクリスタルか……。確かにあれは、私にも手が出しにくいところにあるが……」
「それを手に入れさせ、ローザと交換ということにしてはいかがでしょうか?」
その言葉に、縛られたままのローザは顔を上げ、カインを見つめた。
「カイン! あなた……」
だが、ローザの眼差しにもカインが動じることはない。
「ふむ。なるほどな。……それは面白くなりそうだ」
ゴルベーザのその言葉に、カインは一つ頷くと一歩踏み出した。
「その旨、私が伝えて参りましょう」
カインがそう伝えれば、ゴルベーザの声に面白がるような雰囲気が混じる。
「お前が? ……そうか。では、行くがいい」
「はっ」
カインが退席し、次いでゴルベーザがいずこかへ立ち去る。少なからずゴルベーザの存在に緊張をしていたローザはふっと息を吐いた。
それから、目を閉じる。
囚われの身のこの状況では、身体を動かすことなど出来ない。だが、だからと言って鍛錬を怠ってるわけではなかった。
白魔法の行使に必要なのは、揺ぎ無い強い精神力。そして、心の鍛錬ならば本人の気持ち次第でどこでも出来るのだ。
ただでさえ、足手まといになっているこの現状。ローザは少しでも強くなりたかった。強くならなければいけなかった。
囚われの身の上を嘆いている時間などない。
ローザはそっと愛しい人の名を口にのせる。名を呼ぶだけで、心を強く保てた。それほどに、彼の存在はローザの中で大きい。
「……セシル」