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    FINAL FANTASY W 〜悲しみの連鎖・7〜

     初めて訪れたはずのバロン城を、リディアは迷いのない足取りで歩いていく。まるで、何かに導かれるかのように。
     そうして辿り着いたのは、右の塔の地下室だった。
    「ここは……」
    「この城に、こんな場所が……」
     セシルとカインが小さく呟いた声が響く。右の塔の地下二階、その最奥に古ぼけた玉座が一つ置かれていた。
    「何のために、こんなものが……」
     ローザが小さく首を傾げる。その疑問に応えられる者はここにはいない。思わず顔を見合わせるセシル達に構う様子もなく、リディアが一歩踏み出した。
    「……やっぱり、呼んでる」
     声なき声を聞くリディアのその翡翠の瞳は、どこか遠くを見るような深い色をしていた。ふわりと、魔力の風が流れる。リディアはすっと目を細めた。
    「……来る」
     その声と同時に、玉座を中心に魔力が集約し、人の形を象る。そうして現れた人物に、リディア以外の人間が息をのんだ。それは、セシル達がよく知る人物の姿をしていたのだ。
    「……へい、か……」
     絞り出すような声で、何とかそう呟いたのはセシルだ。その呼びかけに、目の前の男は薄く苦笑を浮かべた。
    「よく、来てくれたな」
     その声は、セシル達のよく知る優しく厳しい生前のバロン王のもので。だが、目の前のこの人物がこの世の者ではないと分かっている。薄く透けて見える背景が、バロン王はすでにこの世にないという現実を突き付けてくるのだ。
    セシルは小さく唇を噛んだ。改めて訪れた喪失の痛みを、そうやってやり過ごす。
    「……そんな悲しい目をするな。確かに、魔物にやられはしたが……私は、永遠の力を手に入れた」
     そう言ってバロン王はリディアに視線を向けた。リディアがはっと我に返って背筋を伸ばす。
    「そこのミストの召喚士が呼び出せば、私はいつでもお前達の力となろう。一撃必殺の幻獣としてな。だが……」
    「……幻獣……。陛下、あなたは……」
     ローザの言葉に、しかしバロン王は答えずに玉座から立ち上がると、一歩前に踏み出した。同時に放たれる強い力に、セシルとカインは同時に武器に手を伸ばしていた。
     リディアが、低く身構える。
    「幻獣界の掟により、お前達の力を試さねばならぬ。ぬかるでないぞ!」
     その言葉に応じたのは、セシルではなく召喚士のリディアだった。まっすぐにバロン王を見返して、大きく頷いた。
    「もちろんです。バロンの王様……いいえ、幻獣オーディン!」
     リディアのその呼びかけにバロン王は満足気に笑うと、幻獣としての姿へと変化した。馬に跨った戦神の姿へと。

     呆然としている暇などなかった。色々と分からない部分はあるが、この戦いに勝てば今は戦神となったバロン王が力になってくれるらしいということくらいは分かる。
     セシルはオーディンの姿と放つ気配に気を引き締めると、剣を抜いた。
    「「我らに聖なる守護と盾を与えたまえ! プロテス!!」」
     セシルとローザの詠唱が重なり、守護の光がセシル達を淡く包み込む。カインが先手必勝と言わんばかりに、槍の穂先を突き出した。オーディンはその一撃を軽くいなす。
    「命を蝕む不浄の風よ!! バイオ!!」
     そこに、リディアがバイオを発動させた。オーディンの殻だが、一瞬傾ぐ。セシルは剣を握りなおすと、すっと息を整えて地面を蹴った。
    「はああ!」
     そうして切り込んだ一撃を、オーディンは剣で受け止めるとあっさりと流した。完全に動きが読まれている。セシルとカインが一度引いたところに、ローザの白魔法が発動した。
    「緩やかなる時よ! その流れに汝が身を委ねたまえ! スロウ!」
     オーディンの動きが目に見えて遅くなる。すると、オーディンがすっと剣を振り上げた。そこから放たれる威圧感に、セシルの肌が粟立った。あの剣が振り下ろされたら、終わりだ。セシルの戦士としての勘がそう告げている。
     それはカインも同じなのだろう。仕掛けるのも憚れるような威圧感に、身動きが取れない。
    「……一撃必殺の斬鉄剣を誇るオーディン……。かつて敗れたのは、その剣にいかずちが落ちた時のみ……」
     そんな中、冷静さを保ったままのリディアの呟きが響く。そして、その言葉の内容に、セシルは目を見開いた。それは、つまり。
    「――輝ける閃光よ! 裁きの雷よ! 彼の者達に断罪の刃を与えよ! サンダラ!!」
     スロウの効果で動きが鈍り、剣を引く動作が間に合わなかったらしい。リディアの生み出した魔力の雷が、オーディンの振りかざした剣に直撃した。その衝撃で、オーディンの手から剣が落ちる。セシルは、そのまま踏み込むとオーディンの首筋に剣を突き付けた。
     ふと、その姿が揺らぎ戦神のものから生前のバロン王の姿へと変化した。その瞳が、ひどく優しい。
    「……たくましくなったな。バロンを……いや、世界を頼むぞ。私も幻獣オーディンとして、共に戦おう」
    「陛下!」
     バロン王は力強い笑みを残すと、その姿を霧散させる。同時に、リディアを魔力の風が取り巻いた。
     リディアは一瞬だけ目を閉じた後、胸に手を当て小さく微笑んだ。
    「……よろしくね、オーディン」
     リディアが、オーディンを召喚出来るようになったらしい。セシルは安堵の息をついたのだった。

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