「と、とりっくおあとりーと?」
言った瞬間、しまったと思いました。さすがにこれはないだろうと。
けれど、言ってしまった以上、取り返しはつきません。後の祭りです。後悔は先に立ってはくれないのです。
あ、あああっ!ウィルさんすっごい笑顔!こんあ笑顔のウィルさん初めてですよ!本邦初公開!
…思考が若干おかしいのは自分でも分かっています。恐怖のせいです。
美人さんが怒ると怖いって本当なんだ!と今、身をもって体感しているところです。
笑顔で怒るのが怖いのも本当なんですね…。
「…なるほど、Trick or Treat!ね…」
し、視線が…視線がこっちを見ろと語っています。見るのは怖い…けど、見ないと後がもっと怖いはずです!
勇気を総動員して見たウィルさんの笑顔の輝かしさに、動きが止まってしまいました。ブ、ブリザード…が…。
「……意味、知ってるか?」
「は、い…。あの……”お菓子くれなきゃイタズラするぞ”……です…………」
声がだんだん掠れていくのは、見えないブリザードが寒いからですか。怖いからですか。
……両方ですか、そうですか。
「正解。……つまり、お前はこう言いたい訳だ。……俺が菓子をやらなかったから、イタズラしたと」
「い、え………あの………えっと…」
「これはイタズラだと。……そう言いたい訳だ
ああ、額に青筋が。それでもウィルさんは笑顔です。すっごい笑顔です。
「…………」
返す言葉もありません。当然ですけれど。ああ、血の気が引いていく音が聞こえます。
…引いた血の気ってどこに行くんでしょうか?足?じゃあ何で貧血って起こるんでしょう?体の血は減ってないのに。
………分かっています。これは現実逃避です。
ウィルさん目が笑ってないですよー。あ、あああああ…。
「戦闘中に俺の真横を氷の槍が掠めてかっとんでったのも俺の服が凍ったのも若干凍傷になりかけたのもみーんなイタズラだった訳だ」
怪我はなかったのが唯一の救いでしょうか
それにしても、改めて聞くとわれながらひどいです。ウィルさんが歴戦の将のように聞こえますが、実際はパソコンが得意なインテリさんです。
「……………」
ああ、笑顔が消えました。というより、表情が消えました。息を吸う音が聞こえますっ。
「ふざけんなこのボケーーーーーーッ!!」
「ひああああああっごめんなさいーーっ!!」
私が悪いのは確かなんですが…ど、どうすればいいんでしょう。だ、誰か助けて…!