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    FINAL FANTASY W 〜想いの行方・7〜

     宿屋で一泊したセシル達は再び図書館の地下へとやって来ていた。
     昨日はアスラの傍らで面白そうにセシル達を眺めていた老人が、今日は真剣な表情でセシル達の前に立っている。
    「アスラに認められたのはそなたたちが初めてだ……。それだけで、そなた達が強い力を持っていることは分かる。……だが、真の悪には強い力だけでは勝てん。その力を正しい方向に導けるより強い精神が必要だ」
     老人からにじみ出る力に、セシルは無意識に息を呑んでいた。
    「わしは、古より戦いによってその精神を見極めてきた……。どうだ、わしと一戦交えてみるか?」
     その言葉に、セシルはちらりと視線をリディアに向けた。
     この場所に来た時点で答えは決まっているようなものだが、それでもこの戦いの決定権はリディアにある。
     セシルの視線を受けて、リディアは力強く頷いた。
    「幻獣王様……勝負です!」
     その言葉に笑みを浮かべた幻獣王の身体が強い光を放った。
     そして辺りを水気を帯びた魔力が立ち込め、蛇によく似た姿の幻獣が姿を現す。その姿に、セシルは見覚えがあった。
    「大海原の主……リヴァイアサン!!」
    「リヴァイアサン!? 海神様って言われる、あの……!?」
     エッジが身構えつつも驚きの声を上げる。
    「リヴァイアサンが幻獣王……!」
     カインも槍を構えつつも、驚きを隠せない様子で呟いた。
    「……行きます!」
     リディアが叫ぶ。それに応じるようにリヴァイアサンが身体をくねらせる。それが戦闘開始の合図になった。
    「緩やかなる時よ! その流れに汝が身を委ねたまえ! スロウ!」
     ローザの白魔法がリヴァイアサンを包み込む。同時にリディアが詠唱を開始した。
    「白銀に輝く閃光よ! 怒れる神々の矛よ! 我が前の穢れし魂にその神威を示せ!」
     朗々と響く詠唱を背後にエッジ、カイン、セシルの順でリヴァイアサンに切りかかる。そうして、セシルがリヴァイアサンと間合いを取った、瞬間。
    「彼の者に大いなる裁きを与えよ! サンダガ!!」
     タイミングを計って放たれた、雷系最強魔法がリヴァイアサンに炸裂する。
     リヴァイアサンが高く吠えた。悲鳴かと思ったが、どこか雰囲気が違う。リディアがはっと息を呑んだ。
    「みんな! 防御!! 大海嘯がくる!!」
     その叫びに、全員が反射的に防御を固める。瞬間、どこからか現れた大量の海水がセシル達に押し寄せた。セシルは両足に力を込めて踏ん張る。
    「……っ!」
     海水が、引いていく。セシルは詰めていた息を吐いた。何とか耐えきったが、体力の消耗が激しい。
    「大いなる癒しの光、輝ける祝福の光よ! 聖なる祝福と大いなる慈悲にて、我らを癒したまえ! ケアルガ!!」
     ローザの回復魔法がセシル達を包んだ。セシルは剣を握る手に力を込める。あまり戦いを長引かせるわけにいはいかない。
    「エッジ、リディアと合わせて! カイン、行くぞ!!」
     セシルの指示は短い。だが、すでに幾度もの戦いを乗り越えてきた仲間達にはそれで十分だった。疑問の声はひとつもなかった。
    「はあっ!」
     カインが強く地面を蹴り、リヴァイアサンの頭上に落下する。そこにセシルが間をおかず切りかかった。立て続けの攻撃にさすがのリヴァイアサンもひるむ。
    「白銀に輝く閃光よ! 怒れる神々の矛よ! 我が前の穢れし魂にその神威を示せ! 彼の者に大いなる裁きを与えよ!!」
    「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!!」
     目を伏せ詠唱するリディアの横でエッジが素早く印を組む。そして。
    「サンダガ!!」
    「雷遁!!」
     黒魔法の雷と忍術の雷が同時に放たれ、リヴァイアサンへと突き刺さる。広間が一瞬、白い光で満ちた。
     これだけの攻撃を浴びせればとは思うものの、相手は幻獣王だ。油断はできない。構えを解かないセシル達の耳に、晴れやかな幻獣王の笑い声が響いた。
    「……見事! そなたたちの光、確かに見届けたぞ!」
     そうしてリヴァイアサンの姿が消え、代わりに老人が現れる。
    「リディア。危なくなったら、わしの名を呼びなさい。……リヴァイアサン、と」
     戦闘態勢を解いたリディアは目を伏せ、その言葉を噛みしめるように聞いた。そして満面の笑みを浮かべ、頷く。
    「はい! ありがとうございます、幻獣王様!!」
     その笑みに、幻獣王が相好を崩した。
    「みなさん、リディアを頼みましたぞ」
     十年の時をここで過ごしたリディアを、この幻獣王も王妃も、実の子供のように可愛がっているらしい。幻獣からも人からも愛されるこの少女を、セシルは誇らしく思った。
    「はい」
     頷くセシルに、幻獣王は笑みを浮かべた。

    「えええええ!? リディア、もう行っちゃうの!?」
     幻界への出入り口で、幻獣の子どもが残念そうに唇を尖らせる。リディアは苦笑すると屈んで、子どもと目線を合わせた。
    「うん、ごめんね。やらなきゃいけないことがあるの」
    「なぁんだ〜。ひさしぶりにいっぱい遊べると思ったのに……」
     リディアは微笑んで子どもの頭を撫でる。
    「帰ってきたら、いっぱい遊ぼう? 約束ね」
     その言葉に、セシルは目を見開く。
     この世界で十年近い時を過ごしてしまったリディア。地上では四ヶ月ほどの時しか流れておらず、彼女の故郷であるミストにも、今のリディアの姿を知る者はいない。
     もし、この戦いが終わったら。地上に、リディアの居場所はあるのだろうか。リディアの故郷は急激に成長したリディアを受け入れてくれるだろうか。そして、リディアは変わらない故郷を受け入れることが出来るのだろうか。
     幻界は、地上とは時の流れが異なる世界。だが、この世界はリディアを穏やかに包み、リディアを傷つけることはない。
     今からこんな仮定をすることは馬鹿げていると自分でも思う。だが、不安がセシルの心に陰りを落とした。
     そんなセシルの視線には気付かずに、リディアはあどけない笑みを浮かべていた。

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