「と、とりっくあおとりーと?」
そう言ったソフィアは、決して俺と目を合わせようとはしなかった。
目は泳いでいるし、頬に一筋汗流れてるし。
そもそも発音がおかしいとか、語尾上げて何で疑問形?とかいう突っ込みも置いといて。
なるほど、そう来たか。……いーい、度胸だ。
俺は、普段なら絶対しないような鮮やかな笑みを浮かべた。
別名・営業スマイル。外交用の外面ともいう。
漫画だったら、背景ににこりってでかでかと書かれているんじゃないかってくらいの、満面の笑み。
横目で俺の様子を窺っていたソフィアの肩が、びくりと揺れた。
「…なるほど、Trick ot Treat!ね…」
こっち見やがれという雰囲気が伝わったらしい。ぎぎいっと音がしそうなほど緩慢な、非常にぎこちない動作でこちらを見たソフィアの表情がびしりと固まった。
「……意味、知ってるか?」
別に、記憶の確認ではない。
「は、い…。あの……”お菓子くれなきゃイタズラするぞ”……です…………」
声がだんだんフェードアウトしてるし。
「正解。……つまり、お前はこう言いたい訳だ。……俺が菓子をやらなかったから、イタズラしたと」
「い、え………あの………えっと…」
既に言葉になってないし。
「これはイタズラだと。……そう言いたい訳だ」
俺は笑顔を崩さない。額に浮いてる自覚のある青筋は、アレだ。ご愛嬌ってヤツだ。
「…………」
あ、黙った。ソフィアの顔色がさーっと引いていく。
それでも俺は笑顔のまま。…目が笑ってないなんて百も承知っつーか、わざとっつーか。まぁ、当然?
「戦闘中に俺の真横を氷の槍が掠めてかっとんでったのも俺の服が凍ったのも若干凍傷になりかけたのもみーんなイタズラだった訳だ」
ノンブレスで言ってやった。
ちなみに、今は融けた氷のせいで服が濡れてて、寒い。
「……………」
どんな戦傷記録だ。どこの猛者だよ俺は。
すっと笑顔を消す。同時に、息を吸って。
「ふざけんなこのボケーーーーーーッ!!」
「ひああああああっごめんなさいーーっ!!」
本当にもう、勘弁しろっての!