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    FINAL FANTASY W 〜悲しみの連鎖・6〜

    「シド……何を……」
     半ばその答えを知りながらも、セシルはそう呟いていた。
     否定して欲しいと、心のどこかで願っていたのかもしれない。
     シドは懐からなにやら黒い物体を取り出すと、片手で弄びつつにかっと笑う。いつも通りの笑みのはずなのに、どこか覚悟を決めたような空気は少しも揺るがなかった。
    「なぁに! このダイナマイトでこの穴を塞ぎ、奴らを食い止める! お前達はバロンに向かい、わしの弟子たちに会え!」
     だが、ダイナマイトでこの地上へと続く穴を塞ぐには、タイミングが重要だ。ダイナマイトを起動させてから落としたのでは、タイミングが合わずに足止めが上手くいかない可能性がある。そして、己がこの場にいないことを想定したシドの言葉を考えれば、すなわち。
    「シド!?」
    「シド、あなたまで!!」
     セシルとローザの悲鳴のような叫びに、シドは再度にかっと笑みを浮かべると、表情を真剣なものへと改めた。
    「お前達の子が見たかったが……ヤンが寂しがるといかんからな……」
     そうしてくるりと踵を返したシドの背中に、カインが必死の形相で叫ぶ。
    「シド! よせっ!!」
    「おじいちゃん!!」
     涙の滲んだ声で叫んだリディアに、シドは振り返ると喚いた。いつもの調子で。
    「せめておじちゃんと呼べ!!」
     そのまま、宙に身を躍らせる。ローザが、カインが、リディアが身を乗り出した。セシルも反射的に動きかけたが、舵を握る手に力を込めて、ぐっと耐える。
    「「シド!!」」
    「おじちゃん!!」
     煩いエンジン音を物ともせず、鮮明にシドの声が響く。
    「ゴルベーザ! 飛空艇技師・シド!! 一世一代の見せ場じゃあぁぁぁぁ……」
     声がどんどんと遠ざかり。そして、飛空艇の遥か下方で、閃光が弾けた。それとほぼ同時にエンタープライズが穴を抜け、青空の下へと帰った。瞬間。
     爆音と轟音が響いた。慌ててカインが飛空艇の端に駆け寄り、下を覗き込む。
     アガルトの山に空いていた大穴は跡形もなく塞がっていた。
    「ああ……シド……」
     唇を噛み締めて微動だにしないセシルの背に、ローザがそっと手を添えても頬を寄せる。セシルは固く目を閉じると首だけで振り返り、ローザの頭に自分の頬を軽く寄せる。
    「なん、で……何で、みんな……」
     リディアが俯いて肩を震わせる。カインが飛空艇の手すりにがんっと拳を打ち付けた。
    「くそっ! どいつもこいつも死に急ぎやがって!!」
     セシルはローザの頭に顔を寄せたまま、心に浮かんだいくつもの言葉を飲み込む。ゆっくりと閉じていた瞳を開けると、険しい表情のまま、舵を切った。
     前に進まなければいけない。そう、何度も何度も心の中で繰り返す。
    「……バロンに、向かう」
     搾り出すような声で宣言すると、エンタープライズの船首を北西に向けた。

     久々に戻ったバロン城はいつもの活気を取り戻しつつあった。
     バロン国王が魔物の手によって亡き者とされたことは、既に国中に知らせてある。その悲しみは未だバロン中を包んでいたが、稀代の名君が愛したこの国を守ろうと皆必死だった。
     そんなバロン城の右の塔に続く場所に。シドの弟子達はいた。セシル達の姿に気付くと、笑顔で駆け寄ってくる。
    「セシルさん達! こんにちは!!」
     シドのことをどう伝えようかと戸惑うセシルに気付くことなく、弟子達は屈託のない笑みを浮かべる。
    「親方からエンタープライズにフックを取り付けるように言われています!」
    「それでホバー船を運べるようになりますよ。エブラーナの洞窟にはホバー船で入れるらしいです」
     初めて聞く名称に、セシルは首を傾げる。
    「……エブラーナの洞窟?」
    「はい。そこから、バブイルの塔に繋がる道があるそうです」
     僕らには何のことなのか分からないんですけどと苦笑する弟子達に、セシルは曖昧な笑みを返す。
     目的ははっきりとしているのに進むべき道が見えなくて、途方に暮れかけていたのは確かだ。けれど、光はまだ失われていなかった。道が繋がった。
     けれどシドが離脱した時は、まだバブイルの塔に向かうことは決まってもいなかったはずだ。何故、シドがバブイルの塔の潜入口を調べたのか、どこからそのような情報を得たのかなど疑問が残る。
     ジオット王にセシル達がバブイルの塔へ向かったことを聞いていたとしても、地上の入口を調べる必要はなかったはずなのに。
     それは、永遠に解けない疑問だ。
    「じゃあ、すぐに取り付けちゃいますね!」
    「これくらい親方がいなくてもすぐですから! しばらく待っていてください!」
     そう言って弟子達がその場を離れる。セシルは黙ってその背を見送るしかない。
     しばらく待っていろというくらいだから、この場からあまり動かないほうがいいだろうかとセシルが悩み始めた時、リディアがすっと動いた。
    「……リディア?」
    「……声? 呼んでる……」
     小さくそう呟くリディアに、セシルはローザやカインと顔を合わせて首を傾げたのだった。

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