FINAL FANTASY W 〜再会と真実と・1〜
試練の山からミシディアに戻るのには、さほど時間はかからなかった。試練の山近くのチョコボの森でチョコボを捕まえたのだ。
そうして戻ったミシディアで、驚きの視線を浴びることになったセシルは、この町を発つ時とは違う居た堪れなさを感じて、肩を縮こめませた。
セシルを見るどの瞳も、これがあの時の暗黒騎士か、と言っている様だった。
ミシディアの民の中には、それでもお前を許さない、と面と向かって言ってくる者もいたが、セシルはそれでいいと思った。例え、この身から暗黒の力が消えようとも、自分が犯した罪が消えてなくなるわけではない。
全てを受け入れ、それでも前へ。
そうしてたどり着いた長老の館でも、セシルは驚きの声に迎え入れられた。
「おお……セシル殿。その姿……まさしくパラディン! 何と眩い……!」
その言葉に得意げに胸を張ったのは、当人のセシルではなく、パロムだった。
「そういうこと」
「取り越し苦労でしたわね、長老様」
その言葉にセシルは双子を見る。すると二人は同時に申し訳なさそうな顔をした。
「この二人には、そなたの監視を命じてあったのじゃ。……申し訳ない」
いえ、と首を横に振りかけてセシルは小さく苦笑する。小さな魔道士たちは小さな身体をぎゅっと縮こまらせていた。
起こられるのを覚悟するようなオーラを感じて、セシルは膝を床について視線の高さを双子と同じにすると、その頭を撫でた。パロムが目を見開き、ポロムが泣きそうな顔になる。
「ごめん、あんちゃん……」
「ごめんなさい……」
「君たちが謝る事じゃないよ。僕は、ここでそれだけのことをしてしまったんだから」
セシルは穏やかな表情で、パロムとポロムを見つめる。
「……ありがとう、パロム。ポロム」
その言葉に、二人の顔がぱあっと輝いた。その様子を穏やかな眼差しで見つめる長老に、テラがすっと歩み寄る。
「相変わらずじゃな」
「おぬし……テラか! 何故、ここに!?」
「試練の山でお会いしましたの」
「このじっちゃん、メテオを手に入れたんだぜ」
「メテオ!? あの魔法の封印が解けたというのか?」
あまりの出来事に目をむく長老に、テラは深く頷いた。
「さよう! このメテオで……アンナの仇を! ゴルベーザを倒す!」
「アンナが!? ……そうか」
長老の顔が悲しみに曇った。この会話で、長老とテラがどうやら顔なじみのようだとセシルは悟る。長老がこの町を離れることは考えづらいから、テラがアンナを連れてこの町に来たことがあるに違いない。
「だが、テラよ。憎しみに囚われて力を行使しては……おぬしは……」
「分かっておるよ。……じゃが、今の私にはこれしかない」
「……止めても無駄か」
「そういうことじゃな」
あっさりというテラに、長老は悲しげな笑みを浮かべた。だが、それは一瞬のことで、すぐに表情を戻すとセシルに視線を向ける。セシルは立ち上がると居住まいを正した。
「セシル殿。先程から気になっていたのだが……その剣は」
「試練の山の山頂で授かったものです」
「見せてもらってもかまわぬか?」
その言葉にセシルは鞘に納めたまま、腰に佩いていた剣を外し、長老に渡した。長老はそれを検分して、目を見開く。
「鍔の裏に文字が彫られておる。……これは、ミシディアに伝わる……伝承?」
そうして、長老の口から朗々と語られるのは、この地に古くから伝わる伝承だ。
竜の口よりうまれしもの
天高く舞い上がり
闇と光をかかげ
眠りの地にさらなる約束をもたらさん
月は果てしなき光に包まれ
母なる大地に大いなる恵みと慈悲を与えん
「……それは一体? あの山の光は僕を息子と呼びました。あなたは、何をご存知なんですか?」
だが、セシルの問いに長老はゆっくりと首を横に振った。
「この伝承の意味も、あの山の光の正体も、私には分からぬ。……だが、セシル殿。そなたは私が思っていた以上に大きな運命の中にいるようだ……」
そう言ってしばし考え込むようにしてから、長老はセシルの真意を測ろうとするかのような視線を向けてくる。
「セシル殿。……そなたはこれからどうなされるおつもりか?」
「何とかバロンに向かいたいと思っていますが……」
唯一にして最大の問題が、バロンに向かう手立てがないということだ。
「……デビルロードの封印を解こう」
「え!? デビルロードの!?」
デビルロード。文字通り悪魔の道と称されるそれは、バロンの城下町とミシディアを繋ぐ次元の道である。通るだけで精神力を消耗すると言われているその道は、クリスタルの一件以来ミシディア側より封鎖されていると聞いていたのだが。
「本当ですか!?」
「うむ。事は一刻を争う。パラディンとなったセシル殿ならあの道も通れるはずじゃ。見張りには話を通しておこう」
「あ、ありがとうございます!」
「よし! なら膳は急げじゃ! 行くぞ、セシル!」
テラの言葉に、セシルは表情明るく頷いて踵を返した。その横に、当たり前のようについてくる小さな二つの影に、長老は声をあげる。
「パロム! ポロム! おぬしらの役目は終わったんじゃぞ!」
セシルは驚いて足を止め、自分を見上げてくる双子の魔道士を見下ろした。
「終わってなんかないよ! 長老はこいつの力になれって言ったじゃないか!」
「お許しを!」
叫ぶパロムの横で、ポロムが祈るように指を組む。長老は真剣な顔でそんな二人を見ていたが、ややって息をついた。
「試練の山はそなたたちも受け入れた。……これも定めなのかもしれんな」
その言葉にパロムがぴょんっと跳びはね、ポロムが顔を輝かせる。
「ひゃっほー! そうこなくちゃ!」
「ありがとうございます!」
だが、セシルは賛成しかねて、顔をしかめた。これから先、どれだけの危険があるかも分からないのだ。
「しかし……!」
「だぁーいじょーぶだって。オイラ達の実力、知ってるだろ?」
「そういうことですわ!」
自信満々のパロムの言葉に、珍しくポロムが同意する。それでも決めかねているセシルの肩を、テラが叩いた。
「案ずるな。私もついておる」
「テラ……。分かった。頼りにしてるよ、パロム。ポロム」
「はいっ!」
「任せとけっ!」
頼もしい二人の返事に、セシルとテラは思わず顔を見合わせて、笑った。長老は一度大きく頷くと、くるりとセシル達に背を向ける。
「私は……祈りに入ろう。そなたたち……いや、生きとし生ける者全てに捧げる祈りを……!」
セシルは、長老に向かって深く深く頭を下げたのだった。