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    FINAL FANTASY W 〜明日への勇気・5〜


     ボブスの山は僧の修行の場だからだろうか、アンデット系の魔物が多い。よって、主戦力となるのはファイアを覚えたリディアと聖なる矢を装備したローザだ。
     アンデット系の魔物には負の力による攻撃の効果は薄いので、暗黒の力で戦うセシルや、そもそもの戦闘力が低いギルバートは、入山後最初の戦闘で役立たずの烙印を押された。
    「勝ったよ! ローザ!」
    「ええ! やったわね、リディア!」
     戦闘をこなす度に、絆を深めていく女性陣に、男性陣は苦笑を浮かべるしかない。
    「……僕達、何の役にも立ってないね……」
    「女性陣……頼もしいなぁ」
     遠い目をして呟いたセシルだが、ふと目を見張って顔を上げた。
    「セシル?」
     声をかけるギルバートを視線だけで制し、耳を済ませる。セシルの様子に気づいたローザとリディアが慌てて口をつぐんだ。
    「……戦いの、音がする……!」
     セシルは小さく呟くと、駆け出した。少し遅れて、他の三人がセシルの後を追う。
     そこは、ボブスの山の頂上部分だった。そこで、一人の男が魔物の群れと対峙している。上半身を寒風にさらし、辮髪と呼ばれる珍しい髪形をしたその姿に、ギルバートがその正体を口にした。
    「ファブールの……モンク僧!」
     モンク僧が対峙している魔物はドモボーイと呼ばれるゴブリンの上位種だった。
    「はっ!」
     モンク僧が短い気合と共に地面を蹴るり、ドモボーイの群れの中に飛び込んだ。一匹を殴り飛ばし、その勢いのまま体を回転させて回し蹴りを放ちさらに一匹を山肌に叩きつける。そして。
    「はああっ!」
     勢い良く地面を蹴ると強烈な跳び蹴りを食らわせた。
    「すごい……!」
     あまりの強さに、セシルが感嘆の声を漏らす。ドモボーイの群れを、あっという間に全滅させてしまった。
     だが、これで全てではない。奥に、強烈な殺気を放つ魔物がいる。赤く、煙のようなもやもやとした形の魔物。ボムの仲間であるようだが、受ける威圧感はボムの比ではない。
    「あいつは手強い!」
    「助けなきゃっ」
     口々に声に出し、セシル達はモンク僧の隣に並んだ。
    「む!? 貴殿達は?」
    「話は後です! まずはあれを!」
    「かたじけない!」
     モンク僧は頷くと、再び構えを取り戦闘態勢に入る。セシルもその横で剣を引き抜き、低く構えた。
    「みんな! 油断するな! いくぞ!!」
     セシルの声に呼応するように、リディアとローザの詠唱が響く。
    「凍てつく風よ! 彼の者を包み込め! ブリザト!」
    「緩やかなる時よ! その流れに汝が身を委ねたまえ! スロウ!」
     リディアの生み出した冷気が魔物を包み動きを鈍らせ、ローザのスロウが魔物に流れる時間を遅らせる。
    「はぁぁっ!」
    「たぁぁっ!」
     気合を込めたセシルとモンク僧の一撃が、魔物に炸裂する。同時に、魔物の体がぶるぶると震えだす。それに気づいたギルバートがはっと息を呑んだ。
    「こいつは……そうか! マザーボム! みんな、気をつけてっ! 爆発する!!」
     その言葉と同時に、魔物の体が一気に膨れ上がる。
     咄嗟に、セシルはローザの前に出て盾をかざした。モンク僧も幼いリディアに覆いかぶさるように動く。
     そして、魔物が爆ぜた、瞬間。
    「凍てつく風よ! 我が前に吹き荒れよ! ブリザト!!」
     リディアの魔法が炸裂し、セシルたちの前に冷気が吹き荒れる。
    「――っ!」
     同時に爆風がセシル達を襲った。リディアが生み出した冷気によりその威力は若干軽減されたものの、その威力は絶大だ。
     肺をやられることを防ぐため、息を詰めてやりすごす。
    「くっ……魔物が」
     背中に爆風を受けたモンク僧が、膝をつきつつも先ほどまでマザーボムがいた場所に視線を向ける。
     そこには、マザーボムはいなかった。その代わりにボム三匹とボムの亜種のペイニーボム三匹の姿がある。普段ならセシル達の敵ではないが、この怪我では危うい。
    「う……くっ」
     全身に痛みを負ったギルバートは、痛みに呻きつつも竪琴を構え弦を弾いた。重傷を負っているとは思えない、見事な音色が流れる。
     穏やかな、子守唄。魔物たちはギルバートが奏でる音に聴き入っている。
     その隙に、モンク僧が庇ったため軽度の火傷で済んだリディアと、やはりセシルの盾とセシル自身が壁になったことで軽傷で済んだローザの詠唱が、綺麗に重なった。
    「「真白き光よ、優しき祝福よ! 我らを癒したまえ! ケアルラ!!」」
     完璧なユニゾンで唱えられた回復魔法は、セシル達の傷を完全に癒していた。
    「おお!」
     モンク僧が感嘆の声をあげ、機敏に立ち上がる。
    「ありがとう、ローザ! リディア!」
     セシルも立ち上がって剣を構えなおす。ローザとリディアは顔を見合わせ、笑みを交わした。
     それからの彼らの戦いは凄まじいものだった。ボムを自爆させないよう、各個撃破していく。セシルの剣が閃き、モンク僧の蹴りが炸裂し。ローザの弓の鳴弦が響き、リディアが召喚魔法を発動させる。その間、ギルバートが魔物たちの注意を逸らし続けていたことも大きいだろう。
     戦いはさしたる時間もかからずに、終結した。

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