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    FINAL FANTASY W 〜ファブール攻防戦・1〜


     辮髪の男は、セシル達に丁寧に頭を下げる。
    「危ないところをかたじけない。私はファブールのモンク僧長、ヤン=ファン=ライデンと申す。この山には演習で来ていたのだが、突然の魔物の襲撃に遭い、私一人に……。あれほどの手練の者達が……!」
    「僕はセシル。僕らはファブールに向かっている途中です」
    「ファブールに? 何故……」
     セシルの言葉にヤンが眉をしかめる。この季節にわざわざボブスの山を越えてファブールに向かうことは珍しいから、当然の反応だ。ローザが身を乗り出し、口を開く。
    「ファブールのクリスタルが危ないんです! ゴルベーザという男がバロンを利用してクリスタルを集めています」
     その言葉に、ヤンは目を見開いた。
    「……ということは、ファブールの風のクリスタルも……!」
    「ええ。……ダムシアンの火のクリスタルは既にバロンに奪われてしまいました。……だから、次は」
     苦い表情でそう告げるギルバートに、ヤンは苦悶の表情を浮かべる。
    「何ということだ! 主力のモンク隊は全滅、今城にいるのは経験の浅い者達だけだ。今、ここを攻められては……!」
     その言葉に、セシルとギルバートは息を呑む。ローザが頬に手を当て、冷静に呟いた。
    「恐らく、さっきの魔物もゴルベーザが遣わしたんだわ。……ファブールを手薄にするために」
    「……ならば、バロンは既にファブールに!? こうしては……!」
     色を失ったヤンが踵を返そうとするのを、セシルは制した。
    「待ってください! 僕らも行きます!」
    「気持ちはありがたいが、これはわが国の問題! 無関係なそなた達を巻き込むわけにはいかぬ!」
    「僕は……バロンの暗黒騎士です!」
     セシルの言葉に、ヤンは驚きに目を見開き、動きを止めた。
    「ローザもバロンの者です。ギルバートはバロンよって国を滅ぼされ、この子……リディアの村も……バロン王に騙されて、僕が……」
     その言葉に、リディアは黙ったまま目を閉じた。その小さな手を、ローザが握り締める。
    「これは、僕達の戦いでもあるんです。だから……一緒に行きます」
     ヤンはセシルを見定めようとセシルに視線を送る。セシルもヤンから視線を逸らさなかった。やがてヤンは、納得したように頷く。
    「……承知した。それでは、セシル殿。申し訳ないが助太刀願えるだろうか?」
     ヤンの言葉に、セシル達は力強く頷く。ヤンは頷き返すと、ファブールへと向けて歩き出す。
    「ファブールはボブスの山の東側にある。……行きましょう!」

    「それにしても、先程は本当に助かり申した。……特に」
     ヤンはそう言って、リディアを見る。視線に気付いたリディアが顔を上げ、首を傾げた。
    「そなたに助けられたようだ。あそこで冷気の魔法の壁がなければ、耐え切れなかったかもしれぬ」
     確かに、とセシルは頷いた。ブリザトの壁があったからこそ、至近距離で爆風を受けても耐え切ることが出来たのだ。あの規模の爆発なら、吹き飛ばされていてもおかしくなかった。
     セシルが指示したわけではないから、リディア自身が考えた上での行動だ。聡い子だと思う。
    「そうね。リディア、すごかったわ」
     皆に褒められたリディアは照れたように笑う。
    「うん。リディアは本当に凄いなぁ。僕は戦闘では役に立てないから……情けないよ」
     そう言って自嘲気味に笑うギルバートに、ヤンは頭を横に振った。
    「そんなことはない。ギルバート殿が敵を引きつけてくれたからこそ、あの場面を乗り切れたのだ。……見事な腕前であった」
    「そうだよ! ボムもうっとりしてたよ?」
     二人の言葉に、ギルバートは穏やかに笑う。
    「うん、ありがとう。リディア、ヤン」
     こういった他愛のないやり取りは意外と大事だ。コミュニケーション不足だと、戦闘時の連携も取れないことがあったりする。
     セシルは三人の様子を見守りつつも、視線を東へと向けた。
     ミストやダムシアンのような悲劇は起こさせないと、心に強く誓って。

     ボブスの山からファブールまでは、どんなに急いでも徒歩で二日はかかる。セシル達がファブールに辿り着いたのは、二日後の昼過ぎだった。
    「ここが……ファブール」
     堅牢な城を見上げ、セシルは息をつく。地上からの攻撃に対して、これほど守りの堅い城もないだろう。
     セシル達の姿に顔をしかめた門を守る僧兵も、ヤンの姿を認めれば一礼と共に城門を開けてくれる。
    「セシル殿。こちらだ」
     ヤンの先導に従って玉座の間を目指すセシル達は、途中で一人の女性に声をかけられた。
    「あら、あんた!」
     随分と豪快な女性だなぁという感想を呟く間もなく、ヤンが小さく咳払いをする。
    「……私の妻だ。シーラ、こちらはセシル殿。ボブスの山で危ないところを助けていただいた」
     その言葉に、シーラはあらまと目を見開く。
    「うちの人が迷惑かけたね。ありがとう。あたしからも礼を言うよ!」
     さばさばとした物言いと笑顔に、自然とセシル達も笑顔になる。
    「……で、あんた。陛下にはお会いしたのかい?」
    「いや、これからだが……」
    「何だい! こんな所で油売ってる場合じゃないじゃないか! さっさとお行き!」
     そう言ってシーラはばしんとヤンの背中を右手で叩く。ヤンが息を詰まらせたところを見ると、相当強力だ。
     セシル達は笑いを堪えるのに必死だ。
    「……ふふ、素敵な奥さまね」
     シーラと分かれた後、笑みを浮かべるローザに、ヤンは渋面を作った。
    「お恥ずかしいところをお見せして申し訳ない。……陛下はこちらだ」
     ヤンの視線の先には玉座の間がある。セシルは小さく深呼吸をして心を落ち着かせると、ヤンに向かって頷いた。
     玉座の間の扉が、セシル達の目の前でゆっくりと開いた。

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