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    FINAL FANTASY W 〜二度目の悪夢・2〜

     地底にある洞窟はさらに地の底まで続いていた。出てくる魔物も今まで以上に強力なものが多く、先程の罠があるため扉ひとつ開けるのにも慎重にならざるを得ない。
     結果として二つの階層を降って来たセシル達は気力体力ともに相当の消耗を強いられていた。
     エッジは今しがた倒したばかりの扉が守っていた部屋を覗き込むと、明るい声を上げた。
    「お! この部屋結界があるぜ!」
     その言葉に全員の顔に安堵の色が浮かぶ。急ぐ身ではあるが、このままの状態で進むのはどう考えても得策ではない。
    「よかった……。みんな、休憩しよう」
    「そうだな。体勢を整えた方がよかろう……」
     セシルの声にもカインの声にも心なしか疲労の色が滲んでいる。そうしてセシル達はその小部屋に足を踏み入れた。結界のいいところは野宿の時のように誰かを見張りに立てることなく全員が休息をとれるところだろう。
     結界内に入ったところで、何でも器用にこなすエッジがてきぱきとコテージの組み立てを始め、カインもそれを手伝い始める。セシルが火をおこす横でローザが食事の準備を始め、リディアは戦闘で煩雑になった道具袋の整理を始めた。
     全員、手慣れた様子で準備を済ませると、手早く食事を取った。そうするとあっさりと睡魔が襲ってくる。やはり疲れているのだろうと視線を上げると、向かいに座ったリディアの目がほぼ閉じかけていた。不意にぐらりと揺らいだ上半身を、リディアの隣に座っていたエッジが支える。
    「……しょーがねぇなぁ」
     呆れ気味に呟かれたその声音が酷く優しく聞こえるのは、セシルの気のせいだろうか。
    「ここまで来るのもきつかったからな。無理もない」
     労わるようなカインの声も、どこか優しい。その言葉に頷いたローザもまた、眠そうだった。
    「エッジ。リディアをコテージに運んでくれる? そのまま私も一緒に休ませてもらうわ」
    「りょーかいっと」
     エッジはそう言うと片手をリディアの膝裏に通し、あっさりと抱き上げた。軽々と運んでいるように見えるけれども、エッジの動作は壊れ物を扱うかのように慎重だ。
     ローザも立ち上がると、セシルとカインに笑みを向ける。
    「おやすみなさい、セシル。カイン」
    「おやすみ、ローザ」
    「ゆっくり休め」
     エッジの後ろをついて歩くローザの足元が若干覚束ないのは、やはり疲労のせいだろう。
     ややあってエッジが一人でコテージから出てきた。
    「やっぱ疲れてんのな。ローザも横になってすぐに寝入ってたみたいだぜ」
     小声でそう言うエッジに、セシルは小さく苦笑する。
    「魔法は神経を使うからね。魔物も強いし、扉ひとつ開けるのにも気を抜けないし……疲労は相当だと思うよ」
    「二人とも魔法を使いっぱなしだったからな」
     カインの言葉に、セシルは頷く。
     いつもはコテージ内で男女構わず雑魚寝するのだが、今日は男性陣は外だ。結界内だからコテージの外にいても魔物の心配はないし、今は疲労の色が濃い魔道士二人の回復を優先させたい。
     慣れているとはいっても、こういう時は女性だけの方が気も休まるだろう。
    「……ちょっと、聞きたいことがあんだけどよ」
     ぱちぱちと火の爆ぜる音が響く中、エッジがぽつりと口を開いた。
    「お前らやローザがやたらとリディアをガキ扱いしてる時があるのって……あいつの過去に関係あるのか?」
     回りくどい手段を好まないエッジの率直な問いに、セシルとカインは同時に硬直した。
     エッジはどこまで知っているのだろう。
    「……やっぱり、そうなんだな」
     セシルとカインの反応を見て、エッジは目を細める。
    「エッジ……。君は、どこまで……」
    「さぁな。あいつの村が襲われておふくろさんが死んだこと。旅の途中でリヴァイアサンに連れられて幻界に行ったこと、くらいは聞いたかな」
     それではエッジは、リディアの事情のほぼすべてを知っているということになる。ローザが話したとは思えないから、リディアが彼女自身の意思で話したのだろう。
     だからこそ、彼女が語りづらい部分がエッジに伝えられていないのだ。
    「……」
     ここでエッジに話したら、正義感の強いエッジはセシル達を責めるだろう。そして、セシルとカインも心のどこかで責められることを望んでいるのだろう。責められるだけの罪を犯したというのに責められないことが辛いという気持ちは、少なからずあるからだ。
     だが、ここでエッジに責められることはセシル達の救いにはなっても、リディアの救いにはならない。
    「あ、別に話してくれなんて言ってねーぞ? 本人以外から聞く気ねーし」
     あっけらかんとエッジは言う。
    「ただ、どうなんだろうって思って聞いてみただけだし。あいつだって自分の知らんとこで自分の過去話なんざされたかねーだろ」
     エッジはそう言うと無造作に地面に寝転んだ。
    「んじゃ俺様寝るわ〜」
     そう宣言すると三秒後には豪快ないびきをかいているのだから、セシルは苦笑を浮かべるしかない。
    「まったく……気ままな王子様だな」
     硬直した空気をようやく溶かして、カインが呆れたように呟く。そしてややあって小さくセシルの名を呼んだ。
    「……覚悟を、しておけ。……近いうちにリディアはすべてを打ち明ける。……そんな気がする」
     セシルはコテージを振り返った。
     それはそうかもしれない。リディアの中で、日に日にエッジの存在が大きくなっていくのが分かる。その感情が果たしてどういったものなのかは判別がつかないが、リディアが全てを語るのはそう遠い日のことではないだろう。
    「……覚悟なんて、とっくに決めてるさ……。カイポでのあの時から……」
     ――ただ、君を……守らせてくれないか?
     あの夜からずっと、その誓いはこの胸の中にある。暗黒騎士の姿を捨て去ってもその咎がこの身から消えることはない。
     セシルは小さく苦笑して首を小さく振ると思考を切り替えた。
     いつまでもこうして起きていても、考え込んでしまうばかりでいいことはなさそうだ。
     セシルはエッジに習って無造作に地面に寝転がった。
    「カイン、僕らも休もう」
     カインは無言のまま頷くと、その場に寝転がったのだった。

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