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    FINAL FANTASY W 〜巨星堕ちる・6〜

     無意識に目を閉じていたセシルだったが、空気の変化に気付いて目を開く。視界に写ったのは同じように目を閉じた仲間達と、見覚えのある部屋だった。
    「……ここは……」
     呆然としたセシルに、ローザは額に汗をかきつつもにこりと笑った。
    「あなたの部屋よ」
     その声は涼やかなままだが、全体的に疲労の色が濃い。無理もない。今まで捕らえられていたうえ、一度にこの人数を遠距離に移動させたのだから。
    「……それにしても、これからどういたす?」
     とりあえずテラの亡骸を床に横たえたヤンが途方に暮れたように呟くと、シドもがくりと肩を落とした。
    「クリスタルはゴルベーザに奪われてしまったしの……」
    「……これで、全てのクリスタルがゴルベーザの元に……」
     セシルのその呟きに、全員が肩を落とす中、カインだけが顔を上げて首を横に振った。
    「いや……。まだだ」
     全員の視線が、カインに向かう。カインはその視線を受けながら、はっきりと言った。
    「ゴルベーザが手にしているクリスタルは、まだ半分なんだ」
     その言葉に、ローザが首を傾げる。
     確かに、カインの言葉はおかしい。この世にあるクリスタルはミシディアの水のクリスタル、ダムシアンの火のクリスタル、ファブールの風のクリスタル、そしてトロイアの土のクリスタル。この四つだけのはずだ。
    「……カイン、どういうこと?」
    「四つのクリスタルは光のクリスタルと呼ばれている。光があれば闇があるように……クリスタルにも対となるものが存在するんだ」
    「闇の、クリスタル?」
     ぼそりと呟いたヤンに、カインは一つ頷いてみせる。
    「ああ。ゴルベーザは、それも欲している。……だから、奴の手に渡ったクリスタルは半分なんだ」
    「しっかし……奴は、そんなにクリスタルを集めて何がしたいんじゃ?」
     その疑問も尤もだ。クリスタルはそれ一つでも絶大な力を持つ。それこそ、ダークエルフが永遠の命を求めて土のクリスタルを奪ったほどに。
     それを四つも集め、さらには闇のクリスタルまで欲するゴルベーザ。最初はそれこそ世界制服が目的なのかとも思っていたが、ここまでくるとそれにも違和感がある。ゴルベーザの意図がまったく掴めない。
    「それは……俺にも分からん。だが、ゴルベーザはクリスタルを全て集めれば、月への道が開かれると言っていた」
    「月への……道?」
     ますます意味が分からない。カインも戸惑ったような雰囲気だから、それ以上を聞くことは出来なかったのだろう。
     だが、やらなければならないことは、はっきりとした。クリスタルの死守だ。
    「それで……その闇のクリスタルはどこに?」
    「光が表の世界にあるなら、闇は裏の世界に。この世界と対となる世界……地底だ」
    「ち、地底!?」
    「この世界のどこかに、地底への入り口があるらしい。……これ以上は分からん。すまん」
     詫びるカインに、セシルは首を横に振った。今の情報だけでも、セシル達には有益だ。すくなくとも、目的は定まった。しかし。
    「……一体どこから地底に向かえばいいんだ?」
     考え込む若者達を見回したシドが、ごほんと咳払いをして一括する。
    「ええーい!! くよくよ悩んでるな、若いもんがっ!! 身体動かさんかい! 世界中探し回ればいいじゃろうがっ!!」
    「で、でも……エンタープライズはゾットの塔に……!」
    「最新型と言っておるじゃろうが! 何か仕掛けでもされちゃいかんと、退避させておる! 遠隔操作でちゃーんとバロンに戻っとるわい!」
     胸を張って言うシドに、セシルは瞳を瞬いた。あの飛空艇がどんな仕組みなのか、最早さっぱりだ。
     しかし、これで光が見えたことは確かだ。
    「……今日はもう遅い。ゆっくり休んで……明日から地底への入口を探そう。……けど、その前に……トロイアに寄ってもらっていいかい?」
    「トロイア?」
     首を傾げるローザの隣で、ヤンが大きく頷いた。
    「ギルバート殿に……テラ殿のことを伝えねばなるまい……」
    「ああ。テラの言葉を伝えて……出来れば、アンナの隣に埋葬して……」
     全員が大きく頷く。カインがセシルに一歩近づき、黒い石を差し出した。
    「お前に、渡しておく」
    「……これは?」
    「念の為に持たされていたものだ。地底世界への入口を開く鍵だと、ゴルベーザが言っていた」
     セシルが手を差し出すと、カインがそれをセシルの手のひらに乗せた。思っていたよりも、軽い。
    「分かった。ありがとう、カイン」
     そう言って、セシルは黒い石をぎゅっと握り締めたのだった。

     トロイアでセシル達を迎えたギルバートは、テラの訃報と彼の最期の言葉を伝えると、嗚咽を零して泣きじゃくりながらも何度も何度も頷いていた。
     その姿を見て、セシルは改めてギルバートは強くなったのだと思う。
     最初の、恋人を失って虚ろだった姿は、今はどこにもない。
    「……セシル。君は、死なないで。僕とテラさんの分も……頼む」
     真っ赤に泣きはらした目で、けれども力強くそう言われたら、嘘でも否などと言えるはずもない。セシルは力強く頷き返して、トロイアを後にした。カイポに向かうためだ。
     ギルバートにテラをアンナの隣に埋葬したいと伝えたところ、是非にと頼まれた。そのアンナの埋葬先が、カイポだったのだ。
     アンナはダムシアンに埋葬されているものとばかり思っていたセシルは心底驚いたが、カイポはアンナの故郷であり、ギルバートとアンナが出会った村だ。
     ギルバートの様々な思いが込められているのだろうと思いながら、亡骸をカイポの墓守に頼んだ。
     本当はこの手で埋葬したいが、時間がそれを許さない。テラも、望みはしないだろう。
    「テラ。……いってくる」
     だから、一声だけをかけて。セシル達は空へと飛び立つ。

     セシル達は世界中を飛び回った。途中、地面に空いた大穴から突き出た塔のある島の傍も飛んだ。複雑な海流のせいでほとんど他国と国交をもたず、独自の文化を発展させたバロンと同じ軍事大国・エブラーナのある島だ。
     だが。
    「煙……しかも最近だわ……」
     エブラーナの城からは黒煙が上がっていた。遠目に見ても、城が廃墟と化していることが分かる。
    「……ルビカンテが、エブラーナ攻略の任を受けたと聞いた。奴の仕業だろう」
     カインが静かにそう言う。火のルビカンテ。最後の四天王の名に、セシルはすっと目を細めた。
     城の様子から見て、城が陥落したのはここ二、三日の話ではなさそうだ。ならば、城に降りても無駄足である可能性が高いし、ルビカンテと出くわさないとも限らない。
     四天王最強と呼ばれる男と、事を構えるのは避けたかった。少なくとも、今はその時ではない。
     そう結論付けた彼らがアガルトという、地底の伝説が残りドワーフの血を引く者達が住む村を発見したのは、ローザ救出から一ヵ月半も後のことだった。

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