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    FINAL FANTASY W 〜砂漠の光〜


    「お嬢ちゃん、元気になったんだね。よかったなぁ」
     宿の主人に頭を撫でられたリディアは、嬉しそうに目を細めた。
    「うんっ。ありがとう、おじちゃん!」
     宿を出る時、何度も後ろを振り返っては主人に手を振るリディアを、セシルは穏やかな眼差しで見つめる。その視線に気付いたリディアが、セシルを見上げて首を傾げた。
    「なぁに?」
    「何でもないよ」
     微笑んで言うセシルの言葉に納得がいかないらしい。リディアは再度首を傾げる。
    「変なセシル」
     足を砂に捕られたのだろう。よろけるリディアにセシルが左手を差し出せば、リディアは照れたように笑って、小さな右手を絡ませてくる。
    「……どこ行くの?」
    「そうだなぁ。ちょっとこの村を見て回ろうか。情報収集しないと」
     応えながらも、この少女の心の強さと健気さに感心した。親の仇である自分に笑いかけることが出来るなんて。
    「? ……じょうほう、しゅうしゅう?」
    「ああ……ええっと色々な人に話を聞いてみようってこと」
    「そっか。それで、これからどこに向かうのか決めるのね!」
     僅か七歳のこの少女は聡明だ。閉鎖された村ですごしていた為世間知らずではあるが、物凄い速さで色々なことを吸収していく。
     彼女は恐らく、昨夜の一件で気付いてしまったのだろう。自分の存在が危険視され狙われていること。そして、自分が生き残るためにはセシルに縋りつくしかないこと。そして、一つのところに長く居続けることが出来ないということに。
     だからこそ、彼女の口からは先程から「どこに行く」という言葉が出ているのだと思う。
    「そうだよ。よくわかったね」
     そう言いながら、先程宿屋の主人がしていたようにリディアの頭をふわりと撫でる。慣れない動作でぎこちなくはあったが、リディアは嬉しそうに笑った。
    「あ、第一村人発見!」
     リディアが指差した先には、優しそうな顔をした青年が立っている。
    「本当だ。ちょっとお話してみようか」
    「うんっ。……こんにちは〜」
    「こんにちは。……あれ、見ない顔だなぁ。旅人?」
     青年の言葉にセシルは曖昧に頷く。
    「……ええ、まぁ」
    「旅人っていえばね、さっきそこの家にすっごい綺麗な人が運び込まれたんだって」
     その言葉を聞いたときセシルの脳裏を駆け巡ったのは、行方不明の親友の姿だ。城内では外すことのない竜を模した兜の下の顔が大層整っているのは、彼に近しい者ならば誰でも知っていることだ。
    「へぇ〜。お兄ちゃんその人見たの? 男の人? 女の人?」
     セシルが己の思考に沈んでいる間に、リディアが質問を返していた。
    「僕は見なかったけど……女の人だって。金髪の。何でもバロンから来た白魔道士だとか何とか……」
     その言葉にせしるはびしりと硬直した。カインに変わって脳裏に浮かんだ面影を即座に否定する。
     いや、まさか。彼女のはずが。
     セシルの様子が変わったことに気付いたリディアが、セシルを見上げ一度だけ瞬く。
    「えっと……そのお姉ちゃんがいるのって、あそこの家、だよね?」
    「うん。……知ってる人かい?」
    「……かも、しれないの。だから行ってみる! お兄ちゃん、教えてくれてありがとう」
     愛らしいリディアの笑みに、青年は相好を崩した。リディアは青年に大きく手を振ると、セシルを引っ張って歩き出す。
    「うぇっ!? リ、リディア?」
     混乱から抜け出せていないセシルは、この状況は何なのだろうと戸惑うばかりだ。
    「……そうなんだよね?」
     リディアの問いに、再び彼の人の面影がちらつく。
    「……ああ」
    「じゃあ、行こう?」
     これではどちらが大人なのか分かったものではない。セシルは苦笑を浮かべて頷いた。

    「ローザ!!」
     まさかというか、やはりというか。噂の女性はローザのことだった。
     ローザは額に玉のような汗をたくさんかき、苦悶に眉をしかめている。
    「ううん……。セシル……死なないで、セシル……」
     繰り返されるうわ言に、セシルは咽の奥が熱くなった。
     君は、こんなになっても……。
    「あんたが、セシルさんだね?」
     家主の老婆の言葉に、セシルは無言で頷く。
    「さっきからずっとこうなんだよ。可哀相に、高熱病にやられたんだね」
    「高熱病、ですか?」
    「砂漠の乾いた風と熱にやられたんだろう。……高熱病には砂漠の光が特効薬なんだけどねぇ。ダムシアンの王族にしか行けない洞窟にあるんだよ」
     老婆は小さく息を吐いた。特効薬がなければ、あとは彼女の体力にかかってくるのだろう。だが、医学に詳しくないセシルでも分かる。彼女の状態は危うい。
     セシルは頭の中にこの近辺の地図を思い浮かべた。商業国家ダムシアンはこのカイポの北方に位置するはずだ。
    「……ダムシアンへの行き方を教えていただけますか?」
    「村の北の地下水脈を越えるしか方法はないねぇ。だが、最近奥の方に魔物が住み着いたって話だ。……行くのかい?」
    「はい。このままでは彼女の命が危うい。……申し訳ありませんがローザをよろしくお願いします」
    「任せておきな。……気をつけて行くんだよ」
    「はい。ありがとうございます」
     セシルは深々と頭を下げると、膝を付いて、セシルの隣で心配そうにローザを見つめるリディアと視線を合わせた。
    「お姉ちゃん……苦しそうだね。かわいそう……」
    「うん。僕はダムシアンに薬を取りに行ってくる。リディアは……」
    「あたしも行く!」
     セシルの言葉を遮って、リディアはまっすぐにセシルを見る。
    「あたし、少しなら魔法使えるの。戦えるよ。……だから、ひとりにしないで……」
     翡翠の瞳が不安に揺れる。セシルはリディアの頭を撫でた。先程よりは上手く撫でられた気がした。
     本当は危険な目になど遭わせたくないのだが。
    「分かった。一緒に行こう、リディア」
     リディアの顔がぱあっと明るく輝く。
    「うんっ!」
     セシルはリディアと手を繋ぐと、ちらりと一度だけローザを振り返った。
     彼女を救ってみせる。絶対に。

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