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    FINAL FANTASY W 〜懺悔と決意・4〜

     ゴルベーザとフースーヤの姿が扉の向こうに消えても、セシルは動くことはおろか、顔を上げることさえも出来なかった。
     エッジが、セシルを振り返る。
    「……いいのかよ……。セシル?」
    「……あの人……。……死ぬ気よ……」
     ローザもまたセシルを見てそう言った。
    「……」
     二人の言葉にも何も返せないで俯いていると、リディアがセシルの顔を覗き込んで言った。
    「お兄さん、なんでしょ?」
    「……兄、さん……」
     実感がないながらも掠れた声でそう呟いたセシルの腕を掴んで、リディアはセシルを見上げてくる。その顔はひどく真剣でどこか悲しそうだ。
    「そうよ! たった一人の……家族なんでしょ!?」
     その言葉に、セシルがはっと息を呑み顔を上げると、振り返ったエッジと目があった。エッジの表情もとても真剣で、セシルは再度息を呑む。
     リディアのたった一人の家族は、セシルが奪った。エッジの両親を奪ったのは四天王ルビカンテだ。
     二人とも間接的にだがゴルベーザに家族を奪われ、ゴルベーザを倒すためにここまで来たはずだ。なのに、どうしてセシルにそんな風に言えるのだろう。そんな風に言える強さがあるのだろう。
     そう思って改めて感じるのは、己の弱さだ。ゼムスの思念を受けずにすんだのは、決してセシルだけの力ではない。
     強く厳しく優しく育ててくれたバロン王、父親のように可愛がってくれたシド。友でありライバルであるカイン。セシルをいつも傍で支えてくれたローザ。そして、この旅の中で出会ったたくさんの仲間達。その存在のどれかひとつでも欠けていたら、セシルはきっとこの場にはいなかったに違いない。
     みんなが傍で支えてくれた。そして、時には背中を押してくれた。だから、憎しみに染まらずにいられたのだ。そんな環境の違いこそが、セシルとゴルベーザの運命を隔てたのだろう。
    それを考えると、唯一の兄を憎むのは間違っているように思う。けれど、今までの戦いや悲劇を思い出すと簡単に許すことは出来ず、また許していいのかすら分からなくてセシルの胸中は複雑だ。
     決断を下さねばと思うのに、どうすればいいのか答えが見つからない。思考は同じ個所をぐるぐると彷徨ったままだ。
     その時だ。どんっという大きな音とともに床が大きく揺れたのは。
    「っ!?」
     その大きな振動の後も、床が小刻みに揺れている。制御システムを破壊したことで、外の飛空艇団と戦車隊の攻撃が巨人に効くようになったはずだ。つまり、これは外からの攻撃による振動だ。
    「やべーぜ! 早く脱出しねーと!」
     エッジが叫ぶ。早くしないと、巨人と運命をともにすることになってしまう。リディアが周囲に視線を巡らせた。
    「で、でも……出口は!?」
     状況から見て巨人に侵入した口の部分まで戻っているような余裕はなさそうだ。リディアのその疑問に応じたのは、セシルでもエッジでもない男性の声だった。
    「――こっちだ!」
    「カイン!?」
     駆け寄ってきた竜騎士の姿にローザが目を丸くし、エッジが警戒感をあらわにする。
    「てめー! 今度は何しようってんだ! その手には乗らねーぞ!?」
     今までの経緯を考えれば、エッジがカインの行動に不信を抱くのは無理もない反応だろう。
    「いいからついてこい! ここで死にたいのか!?」
     カインのその言葉に一番最初に動いたのは、ローザだった。ローザはカインに駆け寄り、仲間達を振り返る。
    「……早く!」
     カインを信じるわけではないがローザを一人で行かせるわけにはいかない。それに、カインを信じずにここに残っても、脱出出来ずに死ぬだけだ。そう判断したエッジは、黙ったまま地面を蹴った。それに僅かに遅れて、リディアとセシルも走り出す。
     先程ゴルベーザ達が姿を消した扉の向こう、制御室の奥の部屋には転移装置があった。そこから、巨人からなるべく離れた地点を指定して転移装置を作動させる。あまりに巨人に近い場所では爆撃に巻き込まれる恐れがあるからだ。
     制御システムを壊された巨人は、ただの巨大な人形でしかない。
     セシル達が安全を確保するために魔導船に乗り込み、魔導船が宙に浮いた、その瞬間。
     飛空艇団と戦車隊の猛攻撃をなす術もなく浴びていた巨人の身体が大きく傾く。
     そして、大きな地響きと土煙をたてて巨人は地面へと倒れ伏した。この大地に生きとし生ける者達の勝利の瞬間だった。

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