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    FINAL FANTASY W 〜試練の旅路・2〜


     試練の山までは大人の足でも歩いて三日ほどかかるらしい。セシル達は朝早くに、ミシディアを出発した。
    「アイテムでしたら、私達がそろえておきましたので、問題ありませんわ」
     ポロムがにっこりと笑って道具袋を渡してくれた。これは本当に、ありがたい。何しろ、セシルは漂流している間に道具のほとんどを流されてしまったらしく、持っていたものは身につけていた装備品とポーションがいくつかだけだったのだ。
    「ありがとう」
     礼を言って受け取ると、ポロムは意外そうにセシルを見上げ、それから我に返るとぷいっと顔を背けた。
    「礼には及びませんわ」
     随分と大人びた子だと思う。その隣で蛙を追い回しているパロムとは性格が正反対のようだ。
    「もう、パロム! いつまで遊んでるの!? 行くわよっ!」
    「何だよ〜。話してるみたいだから、待っててやったんじゃん」
     何だかんだ言ってもいいコンビだよな、と思いつつ、セシルは目を細めた。
    「二人は、いくつ?」
     その問いに、二人は同時に手のひらを広げて突き出した。こういった動作は年相応だ。
    「五歳かぁ。……長老様のところで諸行しているんだよね?」
    「そうさ。長老がオイラたちのことを見つけてくれたんだ」
    「それで長老様にお世話になっているのですわ」
    「そうなんだ」
     セシルは頷きながらも、ゆっくりと歩く。リディアが歩くのと同じくらいのペースで。
     このスピードで歩くことが癖になりつつある自分に、セシルは苦笑した。
     再び口を開きかけたセシルだったが、はっと息を呑む。
    「あんちゃん?」
    「二人とも、気をつけろ!」
     先程の穏やかな声音とは全く違うセシルの声に、パロムとポロムの背に緊張が走る。
    「魔物だ!」
     二人が同時に身構えた。セシルはデスブリンガーを抜くと、低く身構える。このメンバーでの戦闘は初めてで、二人の実力は分からない。けれど、二人が魔道士である以上、セシルが前線に立ち、攻撃を防がなければならない。
     茂みが音を立て、セシル達の前に魔物が現れる。どれも飛行型の魔物で、コカトリスという比較的小型の魔物が三匹。それからズーという巨大な怪鳥が一匹だ。
     コカトリスはそんなに手強くはない。問題は大きな嘴に鋭い爪を持つズーである。
    「ポロム! スロウは!?」
    「つ、使えます!」
    「よし! ズーに! パロム、サンダーいけるか!?」
    「あったりまえだ!」
    「スロウの後、ズーに! 僕は!」
     短い指示の後、セシルは襲い掛かってきたコカトリスを一刀両断に切り捨てる。
    「こいつらを倒す!」
    「いきますわ! ……緩やかなる時よ。その流れに汝が身を委ねたまえ! スロウ!」
     ポロムが杖を掲げ、ズーにスロウをかける。その横で精神統一をしていたパロムが、叫んだ。
    「くらえ、でか鳥! 輝ける光よ、彼の者に裁きを! サンダー!!」
     リディアのサンダーよりも眩い光が、ズーの身体を貫いた。ズーが高い雄たけびが木霊し、その声に怯えたコカトリス達の動きが、一瞬止まる。その時を逃すセシルではない。
    「はああっ!」
     流れるような剣技でコカトリスの群れを全滅させると、スロウとサンダーのダメージで動きの鈍ったズーに切りかかる。瞬間。デスブリンガーから黒い靄のようなものが発生し、ズーの命を絡めとる。
     ズーはあっさりと地面に落ちた。
     暗黒剣の秘めた力に驚愕を覚えながらも、セシルは息をついた。
     とりあえず双子が無事でよかった、と振り向くとパロムとポロムは呆けたような顔をしていた。
    「ど……どうしたんだい?」
    「え? あ、実は、オイラたち……」
    「実戦で魔法を使ったのははじめてですの……」
     二人の言葉に、セシルはなるほどと頷く。そういえば、リディアも初めての戦闘を終えた後は、同じような状態になっていたように思う。あの時は砂漠の真ん中での戦闘だったから、暑くてぼうっとしてしまっているのだと思っていたが、実際には違ったのかもしれない。
    「そうだったのか。二人とも、凄かったね。……おかげで助かった」
     笑顔でそう言えば、パロムとポロムの頬が真っ赤に染まる。
    「あ、あんまり褒めないで下さいませ! パロムがまた調子に乗りますもの!」
    「な、何だよっ! ポロムだって真っ赤じゃんか!」
    「あはは。……いつまでもここにいると、他の魔物が寄って来るね。行こうか」
     そう言ってゆっくりと歩き出せば、その後をパロムとポロムが小走りに追いかけてくる。
    「なぁ、あんちゃん!」
    「何だい?」
    「あんちゃんって魔法は使えないんだよな?」
     パロムの問いかけに、意図が見えないながらもセシルは頷く。
    「うん。僕には魔力がないからね。どうしてだい?」
    「バロンも魔法に関しては遅れていると学びました。……けれど、先程のセシルさんのご指示は魔法をきちんと理解されているように思えましたわ」
     ポロムの言葉に納得がいく。しかし、この子は本当に五歳児なのだろうか。
    「ああ。……ここに着くまでは仲間と一緒だったからね。その仲間に、白魔道士の女性と黒魔法が使える子がいたから」
    「……黒魔道士、じゃないのか?」
     パロムが片眉を跳ね上げて尋ねてくる。鋭い。パロムのことも五歳児と侮ると痛い目を見そうだ。
    「……うん。召喚士、だったよ」
    「召喚……。聞いたことがありますわ。ミストに伝わる秘術、ですわね」
    「そう。白魔法と黒魔法も使える子で、凄く助けられた。パロムやポロムより、ちょっとだけお姉さんなのかな。……生きててくれるといいんだけど……」
     そう言って。セシルは悲しげな笑みを浮かべたのだった。

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