腰に佩いた剣を抜き放ち、切っ先をゼロムスに向ける。
「――……行くぞ! ゼロムス!!」
セシルのその行動を合図にしたかのように、エッジが強く地面を蹴ってゼロムスに飛びかかった。
忍刀を抜き放ち、ゼロムスの身体に素早く斬撃を浴びせる。
セシルの隣にいたカインが高く飛び上がり、ローザとリディアが呪文の詠唱を開始した。
「万物を構成する原子よ! 我が魔力に応じて爆ぜよ……!!」
「我らに聖なる守護と盾を与えたまえ……!!」
ローザとリディア、世界でも指折りの白魔道士と召喚士が織りなす魔力に、空気がびりびりと震える。
「――フレア!!」
「プロテス!!」
ゼロムスに向かって光が爆ぜ、セシル達を魔力の衣が包み込む。
高く跳んだカインが槍を構えたまま落下し、ゼロムスの胴体に勢いよく槍を突き刺す。
セシルも剣の間合いに踏み込み、渾身の力で剣を薙ぐ。
確かな手ごたえとともに、ゼロムスが悲鳴を上げた。先ほどゴルベーザとフースーヤのメテオを受けた時とは、明らかに様子が違う。これがクリスタルの加護なのか、それとも青き星の仲間達の祈りの力なのか――……。
その時、一瞬、ゼロムスに光が吸い込まれたような気がした。それとともに襲ってくる虚脱感に、セシルは思わず膝をつきそうになる。
「……っ、ケアルガ!!」
もしもの事態に備えていたローザが、即座に回復魔法を発動する。
セシルはぐっと剣を握る手に力を込めた。
ゼロムスの力は恐ろしいほどに強大だ。それでも、少し前まで心を占めていた敗北感は微塵もない。
回復魔法で立ち直ったエッジが、風魔手裏剣を投げつける。ゼロムスの動きが僅かに鈍ったように思えた。
――……これなら、いける……!
そう感じた、その時。
「バイオッ!!」
黒魔法を放ったリディアに向けて、ゼロムスの腕が動く。
「――っ!!」
悲鳴を上げる暇すらなく、リディアの身体が吹き飛ばされた。
「っリディアッ!!」
血相を変えたエッジが振り返り、ローザがリディアに駆け寄る。
「リディア! 今、治すわ!!」
ごほごほと咳き込むリディアに、屈みこんだローザが手をかざす。その手を、リディアが握った。
「だい、じょうぶ……!」
そうして、リディアは一度だけこちらを見たまま動けないでいるエッジを見た。身体を起こすことも困難なくらいダメージを受けているのに、エッジを見るリディアの瞳はまったく力を失っていなかった。
五人で戦っていても、一進一退の状態だったのだ。セシルもカインもなんとか戦況を保たせてはいるが、いつまでもこの状態を続かせるわけにはいかない。
エッジの顔が一瞬だけ、強く歪む。けれど何かを振り切るかのように顔をゼロムスに向け、駆け出した。
リディアは薄く笑うと、心配そうにリディアを覗き込むローザに視線を向けた。
「ローザも、行って……! 三人だけじゃ、危ないよ……。あたしは、大丈夫。回復くらい、自分で、できるよ……!」
リディアの言葉に、ローザはふわりと笑ってリディアの頭を撫でると、立ち上がって仲間達の元へと駆けていく。
「……っ」
痛みに耐えながら、リディアは道具袋に手を伸ばした。
焦る気持ちを抑えて、回復薬を自分に使う。そして、よろよろとその場に立ち上がった。自分の体力ではゼロムスの強力な攻撃にはそう耐えられない。ならば、全快に時間を割くよりも足手まといにならないくらいに回復すればいい。そう思った。
リディアは、一度強く目を閉じる。
守られるよりも、守りたい。そう、強く思う。
そして、みんなであの星に帰るんだ――……。
その想いに呼応したかのように、胸が熱くなり、頭の中で声が響く。
私の名を呼べ。そんな声に、リディアは大きく頷くと、力いっぱい息を吸い、手を高々と掲げる。
「――我、リディアの名に於いて命ず! 来たれ、幻獣を司るもの。大いなる幻獣の神よ。汝の偉大なる力、ここに爆ぜよ。その巨大な力をこの場に示し、我が前の敵を屈服させたまえ!!」
巨大な魔力が渦巻くのが分かる。ゼロムスの視線がリディアに向いたのを感じながら、リディアは朗々と詠唱を紡いだ。
「我が呼び声に応えて出でよ! ――……幻獣神・バハムート!!」
リディアの魔力と声に応じて、バハムートが現れる。その口から光が爆ぜ――辺りが真白に染まった。