蒼穹の狭間で 異文化交流
「はーい! 雅ちゃん! 質問です!」
「ん? 何でしょうか? 春蘭さん」
ぴっと手を上げる春蘭に、雅は首を傾げる。
「ぱそこん、って何ですか?」
春蘭の口から飛び出した文明の利器の名称に、雅は思わず目を丸くした。
「うっ!? これまた答えにくい質問を……! ってゆーかそんな言葉どこで仕入れてくるのよ。この天界には電化製品なんて一つもないじゃない」
そう。この天界は科学技術の代わりに魔法が発達したような世界だ。インターネット以前にそもそも電気がない。
「そう言えば、どこから入ってくるんだろうな。この手の知識。意外と中央神殿のお偉い方って地界に頻繁に遊びに行ってたりするのかな」
慧が何だか呑気にそんな事を呟く。
それはそれで問題があるような気がするのは、雅の気のせいだろうか。
「俺もてれびっていうのは聞いたことあるぞ。……えーと、何か色々映る箱?」
間違ってはいない。いないが、あまりにアバウトな伝わり方だ。かといってその原理を説明しろと言われても、雅にはさっぱりなのだが。
液晶とプラズマの違いどころか、ブラウン管テレビの仕組みだって分からない。雅の解釈だって、何か色々と映る箱と大して変わりはしないのだ。
「その説明でいくと、パソコンも何か色々映る箱、で終わっちゃうような気がするわ……」
眉をしかめる雅をよそに、天界組の会話は弾む。
「ぱそこんも色々映る箱なのか。……てれびとは何が違うんだろうな?」
「聞いた話によると、ぱそこんではいんたーねっとというものが出来るらしいです! ……それが出来るか出来ないか、でしょうか?」
「いんたーねっと? 何だそれ。ねっとって……確か、網って意味だよな?」
「ええ、確かそうでした。……箱に網を被せたものが、何の意味があるんでしょうか?」
「箱に網を被せたってどうにもならないよな? そもそも、色々映る箱自体、想像つかないし意味が分からん」
うーんと真剣に考え込む二人に、雅は頭を抱えた。
話がどんどんと変な方向に進んでいく。しかも、二人とも大真面目なのだから性質が悪い。
だが二人に非はない。知識にないものを想像するには、限界があるはずだ。天界に似たようなものがないなら、尚更。
だから、本当に悪いのは。
「……っ誰よ! 中途半端に地界の知識を持ち込んだ奴ぅっ!」
おかげでいらん苦労を背負う羽目になったじゃない! と憤りを空にぶつける雅を慧と春蘭は不思議そうに眺めていた。