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    FINAL FANTASY W 〜試練の旅路・1〜


    「……ここは」
     重たい身体を引きずるように歩き、ようやく見つけた人里。だが、セシルはそこに足を踏み入れることに躊躇した。
     魔法国家ミシディア。かつて赤き翼の部隊長だったセシルが、クリスタルを略奪した国。
     色々あって随分昔の出来事のように感じるが、実際には一月ほどしか経っていない。
    「……何の試練だ、これは……」
     思わず頭を抱え、蹲る。
     運命の神様がいるとしたら、セシルのことが相当嫌いに違いない。カインに裏切られるは、クリスタルは奪われるは、ローザは攫われるは、リヴァイアサンに襲われるは、仲間とは逸れるは。そして、漂着した先が因縁深いミシディア。
    「過去から……罪から、目を背けるなんてことか……」
     深く深く息を吐いて、セシルは立ち上がる。元より、血塗られたこの身。茨の道であることは覚悟の上だ。
     この街の人々の反応は想像がつく。だが、前へ進むと決めた。
     セシルは小さく息を吸うと、街に足を踏み入れた。黄昏時の街は、人もまばらだ。穏やかに流れていた街の空気は、セシルの姿を認めたことで、一変する。
     時が凍りついたようだ、とセシルは思う。歩くたびに突き刺さる冷ややかな視線。背中がぴりぴりとするのは殺気のせいだ。セシルは反射的に剣を抜かないよう、懸命に自制していた。
     この街の人々の反応は、正しい。自分は、それだけのことをしたのだから。
     セシルはまっすぐに、あの時クリスタルが安置されていた館へと足を向けたのだった。

    「……そなたは、あの時の……」
     あっさりと面会を許されたこの街の長老は、唸るような低い声で呟いた。セシルは兜を外すと、それを右手で抱え頭を下げる。
    「赤き翼のセシルと申します。……陛下の命令に逆らう勇気が持てず略奪行為を働いた私にお会い下さいましたこと、お礼を申し上げます。……申し訳ございませんでした」
    「謝っていただく必要はない。謝られても、死んだ者は帰らん……」
     その通りだ。ここでの謝罪は、セシルの自己満足に過ぎないだろう。セシルは頭を下げたまま、唇をかみ締める。
    「……だが」
     ミシディアの長老の声に、セシルは反射的に顔を上げる。長老はセシルをじっと見つめていた。まるで、見定めようとするかのように。
    「そなたに、あの時とは違う輝きが見えることも、事実。……セシル殿、何故この地に?」
    「僕はあの後、バロンを出奔しました。今は、現在赤き翼を率いているゴルベーザという者と戦っています。……ですが、仲間を囚われ、海路からバロンに進入しようとした矢先、海上でリヴァイアサンに襲われ……。仲間とも逸れ、気付けばこの地に……」
     長老はセシルの言葉に、ひとつ大きく頷く。
    「ふむ。それもそなたの運命であろう。……セシル殿、そなたは大きな運命を背負っているようじゃ」
     長老の目はセシルを見ているようで、見ていない。まるで、遥か未来を眺めているような、そんな瞳だ。
    「セシル殿。試練の山に登られよ」
     セシルは眉をひそめた。
    「試練の山? ……ですが、僕は一刻も早くバロンに……!」
    「試練の山に登られよ。そこでパラディンになるべく、試練を受けるのじゃ」
     セシルの言葉を遮るように、長老は強い調子で繰り返す。
    「パラディン、ですか?」
    「聖なる騎士のことじゃ。試練の山で試練に打ち勝った暁には、聖なる力が授かると言われておる。今まで成功したという話は聞いたことがないが……。その暗黒の力に頼っているそなたでは、ゴルベーザに打ち勝つことは不可能じゃ」
     はっきりと言い切られ、セシルは俯く。
     ファブールで垣間見たゴルベーザの圧倒的な闇の力を思い出す。確かに、今のセシルの実力で、しかも一人きりで挑んでも勝算は塵ほどにもないだろう。
     セシルは、腰に佩いたでデスブリンガーを見つめた。この剣を授けてくれたファブール王も言っていた。
     闇の力では真の闇に打ち勝つことは出来ないと。
     セシルは決意をこめて顔を上げ、長老に頷いてみせた。
    「……やってみます!」
     その言葉に長老はひとつ頷き、それから思案するような顔になる。
    「よくぞ申された。……しかし、試練の山に暗黒剣だけでは辛かろう。供をつけて進ぜよう。……パロム! ポロム!」
     長老の呼びかけに、館の扉が開く。小さな影がひとつ、館に入ってくる。
    「お呼びですか? 長老様」
     リディアよりもさらに幼い魔道士姿の少女の登場に、セシルは思わず目を丸くする。
    「ポロム。……パロムはどうした?」
     ポロムと呼ばれた少女は長老の言葉に周囲を見回し、呆れたように息を吐くと、小さな頬を膨らませた。
    「あの子ったら、また……!」
     その時だ。セシルの隣に白い煙がぼわっと立ち上ると、その中からポロムに雰囲気のよく似た魔道士姿の少年が現れたのは。
    「うわっ!?」
    「あんちゃんが、あん時の暗黒騎士か! このミシディアの天才児・パロム様がお供してやるんだから、ありがたく思えよな!」
    「パロム! 調子に乗るなといつも言っておるじゃろうがっ! 今回の件は、そなたらの修行も兼ねておるんじゃぞ!」
     セシルは幼い魔道士二人をぽかんと見下ろしてから、長老を見た。
    「……この二人が?」
    「さよう。双子の魔道士、パロムとポロムじゃ。まだ幼いが資質は私が保証する」
    「保証するって……え、でも……」
     まだ子供ですよと言いかけ、ならリディアを連れ回していた自分は何なんだと自問自答する。
     すると、パロムがセシルの腰の辺りをばちんと叩く。
    「パロムだ! よろしく頼むぜ! あんちゃん!」
     そしてポロムが礼儀正しくお辞儀をした。
    「ポロムと申します。よろしくお願いしますわ、セシルさん」
     この二人がついてくる事に関して、セシルに拒否権はないらしい。セシルは曖昧に笑った。
    「……よろしく頼むよ」
    「今日はもう遅い。この館に泊まってゆかれるがよい。……街の宿には泊まれぬだろう」
     セシルは深く頭を下げた。
    「すみません。お言葉に甘えさせていただきます」

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