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    FINAL FANTASY W 〜祈りと絆・4〜

    「……にい、さん……」
     その言葉は、自分でも驚くほど自然に、するりと零れ落ちた。半ば、無意識だったようにも思う。
     セシルの声に、倒れたゴルベーザの身体がぴくりと動く。
    「セ……セシル……」
     今にも消え入りそうな声でセシルを呼んだゴルベーザは、抱えたままだったクリスタルをセシルに向けて差し出した。
    「こ、これを……! お前が、使うのだ……!」
     這いずるようにゴルベーザに近づいたセシルは、右手を伸ばしてクリスタルを受け取る。抱きかかえるように持ったクリスタルが、仄かに熱を帯びているように感じる。
     その熱に、ゼロムスの脅威に押しつぶされそうだった心が何故だか励まされたような気がして、セシルは硬く目を閉じた。
    「……ゼロムス……」
     敵はあまりにも強大で、それに比べると自分達はちっぽけで無力だ。仲間達は皆瀕死の重傷で、立場は劣勢。分かっている。
     それでも。
    「……負けるわけには……いかないっ!」
     諦めたら、そこですべてが終わってしまう。だからこそ、ここでただ死を待つわけにはいかない。例え無様でも見苦しくても、最後の最後までしがみついてやると、そう決めた。
     セシルの言葉に、ゼロムスが嘲笑するかのように震える。
     瞬間。
     クリスタルがさらに強く熱を帯び、暖かく柔らかな光を放った。
    「!?」
     ――……あんちゃん!
     ――……私たちの魔力を送るわ!!
    「パロ、ム……ポロム……」
     唇を震わせて、セシルは幼い双子の魔道士の名を呼んだ。
     クリスタルの明滅に合わせて、パロムとポロムの声が優しく響く。セシル達の身を案じているのが、クリスタルを通して伝わってきた。その優しい心が、セシル達に立ち上がる力を与えてくれる。
    「……うっ……」
     セシル達の後ろで、先ほどまでぴくりとも動かなかった仲間達が動いた気配がした。
     ――……みんな! 勇気を!!
     続いて、ギルバードの声が強く響く。そして。
     ――……成せばなる! 自分を信じろ!!
     アンナの元へ旅立ったはずのテラの声に、セシルはわずかに目を見開いた。賢者の魂は、ずっとセシル達を見守ってくれていたのだろう。
    「ギルバート……」
    「テラのおじいちゃん……!」
     セシルの後ろで、ローザとリディアが立ち上がった気配がした。
     ――……精神を集中させろ!
     ――……必ず、帰って来るんじゃぞ!!
     力強い二つの声の主の名を、カインが小さく呟いた。
    「……ヤン。シド……!」
    「……へっ」
     エッジが小さく笑みを浮かべつつ、しなやかな動作で立ち上がる。カインも立ち上がると、セシルの横に陣取った。
     仄かな熱を帯びたクリスタルを握る手に力を込めて、セシルは目を閉じる。
     セシル達の帰りを待ってくれている人達の祈りや願いが、倒れそうなセシル達を支えてくれている。
     旅の間に築き上げてきた仲間達との絆が、はっきりと形になった瞬間だった。
    「……月よ! 光を与えたまえ!」
     そして、ゼロムスのメテオの直撃を受けて倒れていたフースーヤが、渾身の祈りを月に捧げる。
     暖かなたくさんの光を受けて、セシルはゆっくりと目を開くと、ゼロムスに視線を向けたまま立ち上がる。
     先ほどまで感じていたはずの恐怖も絶望も、今はまったく感じなかった。
    「我が弟よ!」
     ゴルベーザの呼びかけに、セシルはぐっと顔を上げ、ゼロムスを見据えた。
    「お前に秘められた聖なる力を、クリスタルに託すのだ! ゼロムス!! 正体を見せるがいい!!」
     その言葉に導かれるかのように、クリスタルを高々と掲げる。セシルの動きに呼応するかのようにクリスタルが強く光を放った。辺りを真白に照らすほど、強い光。けれど何故だろうか。その光を見ても眩しさは感じず、温かさと力強さを覚えた。
     クリスタルを使用したセシル自身を現したかのような光が、ゼムロスを包み込み――……そして、ゼロムスが纏っていた重たい空気が霧散した。

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