「待ちかねたぞ!」
口元に薄く笑みを浮かべて、炎のルビカンテがセシル達に声をかける。
「ほっほほほ! 巨人は止まらぬ!」
風に長い髪をなびかせた風のバルバリシアが妖艶に微笑む。
セシルは剣の柄に手をかけ、エッジが忍刀をすらりと抜いた。
水のカイナッツォが笑い声を上げた。
「クカカカカ……! ここから先には進めぬぞぉ!」
「ふしゅるるる……お前たちは、ここで屍になるのだからな!」
そう言ってにやりと嫌な笑みを浮かべたのは、土のスカルミリョーネだ。
「四天王……!」
セシルが剣を抜いて身構えるとほぼ同時に、仲間達が低く身構える。
「ゼムス様より授かったこの力……」
「そして授かったこの命で……」
「お前達を、殺す……!」
スカルミリョーネ、カイナッツォ、バルバリシアが口々にそう言う。
「また、お前達と戦えるとはな! だが、我らもこの前とは一味違うぞ。お前達に教えられたのだからな。力を合わせて戦うということを……」
ルビカンテがばさりとマントをはらう。朗々と語るその声は、歓喜に満ちていた。
「さあ、回復してやろう」
その言葉とともに、セシル達を淡い回復の光が包み込む。
「――持てる力の全てで、かかってこい!!」
エッジが力強く地面を蹴るのと、スカルミリョーネが一歩前に出たのはほぼ同時だった。今回は最初から獣型の姿だ。本気だということだろう。
「貴様らなぞ、新たな力を得たこの土のスカルミリョーネ一人で葬り去ってくれるわ!!」
我が強く、功名心が高そうな四天王が力を合わせられるのかと思ったが、さすがに肩を並べて戦うことはしないようだ。長期戦にもちこんで、セシル達の消耗を狙っているのだろう。
実際、四天王と四連戦するのだ。状況はかなり厳しい。だが、ここで負けるわけにはいかないのだ。
セシル達の敗北は、外で巨人を押しとどめている仲間達の死をも意味するのだから。
「はっ! 弱い犬ほどよく吠えるってな! でかい口叩いて、吠え面かくなよ!?」
エッジが鼻で笑い飛ばすと、スカルミリョーネの腕に切りつけた。
「我らに、聖なる守護と盾を与えたまえ! ――プロテス」
フースーヤの放ったプロテスの光がセシル達を包み込んだ。
スカルミリョーネが腕を大きく振り上げる。その狙いはフースーヤだ。セシルはフースーヤの目の前に滑り込み、盾をかざす。その瞬間、太い腕が振り下ろされた。
がつんと鈍い音が響き、腕が弾かれる。相変わらず、力が強いらしく盾を支えていた両腕がびりびりとした。
「――……聖なる祝福と大いなる慈悲にて、我らを癒したまえ! ケアルガ!!」
一番強力な回復魔法が、スカルミリョーネに向かって放たれる。スカルミリョーネが苦悶の声を上げた。人々を癒す白魔法も、死霊であるアンデットにとっては有効な攻撃手段となる。
もがき苦しむスカルミリョーネに向かって、エッジが手裏剣を投げつて飛び退る。
同時にリディアの召喚魔法が完成した。
「……来たれ、煉獄の覇者。灼熱を統べし者よ! 地獄の火炎にて全ての邪悪を灰塵と化したまえ! 我が呼び声に応えて出でよ。炎の魔人――イフリート!」
召喚に応じて現れたのは炎をまとった鬼だ。イフリートがスカルミリョーネに向かって駆けていく。そして、地獄の炎がスカルミリョーネを包み込んだ。
「――っ!?」
スカルミリョーネが声にならない悲鳴を上げ、がくりと膝をつく。しかし、その巨体はまだ倒れてはいない。
セシルは剣の柄を握りしめると、一歩踏み込んだ。
前にスカルミリョーネと戦った時、セシルは暗黒騎士であるがゆえに何も出来なかった。だが、今は違う。聖騎士であるセシルが使う聖剣は、アンデットにとっては脅威となる武器だ。
気合とともに剣が斜め上から振り下ろされ、スカルミリョーネの身体を引き裂く。
「ゼムス、様……!」
床に倒れたスカルミリョーネが小さく呟いたのを聞きつつ、セシルは残りの四天王に視線を向ける。
「クカカカカ……! スカルミリョーネを倒したからと、いい気になるなよぉ……!」
特徴的な笑い声を上げながら、水のカイナッツォが一歩足を踏み出したのだった。