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    FINAL FANTASY W 〜砂漠の光・4〜


     水面から躍り出た赤い身体に八つ足の魔物を見て、なるほどたこだなと思いながら、セシルは地下水脈で手に入れたハデスの剣を構まえ、テラもロッドを構える。そして、リディアは魔物の胴体が尖っているのを見て、きょとんとしたあと。
    「……いか?」
     小さく首を傾げた。緊張感のない言葉に、セシルは思わず脱力しそうになる。
    「……リディア……」
    「え〜……だってぇ。……頭がとんがってるのは、いかでしょ? あ、でも赤いし足八本だから、たこ? いか?」
     正確には頭ではなく胴体なのだがまあそれは置いておくとして。この状況で真剣に頭を悩ませるリディアは大物だとセシルは思った。
    「ええいっ! どっちでも同じじゃ! 焼けば食えるっ!!」
     そういう問題だったのだろうか。
     心の中で突っ込むセシルを余所に、テラは呪文を唱えだす。
    「赤き火花よ! 彼の者を焼き尽くせっ! ファイア!!」
     宣言どおりの炎の魔法に、辺りに香ばしい匂いが立ち込めた気がする。
     セシルは気を取り直して剣の柄を握り締めると、力強く岩場を蹴り、オクトマンモスに切りかかる。
    「はぁぁっ!」
     短い気合と共に、八つ足の一つが切り落とされた。
    「あと、七本だっ!」
    「輝ける光よ! 彼の者に裁きを! サンダー!!」
     セシルが飛び退いた瞬間を狙って、リディアの魔法が炸裂する。
    「ろくっ!!」
     セシルを真似たのか、リディアが叫んだ。
    「いや、五じゃ! 赤き火花よ、彼の者を焼き尽くせ! ファイア!!」
     戦闘には勢いと高揚感も必要だと知っている賢者も、力強く声を上げる。
    「四っ! ……三!!」
     舞うような剣捌きに、オクトマンモスの足はどんどんと使い物にならなくなってゆく。そして。
    「あと、二本と頭っ!」
     リディアの言葉通り、残ったのは二本の長い足と胴体部分のみだ。
    「さすが暗黒の使い手! 奴の動きも鈍りおった! じゃが気をつけるんじゃっ。手負いの一撃は怖いぞ!!」
     テラの叫びと同時に、オクトマンモスが二本の足を使った渾身の一撃を放つ。セシルは咄嗟にそれを盾で受ける。しかし。
    「……っ!? うわぁぁぁっ!」
     その勢いを受けきれず、その場から吹き飛ばされた。
    「セシル!?」
    「待っておれ! 回復じゃ! 真白き光よ、優しき祝福よ! 彼の者を癒したまえ! ケアルラ!!」
     セシルの身体を、ケアルよりも強い癒しの光が包み込む。瞬時に傷の癒えたセシルだが、あまりの衝撃に小さく咳き込んだ。それでも顔を上げると、その視界に映ったのは次の標的を定めた魔物の姿だ。その視線の先には、幼い召喚士の姿が。
    「危ないっ! リディア!!」
     甲冑にもを包んでいるセシルでさえ、これ程のダメージを受けたのだ。小さくか弱いリディアでは、下手をすれば命がない。
     だが、リディアは動かなかった。固く目を閉じ、ロッドを高々と掲げ、朗々と詠唱を開始する。
    「我、リディアの名に於いて命ず。来たれ、大地を力強く駆けるもの。雄々しきものよ! 我が呼び声に応えて出でよ! 黄金の鳥獣……」
     オクトマンモスの足がリディアに向けて振り上げられた瞬間。リディアはかっと目を見開いた。幼い少女を中心に魔力の風が翻る。
    「チョコボ!!」
     リディアの呼びかけに虚空より現れたのは、チョコボと呼ばれる巨大な鳥だ。空を飛ぶことは出来ないが、脚力が強く時に人をその背に乗せて大地を走る鳥獣である。
    「チョコボ! お願いっ!!」
    「クエーーッ!!」
     リディアの声に応えるように高らかに鳴くと、チョコボはリディアに振り下ろされた足を弾き返し、その強力な足から繰り出される蹴りをオクトマンモスに叩き込む。
     ぐらりとオクトマンモスの体が傾ぐ。それを見届けたチョコボの姿が、虚空へと消えた。
    「これが……召喚魔法か!」
    「すごい……」
     テラとセシルが同時に呟く。賢者と呼ばれるテラも召喚魔法を目の当たりにしたのは初めてらしく、その声は感嘆に満ちていた。
    「セシルッ! テラのおじいちゃん! もうちょっとだよ!」
     さすがに消耗が激しかったらしく、肩で息をするリディアに、セシルは大きく頷いた。テラもロッドを強く握りなおす。
    「赤き火花よ! 彼の者を焼き尽くせ!! ファイア!」
     テラが炎の魔法を放ち、それを追撃するようにセシルは全力で剣を振り下ろした。
    「とどめだっ!!」
     セシルの渾身の一撃を受けて、オクトマンモスが水中に沈む。
    「やりおったか!」
     テラがぐっと拳を握り締め、リディアが大きく息をつき、その場にへたりこむ。
    「リディア!?」
     慌てて駆け寄るセシルに、リディアは笑いかけた。
    「だいじょぶ……。戦いで召喚魔法使ったの、はじめてなの。……疲れちゃった」
    「そうだったのか。……ありがとう、リディア。お陰で助かったよ」
     リディアが本当? とでも言うように見上げてくるので、セシルは大きく頷いてみせる。近付いてきたテラもリディアの頭を撫でて、大きく頷く。
    「うむ! 大したものじゃ! この賢者が言うのだから間違いないぞ」
     テラの言葉にリディアは頬を紅潮させ、嬉しそうに笑った。

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