四天王と戦った場所の先にある転送装置。その装置の転送先が、巨人の制御室だった。
部屋の中央に、黒く巨大な丸い物体が浮遊している。そして、その左右には少し小さ目の球体が、部屋中央の球体を守るかのように浮いている。
セシル達の侵入を察知したのか、部屋中に警報がけたたましく鳴り響く。
「……あれが?」
「そう、制御システムだ。左右の球体は、防衛システムに迎撃システム。厄介なのは、迎撃システムだ。透過レーザーの威力は侮れぬ」
「分かりました。迎撃システムから叩きましょう」
フースーヤの言葉に、セシルは頷く。
「その次は、防衛システムを倒せばいいのかい?」
防衛システムと言うからには制御システムを守護する存在のはず。それを先に撃破するというのは、理に適った戦略のはずである。だが、フースーヤは首を横に振った。
「いや。制御システムは一体になると攻撃を開始しつつ防衛システムと迎撃システムを復活させるというプログラムだったはず。それに防衛システムは他のシステムを修理するという性質上、属性攻撃を吸収するプログラムが組まれているから、別の意味で厄介だ。攻略しやすい制御システムを先に叩いた方がよかろう」
「……なるほどな」
そう言って、エッジは忍刀を抜き放つと、体勢を低くし身構える。
その時、制御システムが明滅を始めた。そして、制御システムの目の前に一瞬だけ光の盾が見える。
「リフレク!?」
その光を見て、ローザが叫んだ。その言葉に、リディアは数度瞬いて首を傾げた。
「……魔法の全体化はしないで、迎撃システムから攻撃すればいいのね?」
元々、フースーヤの助言のとおり、迎撃システムから叩くつもりだったので、制御システムにリフレクがかかったとはいえ、セシル達が取る行動に変わりはない。
「そうだね。リディアの言うとおり、まずは迎撃システムだけを狙う。……行くよ、みんな!!」
セシルの掛け声に応じるように、エッジが地面を蹴った。
瞬く間に迎撃システムとの間合いを詰め、素早く切り付ける。その後を少し遅れて、セシルも駆ける。そして、セシルが一太刀を浴びせ、飛び退いたところで。
「サンダガ!!」
フースーヤが魔力を解き放った。真白の雷が迎撃システムに降り注ぐ。その雷の中で、迎撃システムが明滅したかと思うと、光が走った。
「――っ!?」
肩を打ち抜く光に、セシルは悲鳴をかみ殺す。細い光の筋だったのに、肩を貫通するなんてものすごい威力だ。今のが、先ほどフースーヤが言っていた透過レーザーだろう。
「……ケアルガ!」
こんな時のために待機していたらしいローザが、即座に回復魔法を発動させる。レーザーによる傷が瞬時に癒えていく中、リディアが魔力を開放した。
「――ラムウ!」
呼びかけに応じたラムウが現れ、杖を掲げた。そして、ラムウの放つ裁きの雷が三つの球体に襲いかかる。幻獣の放つ力は、リフレクに反射されることなくダメージを与えることが出来る。
雷が止んだ時、迎撃システムは白煙を上げつつも何とか宙に浮いているような状態だった。
そこにエッジが再び駆け寄り高く跳ねると、迎撃システムの上に飛び乗り忍刀を突き立てた。そして刀を引き抜くと、迎撃システムを蹴って制御システムの方向へと高く跳躍する。
エッジの忍刀が刺さっていた部分から火花が散り、迎撃システムが爆発した。
その爆風を背後に感じながら、セシルも制御システムとの間合いを詰めて斬りかかる。セシルの剣が傷つけた場所に、ローザの弓とエッジの手裏剣が正確に突き刺さる。
「狂戦士の魂よ、彼の者に宿れ! バーサク!」
フースーヤが杖の先端をエッジに向けて白魔法を放つ。対象者をしばしの間狂戦士化させる白魔法だ。
バーサクを受けて狂戦士化したエッジが、いつも以上の素早さで制御システムに近づくと、素早く重い二連撃を浴びせる。その瞬間、警戒音がぴたりとやんだ。
「!? ……止まった!?」
ローザが小さく声を上げる。宙に浮いていた制御システムが、重々しい音をたてながら床に転がった。そこかしこから白煙も出ている。
制御システムは止まったようだが、まだ戦いは終わっていない。防衛システムを残すわけにはいかないからだ。
防衛システムが他のシステムの修理を担っているなら、残しておけば制御システムを修復される恐れがある。今、倒さなければならないということは、考えるまでもない。
だが、防衛システムは属性攻撃を吸収するという。ならば、物理攻撃で倒すか、無属性魔法攻撃で倒すしかない。
そんなセシルの思考を破るかのように、リディアの詠唱が響いた。
「――……万物を構成する原子よ! 我が魔力に応じて爆ぜよ! フレア!!」
防衛システムを中心に、爆発が起こる。
「おお、すっげ……!」
初めて目の当たりにするフレアの威力に、エッジが小さく口笛を吹く。爆発が収まったあとには、完全に壊れた防衛システムが床に転がっていた。
セシルはふうっと息をつく。そして、今まで巨人の内部に微かに響いていた機械音が止まったことに気付いて、セシルは顔を輝かせた。
「やった!」
エッジもまた、歓喜の声を上げる。
「巨人の動きが止まったぜ!」
だが、次の瞬間、エッジが目を細め、部屋の奥に視線を向ける。
「……エッジ?」
リディアが問いかけた、その瞬間。この部屋の奥にあった扉が、しゅんっと音をたてて開いたのだった。