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    FINAL FANTASY W 〜祈りと絆・3〜

     ミシディアの長老の館の奥にある、祈りの塔。魔導船の封印を解くために祈りを捧げたこの場所は、この青き星の中で一番月に近い場所だろう。
     バブイルの巨人を撃破した一同はこの場所に集い、この大地の未来と、そして何よりもセシル達が無事に帰還することを願っていた。
     そうして祈り始めて、どれくらいの時間が過ぎただろう。
     祈りの間の中央で祈りを捧げていた幼い双子の魔道士の肩が、同時にびくりと跳ねる。
    「……長老!」
    「あんちゃん達が!」
     パロムとポロムが、焦ったような表情で長老を振り返る。
     鋭敏な感覚を持つ魔道士達は、セシル達の危機を感じ取ったらしい。切迫した二人の雰囲気からそう察したヤンやギルバート、シドの表情に緊張感が走る。
     長老は、双子に分かっているというように頷いたあと、目を細めて月を見上げた。
     月からの不穏な気配が先程よりも強まっている。それは、長老も痛いほど感じていた。
    「うむ! 今こそ彼らの……いや、この大地のために祈る時! パロム! ポロム!」
     長老に呼びかけられた双子の背筋がぴんと伸び、その表情が一人前の魔道士のものへと変わる。長老が何をしようとしているのか、そして自分達が何をしなければならないのか。それを理解している、そんな顔つきだ。
    「皆の祈りを、わしらがセシル殿達の元まで送るのじゃ!」
     長老の言葉にパロムとポロムは力強く頷き、仲間達を見回した。その視線を受けて、まず最初に目を伏せたのはヤンだ。
    「……セシル殿……!」
     ヤンの脳裏に、いつだって自分を信頼して背中を預けてくれた聖騎士の姿が過る。たとえ今ともに戦えずとも、祈りがセシル達の背を支えてくれると信じて、ヤンは深く祈った。
    「今こそ、本当の勇気を……!」
     ギルバートは小さく呟いて、目を閉じた。
     アンナを失ってただ泣くだけだった自分を叱咤してくれた、暗黒騎士と幼い召喚士の少女の姿が思い出された。彼らがギルバートに本当の勇気を教えてくれた。その勇気が、彼らの力になるようにと祈りを捧げる。
    「ワシらが待っとるんじゃあ!!」
     セシル、ローザ、カイン、エッジ、リディア。皆、シドにとっては可愛い子供たちだ。その無事を願わない訳がない。彼らが笑顔で帰って来てくれれば、それでいい。
     シドのそれは祈るというより、叫びだ。魂のこもった叫び。それに応じるようにシドに従っていた技師達も目を伏せる。
    「無事に帰って来てください!!」
     ジオット王が地底では見ることが叶わなかった月を見上げ、そして目を閉じる。
    「この大地のためにも……!」
    「立ち上がって……!!」
     ジオット王の娘であるルカもまた、王の傍らで祈りを捧げた。
     トロイアの神官達も指を組んで祈った。
    「私達も祈ります……!」
     仲間達の祈りの力が集まってくるのを感じながら、パロムは目を閉じた。
     ミシディアを襲った悪い奴だと思っていたのに。試練の山で身を挺して庇ってくれた、暗黒騎士。そのあとにしてくれた肩車が、照れくさかったけど嬉しかったことは、内緒だ。出来ればもう一度、なんて願ってることも。
    「しっかりしろよ! あんちゃん!!」
    「セシルさん……! みなさん……!!」
     皆の心と祈りが祈りの間に満たされていくのを感じつつ、ポロムもまた目を閉じた。
     恐ろしい兜の下に、優しく悲しい瞳を隠した暗黒騎士。セシルの人となりを知るうちに、敵意は親愛へと変わっていった。優しく、人のためにどこまでも強くなれる人。みんなが、あなたたちの無事を願っている。
    「――……月よ! 我らが祈り……受け取りたまえ!!」
     長老が朗々と言葉を紡ぎ、両手を天へと掲げる。何か大切なものを空へとそっと送り出すかのような、緩やかな動作。その手のひらの向けられた先に、白く淡く輝く月があった。

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