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    FINAL FANTASY W 〜砂漠の光・2〜


    「輝ける光よ、彼の者に裁きを! サンダー!!」
     リディアが魔力を解き放つと、セシルに突進しようとしていた魚型の魔物・フライキラーに雷が落ちた。
    「はぁぁぁっ!!」
     サンダーで焼け焦げたフライキラーの横をすり抜け、セシルはシーボッツという貝の魔物に止めを刺す。
    「はぅ……」
     セシルは剣を収めると、背後で安堵の息を吐く少女を振り返った。
     リディアの希望もあって一緒にダムシアンに行くことにしたものの、彼女のことは命に代えても守らなくてはならないと思っていたのだが。
     リディアの成長と活躍は凄まじかった。使える魔法の数は限られているものの黒・白両魔法を操るリディアに助けられたことは一度や二度ではない。
     この幼い召喚士の少女が類まれな才能を秘めていることは、魔法に疎いセシルにも分かった。
    「リディア、怪我はないかい?」
     リディアは小さく肩で息をしながらも頷く。先程から魔法を使いっぱなしのリディアの消耗は、子供だということを差し引いても、激しいはずだ。
    「へーき。……セシルは?」
    「僕も大丈夫。……じゃあ、行こうか」
     セシルはそう言ってゆっくりと歩き始める。急ぐ気持ちがないわけではないが、同時にリディアに無理をさせたくはない。
    「……セシル、急ごう? お姉ちゃんが心配だよ」
     そんなセシルの心の内を読んだかのように、リディアがセシルを見上げる。
    「あたしなら、大丈夫だから。……あのお姉ちゃん……セシルの大事な人なんでしょ?」
     リディアの優しい心遣いに、セシルは笑った。足を止め、リディアと視線を合わせるために膝を付く。
     この優しい少女に、己の心を偽ることは出来ない。
    「そうだよ。……でもね、僕にはリディアも大事なんだ。それに、ローザはきっと大丈夫。彼女はああ見えて強い人だからね」
    「……でも」
    「それに、ローザのためにリディアに無理をさせたら、僕がローザに怒られちゃうよ」
    おどけて言えば、リディアが小さく笑う。
    「焦ってると大事なものを見落としちゃうかもしれないしね。……ちゃんと注意しながら行かないと」
     セシルの言葉に、リディアはしばし考え込むようにした後、頷いた。
    「……うん。分かった」
     セシルは頷き返して立ち上がる。ふと、道の先に人影があることに気がついた。
    「セシル。……誰かいるよ」
     リディアも気付いたらしく、首を傾げる。
     こんな魔物だらけの地下水路に人影だなんて。
    「……おじいちゃん?」
     リディアの言うとおりだった。老眼鏡をかけ魔道士の格好をした初老の男性が道をふさぐように立っている。
    「……どうかしましたか?」
     セシルが尋ねると、老人はまじまじとセシルを見つめ、かっと目を見開く。
    「そなた、暗黒騎士か!」
     初対面なのにも関らず不躾な問いかけに、セシルは思わず仰け反りながらも頷いた。
    「え、ええ……」
     セシルの態度など気にした風もなく満足げに頷いた老人は、次いでセシルの隣に立つリディアに目を留め、微かに目を細めた。
    「おや……この子は……」
     その視線に、リディアが怯えたような表情をし、セシルの後ろに隠れる。
    「失礼ですが、あなたは?」
     声に警戒を滲ませながら問いかけると、老人は決まり悪そうにあごひげを撫でた。
    「……いきなり失礼をしてすまなかった。私はテラ。ダムシアンに向かいたいのじゃが、この先の魔物に難儀しておる」
     老人の名乗りに、今度はセシルが目を見開く番だった。
    「テラ……? それでは、あなたが賢者テラ!」
     賢者と呼ばれた老人は、複雑そうに眉をしかめる。
    「昔の話じゃ。……して、おぬし達は?」
    「僕はセシル、この子はリディアです。仲間がカイポで高熱病に倒れ、それで……」
     テラは小さく唸り、眉をひそめた。
    「砂漠の光か。高熱病はあれがなければ私にもどうにもできん。……セシルといったか」
    「はい」
     テラはセシルをじっと見つめた。兜越しだというのに、心の中まで覗き込まれているような気がして、セシルは落ち着かない気分になる。
    「私も、向かう先はダムシアンじゃ。だが、一人でこの地下水脈を突破するのはちと厳しい。……手を貸してはくれぬだろうか」
     セシルは迷わずに頷いた。断る理由がない。むしろ、こちらから願い出たいほどだ。
    「はい。よろしくお願いします」
    「うむ。私の魔法をおぬしの暗黒の力があれば、いかな奴とて、一溜りもあるまい」
     テラは力強く頷くと、セシルの後ろに隠れたまま自分を見つめるリディアに柔らかな眼差しを送った。
    「よろしくの、リディア」
    「……うんっ! テラのおじいちゃん」
     テラの優しい笑顔を見て、リディアはようやく笑顔を浮かべた。

     テラの加入により、戦闘は数段楽になった。テラは長い間魔法を使用していなかったせいで習得した魔法のほとんどを忘れてしまっているのだが、その絶大な魔力は健在だ。
    「リディア! 回復っ! テラ、ブリザトをっ!」
    「真白き光よ、彼の者を癒したまえ! ケアル!」
     リディアの回復魔法がセシルの傷を癒し。
    「凍てつく風よ、彼の者達を包み込め! ブリザト!」
     テラの放つ冷気が残った敵を一掃する。セシルは剣を収め、乱れた呼吸を整えた。リディアとテラの呪文の詠唱を邪魔させないように、セシルは常に前線で戦っている。その分、動きも激しくなり体力の消耗も激しい。
    「確か、この先に結界があったはずじゃ。今日は私のテントで休もう」
     テラの言葉通り、しばらく進んだ先の小部屋の床には青く輝く魔法陣があった。
    「この中には魔物は入って来れぬからな。ここで体力を回復させねば、奴に立ち向かうことも出来ん」
     休むというテラの言葉に、さすがに疲労を隠しきれなくなっていたリディアが、ほうっと大きく息を吐いたのだった。

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