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    FINAL FANTASY W 〜二度目の悪夢・1〜

     封印の洞窟の扉は、セシル達が再び訪れた時も固く閉ざされたままだった。
    「よかった……。封印はまだ無事だね」
     そう言いながらセシルは周りを見回す。ここに最後のクリスタルがあるのだからゴルベーザの手の者がいてもよさそうなのだが、それらしい姿も気配もない。
    「……静かだな。静かすぎる」
     セシルの心を代弁するかのようにカインが呟き、ローザが頷く。
    「けど、ここに最近まで誰かがいたのは間違いないようだぜ?」
     地面に膝をつき入念に調べていたエッジが地面から視線を外さないままそう言うと、リディアもエッジと同じように屈みこんで地面を眺めつつ首を傾げた。
    「そうなの? エッジ、何で分かるの?」
    「地面に痕跡が残ってんだよ。俺ら以外の足跡とか……。消そうとしたみたいだけど、消しきれてねーな」
     エッジの言葉にセシルはまじまじと地面を見つめたが、エッジの言う痕跡を見分けることは出来なかった。
    「全然分からないわ。……忍者ってすごいのね」
     ローザの本心からの賞賛に、エッジは立ち上がると胸を張った。
    「ふふーん! だろ!? 敬え!」
    「アホか」
    「アホ言うな」
     カインとエッジの掛け合いももはや違和感がない。そう言うと二人して嫌な顔をするだろうからとセシルは笑いかけたのを咳払いでごまかすと、ルカから預かった首飾りを手に封印の洞窟を閉ざす扉に近づいた。
     その様子に、カインとエッジも口を閉じた。
    「……開けるよ」
     誰にともなくそう宣言し、首飾りを扉にかざす。すると首飾りと扉が同時に青白い光を放った。思わず目を閉じたセシルの耳に、扉の開く音が響く。
     封印が解き放たれた今、セシル達は絶対にクリスタルを死守しなければならない。
     決意も新たにセシル達は洞窟内部に足を踏み入れる。エッジの眉がぴくりと動いた。
    「こりゃ……えらく魔物の気配がすんなー」
    「うん……。すごいね」
     セシルもその気配を感じて思わず眉をしかめる。クリスタルの元にたどり着くのも一筋縄ではいかなそうだ。
    「慎重に、だが迅速に。……だな」
     カインの呟きに頷きつつ、セシルはゆっくりと歩き出す。そして目の前の扉に手を翔けようとした、瞬間。
    「セシル!!」
    「さがれっ!!」
     リディアとエッジの叫びに、反射的に身を引いたセシルは信じがたい光景に目を丸くした。扉に口と目があり、セシルに牙をむいているのだ。
    「扉が生きている、だと!?」
     驚愕とともにカインが槍を構える。その横を、一陣の風が駆け抜けた。
     エッジだ。
     エッジは両手に構えた忍刀で扉に切りつけると、飛び退き際に手裏剣を投げつけた。ぱんと鳴弦が響き、ローザの放った矢が深々と扉に突き刺さる。
    「――……バイオ!!」
     詠唱を終えたリディアの魔法が炸裂し、そこに槍を構えたカインが突っ込んだ。扉がカインを見て目を細める。
    「!?」
     嫌な予感がしたのか、カインは一度攻撃を加えるとそのまま後ろに下がった。瞬間、扉の目が怪しく輝く。
     黒い光としか表現できないものが、カインを包み込んだ。
    「ぐっ……」
    「カイン!?」
     短い悲鳴を上げたカインの身体から力が抜けた。傍目に見てもカインの魂が身体から離れかけているのが分かる。
    「カイン! ダメよ!! しっかりして!!」
     そう叫んだローザはすうっと息を吸うと詠唱の体勢に入った。
    「彼の者を死の淵より呼び戻さん。聖なる御手よ、死の鎖を断ち切り、その大いなる慈悲にて祝福を与えたまえ! ……アレイズ!!」
     そして放ったのはレイズの上位魔法であるアレイズ。魂を呼び戻し体力を回復させる白魔法の中でも高位の魔法である。
    「……っ」
     カインの肩が大きく動く。セシルはほっと大きく息を吐くと、剣を握り直し扉に切りかかった。セシルの隙を補うかのようにエッジがセシルに続いて忍刀を閃かせる。
     その連撃に扉も耐えきれなくなったらしい。鈍くきしんだ音をたてて崩れ落ちた。それを見届けた全員が同時に安堵の息をついた。
     油断していたわけではないが、これは予想外だった。
    「……カイン、大丈夫?」
     心配そうにカインの顔を覗き込むリディアに、カインは小さく口の端に笑みを浮かべると穏やかな声音で応じた。
    「ああ。もう大丈夫だ」
    「……いったい何があったの?」
     首を傾げるローザに、カインはしばし考え込む。
    「分からない。……だが、ヤツに見られるとまずい。あの光は死の光だ」
     セシルは息を呑んだ。今の扉が封印の洞窟を守るための罠の一つだとしたら。下手をすれば洞窟の扉すべてに今の仕掛けが施されているのかもしれないのだ。
    「そういえば、僕が扉を開けようとしたとき、リディアとエッジが止めてくれたよね。この扉の仕掛けに気付いたの?」
     セシルの問いかけにリディアとエッジは同時に頷く。
    「ちょっとだけ魔力が流れる気配がしたから……」
    「俺様、こういう勘結構当たるんだよ」
     その答えにセシルはしばし考え込む。
    「じゃあ……もしこの先に同じ仕掛けの扉があったら……分かるかい?」
    「うん、分かるよ」
    「おー、任せとけ!」
     リディアはともかく、なぜ勘頼りのエッジが自信満々なのだろうか。
     勘と言いつつも忍者としての訓練と鋭い観察眼があるから、罠を看破できるのだろうけれど思いつつも、セシルは頷く。
    「じゃあ二人とも頼むよ」
     セシルはぐっと唇を噛みしめた。クリスタルへの道のりは困難なものになるだろうと思ってはいたが、これは想像以上かもしれない。そう思いながら。

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