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    FINAL FANTASY W 〜再会と真実と・2〜


    「バロン……。こんな形で戻ってくることになるなんて……」
     デビルロードがある建物から一歩外に出たセシルは、感慨深げに呟いた。幻獣討伐の任を受けてこの町を旅立ったのが、およそ一ヶ月半前のこと。たった一ヶ月半の間に様々な出来事が起こり、あの時のセシルと今のセシルは全く違う。
     けれど。
    「……変わらないな、この町は」
     そう言って、苦笑する。たった一ヶ月かそこらの時間で、町が面変わりするなどなかなかないだろう。そう思いながら数歩歩き、セシルは眉をしかめて、足を止める。
     変わらない町並み。だが。
    「……? 緊張、している……?」
     よくよく見てみれば、この時間には外に出て遊んでいる子供も多いはずだが、その姿も見えない。いつも穏やかな町に蔓延る違和感に、これは誰かに話を聞いてみるべきかというセシルの思考は、パロムの声によって中断された。
    「うえええ……。デビルロード、きっつ……!」
    「パ、パロム。平気かい?」
     そう言って振り向いたセシルは、後ろに立つ三人の様子に絶句した。全員、控えめに言っても顔色は良くない。比較的元気なのは、パロムだけだ。
    「あんちゃん、よく平気だなぁ……。あんなぐにゃっぐにゃした道……。オイラ、酔ったぁ……」
    「ちょっと、パロム。大きな声出さないで……。頭に響く……うう」
    「くぅっ! ……何のこれしきぃっ……」
     ポロムは胸を押さえているし、テラに至っては地面に膝をついた状態で、壁に手をついて身体を支えているような状態だ。
     セシルは困ったなぁ、と空を見上げた。まだ、日は高いものの、どちらかといえば夕方に近い時間帯だ。考えてみれば、試練の山からほとんど休みなくここに来たのだ。焦る気持ちは確かにあるが、ここで焦っても仕方がないし、体力を回復させるのを優先すべきだろう。
    「……うん。じゃあ、今日は宿に入ろう」
     異論などあるはずがない。魔道士三人組が頷くのを確認して、セシルはすぐ傍の宿屋を指差した。
    「そこが宿なんだけど……歩けるかい?」
    「ふふん……オイラよゆーだぜ……」
    「お任せ下さい……」
    「賢者をなめるでないぞ……!」
     話が大きくなっているような気がするのは気のせいだろうか。セシルは苦笑を浮かべながら、宿屋の戸をくぐる。
    「……いらっしゃい」
     そして、迎えられた声に、セシルは目を丸くした。この宿屋の主人は威勢のよい人だったのに、声に覇気がまったくない。顔つきもどこか暗く、落ち込んでいるように見える。
    「……何か、あったのかなぁ」
     セシルの呟きが聞こえたのだろう。近くで植物に水をあげていた少女が、顔をあげた。
    「……あのね。バロンの兵隊さんが、奥の酒場を占領しているの。そのせいで、お客さんが来なくなっちゃって……お父さん、落ち込んでるの」
     その少女の顔を見て、セシルはこの宿屋の主人の一人娘で、この宿の看板娘だと思い出す。明るくて、親の手伝いをよくして。そして、暗黒騎士だった頃のセシルを少し怯えたような目で見上げていた少女だ。
    「バロンの兵が? それは困ったね。……どんな人達なんだい?」
     視線を合わせるようにしてそう尋ねると、少女は視線を一瞬奥の酒場に向けた。
    「ええっと……。今は三人、来てる。そのうちの一人はね、バロンの人じゃないの。ファブールから来た、モンク僧なんだって」
     ファブールの、モンク僧。セシルの脳裏に一人のモンク僧の姿が過ぎったのは言うまでもない。海流に乗れば、バロンにたどり着くことも不可能ではないはずだ。
     けれど、何故バロン兵と。
    「……ありがとう」
     そう言って微笑むと、少女は不思議そうに首を傾げた。
    「ううん。……ねえ、お兄ちゃん。あたし、お兄ちゃんと会ったことある? はじめまして、だよねぇ?」
     そう言う少女に、曖昧に笑みを返す。
    「僕は酒場に行ってみるけど、みんなは……」
     そう言って振り返ったセシルを追い越すように、仲間たちは酒場へと歩いていってしまう。まだ休む気はないらしい。セシルは慌てて魔道士組を追いかける。
     そうして目に飛び込んできた酒場の、予想以上に酷い光景に、セシルは思わず眉をしかめた。
     充満する酒の匂い。店員たちは怯えた様子で店の隅に縮こまり、注文の時だけ、占領している兵士達に近づく。その中の一人の姿に、セシルは目を見張った。
     見間違えるはずがない。
    「ヤン!」
     呼んで駆け寄ると、赤ら顔のヤンは据わった目でセシルを見返してきた。
    「む? ……誰だ?」
    「兜取ったところもあんまり見てないっけ……。僕だ。セシルだ!」
     そう言うと、ヤンは椅子をがたりと倒しながら立ち上がる。
    「セシル! 会いたかったぞ! バロンの裏切り者め……かかれっ!」
     セシルは思わず一歩後ずさった。
    「ヤン!? どうしたんだ!?」
     カインのように裏切られたのだろうか、という思考が掠めなくもなかったが、どうもヤンの様子がおかしい。カインのときとは違う違和感を覚えつつも、セシルは剣の柄に手をかける。そして、鞘に収めた状態のまま、剣を構えた。
     酒によって足元も覚束ない兵士など、元々セシルの敵ではない。一瞬で二人の兵士を昏倒させる。しかし。
    「うおおおおおおっ!!」
     だが、このモンク僧はそうはいかなかった。
    「くっ……!」
    「覚悟ぉぉぉっ!」
     動きはいつもよりも精細さを欠いているものの、力がいつもよりも強い。酒の効果だろうか。ヤンの拳を受けたセシルが押し負けそうになった、瞬間。
    「ええい! いいかげんに! しろぉぉぉっ!」
     いつの間にかヤンの背後にあるテーブルによじ登っていたパロムが、渾身の力でもってアイスロッドを振り下ろした。ごずっと鈍い音がしてヤンの身体は前に崩折れ、おまけに椅子の背に顔面を強打する。
    「わ、わああああ! ヤ、ヤン!」
    「パロム! やりすぎよ!」
    「や、オイラもここまでやるつもりは……」
     慌てたセシルが、椅子の背に顔面をぶつけた後、床へと沈没したヤンに駆け寄ると、ヤンは小さく呻き声をあげた。
    「うう……はっ!? ここはっ!? ……セシル殿!?」
     ヤンの言葉を聞いて、セシルは色々な意味で安堵した。
    「ここなバロンの酒場だよ、ヤン」
     そう告げると、ヤンはいつの間に、と呟いた。どうやら今までのことを覚えていないらしい。パロムの攻撃のせいではないといいのだが。
    「……とりあえず、宿屋で話そうか」
     セシルの提案に、一同はこくりと頷いたのだった。 

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