「月の民ぃ?」
エッジが眉をしかめる。
警戒感も露わのその口調が、エッジが緊張を解いていないことを物語っている。
「……遥か昔のことだ。火星と木星の間にある星が絶滅の危機に瀕した。その星の者たちは星の船で脱出し、青き星に移住しようと考えた」
「……青き星?」
セシルの問いかけに、フースーヤが頷く。
「そなたらの住む大地のことだ。だが、その時青き星は進化の途中だった。その者達は進化を妨げてはならないと考え、青き星の住民が我々と対話できるように進化するまで、もう一つの月を創りだし、長き眠りにつくことにした」
「そんな、ことが……。それが、月の民……」
ローザが目を丸くして、呟く。衝撃的な内容ではあるが、自分達は実際に月に来て、その地に住む者と話している。信じがたくはあるが、事実なのだろう。
「だが、それに反対する者がいた。その者は青き星の民を全滅させ、そこに自分たちが住めば良いと言い出した」
「そんな……ひどい」
リディアは口元を抑え、表情を曇らせた。淡々としゃべっていたフースーヤも微かに表情を曇らせる。
「その者の考え方は、異質だ。月の民の全てがそのような考えを持っているわけではない。我らは、その者を封じ込めることにした。その邪悪な心の持ち主の名は、ゼムス。月の民はゼムスを封じた後、長き眠りについた。……私はゼムスの封印と月の民の眠りを守る番人だ」
そこでフースーヤは目を閉じる。
「だが、ゼムスの邪念は我々が思っていた以上に強かったようだ。年を経るごとに封印の中で悪意を増したゼムスの邪念が、青き星に影響を及ぼすようになった。青き星の魔物の増加や凶暴化は恐らくそのせいであろう。ゼムスは邪念で、邪悪な心の持ち主をより悪しき者へとし、クリスタルを集めさせた……」
「では、ゴルベーザもその者に……!?」
ゴルベーザを倒せばすべてが終わると思っていたが、どうやらそうではないらしい。操られていたとはいっても、ゴルベーザの行ってきた行為は許しがたいものがあるが。
あれほどの実力者であるゴルベーザを操るほどに強い、ゼムスの悪の思念。どれほどの闇を抱えているのだろうか。
「では……あの魔道船は?」
「遥か昔に私の弟・クルーヤが青き星に降り立った時のものだ。……デビルロードや飛空艇の技術も、クルーヤが伝えたものだ。クルーヤは美しい青き星に憧れていた。……そしてあの船で降り立ち、青き星の娘と恋に落ち、二人の子どもが生まれた」
フースーヤはセシルを見つめていた。とても穏やかな瞳で。
「そのうちの一人が……そなただ」
「……え……」
仲間達全員が息を呑む気配がした。視線が、セシルへと集まる。
「でも……それじゃあ、試練の山で聞こえた、あの声は……」
「クルーヤの魂だ。……死してもあの山に留まり、そなたに力を託そうとしたのだろう。……そなたは、クルーヤによく似ている……」
フースーヤの瞳が、遠い過去を懐かしむように細くなった。
「確かに、あの声は僕を、我が息子、と……。あれが、父さん……」
声が震える。衝撃を受けはしたが、自分の中に月の民の血が半分流れているという事実は、自分でも不思議なほどにあっさりと受け入れる事が出来た。月に降り立った時から感じていた不思議な懐かしさに答えが出たせいかもしれない。
セシルは、心を静めようと息を吸った。
聞かなければいけない事はまだある。私事で心を乱している場合ではない。
「ゼムスは……なぜ、クリスタルを?」
その問いかけに、フースーヤは目を伏せる。
「クリスタルは我々のエネルギー源なのだ。恐らく、ゼムスはバブイルの塔の次元エレベーターを起動させるためにクリスタルを集めさせたのだろう。次元エレベーターを使ってバブイルの巨人を青き星に降ろし、全てを焼き払おうとしている」
「そんな……!」
青ざめたローザは言葉を失う。
早く戻らなければ、あの星が危ない。
「その巨人を、止めないと!」
「けどよ、バブイルの塔には近づけないんだぜ!? 一体どうすりゃいいんだ!?」
リディアとエッジの会話に、フースーヤがひとつ頷いた。
「私がいればバリアを抜けれるはずだ。私も共にゆこう。……ゼムスも月の民。私の手で落とし前をつけるのが筋というものだろう」
セシルはこくりと大きく頷いた。
「よろしくお願いします」