「おのれぇぇぇっ! よくも巨人を……っ!!」
扉の向こうから現れた黒い甲冑の男に、セシル達の空気が張り詰める。
四天王、そして制御システムとの戦闘を繰り広げてきたセシル達に、ゴルベーザと戦う余力はほとんど残っていない。
唇を噛みしめるセシルの横で、フースーヤがはっと目を見開き息を呑んだ。
「おぬしは……!」
そのあまりの驚きように、ゴルベーザも含め全員の視線がフースーヤに集中した。
「何だ、貴様は?」
ゴルベーザの反応に、フースーヤは眉をしかめて一歩前に出た。
「おぬし……。自分が何者か、分かっておるのか!?」
フースーヤの手に光が集まる。事態についていけないセシル達は、フースーヤとゴルベーザのやりとりを呆然と見守っていた。今のやりとりで分かったことといえば、フースーヤはゴルベーザを知っているらしいということくらいだ。
「目を、覚ますのだ!」
そんな言葉とともに、フースーヤが光を放つ。
「……っやめろっ!」
一歩後退し叫ぶゴルベーザを、白い光が包み込んだ。
その光は、一瞬で晴れた。ゴルベーザがダメージを受けた様子はないから、今の光は攻撃魔法ではなかったのだろう。
光を受けたゴルベーザは軽く頭を振ると、ゆっくりと己の手のひらを見下ろした。その動作は、何かに戸惑っているようにも見える。
「……私はなぜ、あんなに憎しみに駆られていたのだろう……」
ゴルベーザの声と言葉は、落ち着いていた。そして、セシルは気付く。ゴルベーザから発せられていた憎悪の気配が消えていることに。そのせいか、ゴルベーザの雰囲気自体が変わったようにも思える。
フースーヤは安堵したようにほっと息を吐くと、がくりと膝をつく。今の術は相当の力を使うものだったらしいことは、フースーヤの額の汗と荒れた息が物語っていた。
肩で息をしつつも、フースーヤはゆっくりと口を開く。
「自分を取り戻したか……。おぬし、自分の父親の名前を覚えているか?」
フースーヤの問いかけに、自分の手を見下ろしていたゴルベーザはゆっくりと頭を上げ、視線をフースーヤに向ける。
「父……? ……クルー、ヤ……」
一瞬、ゴルベーザの言葉が理解できなかった。そして、その単語の意味に気付いたセシルは大きく目を見開く。セシルの隣のローザも息を呑み、口元を両手で覆った。
「それじゃあ、セシルの……!」
「兄貴ってことかよ!?」
ローザとエッジが戸惑いの声を上げる。リディアも戸惑いの表情でゴルベーザを見つめている。
「ゴルベーザが、僕の……」
フースーヤは悲しげに顔を歪ませる。
「おぬしは、ゼムスの強力な思念に利用されていたのだ。……おぬしに流れる月の民の血が、奴の邪悪な思念により呪縛を受けていた。……クルーヤの血を引く兄弟が、戦う、など……」
そこで、フースーヤの身体から力が抜けた。どさりと音を立てて、床に倒れ込む。
「じーさん!」
エッジとローザが慌ててフースーヤに駆け寄った。
フースーヤの言葉に衝撃を受けたセシルは、呆然と呟く。
「僕は……兄を憎み、戦って……!」
「お前が、私の……」
ゴルベーザの視線が、セシルに向けられる。だが、セシルは視線を合わせることが出来なかった。
事態に心がついていけない。どんな顔で何を言えばいいのか、分からない。今までずっと倒すことしか考えていなかった男が兄だと言われても、どうすればいいというのだろう。
ただ、ひとつだけ思うことがある。
セシルとゴルベーザが兄弟で、月の民の血が流れているというのなら。
「でも……もしかしたら、逆の立場かもしれなかったんだ。僕がゼムスの思念を受けていれば……」
この青き星を破壊しようとしたのは、セシルの方だったのかもしれない。そう思うと、とても恐ろしい。だが、可能性がなかったとは言い切れない。
しかしゴルベーザはゆっくりと首を横に振る。
「いや……。私は、少なからず悪しき心を持っていた……」
「……え?」
「私は……お前を、見捨てたのだ……」
ゴルベーザのその言葉に、セシルは大きく目を見開いたのだった。