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    FINAL FANTASY W 〜再会と真実と・6〜


    「おお……! セシルではないか。よくぞ、戻ったな」
     玉座に座ったままで、バロン王はセシルを見下ろす。その瞳からはどんな感情の色も読み取れない。
    「……陛下」
     違和感を覚えたのは、いつからだったか。ミシディア侵攻によってはっきりと形になった違和感を、思えばもう少し以前から感じていた。
    「その姿、パラディンか。立派になったな、セシル。……だが、パラディンはいかん……」
     だがそれを口にすることは出来なかった。口にすれば忠誠に反すると思っていた。そして何より、臆病だったからだ。
     今思えば、何に怯えていたのだろうと思う。
     黙って従うことが忠誠ならば、諫言だって忠誠の形であるはずなのに。
     それを怠った結果が、たぶん今の状態なのだろう。本当に、悔やんでばかりだ。
    「陛下……いや、バロン王!!」
     せめてその悔いを絶とうと、セシルは意を決して顔を上げる。セシルの呼びかけに、バロン王は笑った。悪意のこもった顔で。
    「バロン王? クカカカカ……。誰だぁ? そいつは」  その声は、低く篭っている。セシルのよく知る、強く優しいあの声ではない。
    「おお、そうかぁ……。思い出した……。この国は渡さんなどと言っていた愚かな人間の男だなぁ……」
    「っ!? ……それじゃあ、陛下は……」
     王は、いや王に化けていたものはゆっくりと玉座から立ち上がって、愉悦の笑みを浮かべる。
    「会いたいかぁ……? なら、会わせてやろう。……俺の、腹の中でなぁ!」
     その言葉に。驚きで凍り付いていたセシルの瞳が、強い怒りに燃えた。腰の聖剣を、音もなく抜き放ち王の姿をしたものへと突きつける。
    「……貴様、何者だ」
     低く静かなセシルの声に、ポロムがびくりと身を竦ませた。平坦な声音なのに、そこに込められた怒りは、深い。
    「俺かぁ? ……俺は、ゴルベーザ様四天王、水のカイナッツォ」
     そう言うと同時に、カイナッツォは正体を表す。その姿は、青く巨大な亀の姿だ。
    「俺はスカルミリョーネとは違うぞぉ? 何せあいつは、四天王になれたのが不思議なほど弱っちい奴だったからなぁ。……セシル、死ね!!」
    「我らに聖なる守護と盾を与えたまえ! プロテス!」
    「緩やかなる時よ、その流れに汝が身を委ねたまえ! スロウ!」
     テラとポロムが、ほぼ同時に支援魔法を放った。セシル達をプロテスの防御の光が包み込み、カイナッツォの動きが鈍る。
    「だああっ!」
     ヤンがカイナッツォの足に、雷の爪を装備した拳をつきたてた。ばちりと雷の走る音が、玉座の間に響く。
    「凍てつく烈風よ! 全てを閉ざす氷塊よ! 彼の者をその無慈悲な腕で包み込め! ブリザラ!!」
     パロムの詠唱と共に、ブリザラの冷気がカイナッツォを包み込む。スロウの効果に加えてブリザラの冷気でさらに動きの鈍ったカイナッツォにセシルは剣を振りかぶって、飛び掛った。その時、カイナッツォが小さく笑う。その表情に背筋に悪寒を走らせたセシルが攻撃を加えずに一歩引いたのと、カイナッツォの周囲に水のバリアが発生したのは同時だった。
    「……っ! みんな、気をつけろ!」
     何か大きな攻撃が来ることを察知出来たのは、戦士としての直感だ。
    「くらえっ!」
     カイナッツォの叫びと同時に、大量の水がセシル達に襲い掛かる。
    「くっ!」
    「うわああああっ!」
    「きゃああああっ!」
     強い威力に、幼い双子の悲鳴が響く。セシルは思わず二人の名を叫んでいた。
    「パロム! ポロム!」
     そうして水の引いた後には、身動きのとれない双子の姿が見えた。
    「くっ! 真白き光よ、優しき祝福よ! 我らを癒したまえ! ケアルラ!!」
     咄嗟に放った回復魔法だが、パラディンであるセシルが使う白魔法は効果が薄い。応急処置程度にしかならないが、それでもかけないよりはマシだ。
     ヤンとテラは双子ほどダメージはないようだが、それでも無事とは言いがたい状況だ。正直、今の一撃で戦況は厳しくなったと言わざるを得ない。
     セシルは双子を庇うように立ちはだかる。背後で、パロムとポロムが起き上がる気配を感じながら、セシルはカイナッツォを睨み付ける。セシルの視線を受けてにやりと笑ったカイナッツォは再び水のバリアを発生させた。
    「くっ! 水には、雷じゃろ! 輝ける光よ! 彼の者に裁きを! サンダー!!」
     テラが苦し紛れにサンダーを放つ。それが水のバリアに当たり、バリアが……消失した。
    「……え?」
     セシルは目を瞬かせる。雷で水のバリアが解けたように見えた。少なくとも、今の時点でカイナッツォが自分でバリアを解く意味はない。
    「……テラ! 待機してくれ! 奴が水のバリアを張ったらすぐにサンダーだ!」
    「うむ!」
     ロッドを握りなおしたテラが大きく頷く。
    「一気にいくぞ! みんな!」
     セシルの言葉に全員が大きく頷き、奮起した。まだ、希望は費えていない。勝負はついていない。
    「真白き光よ、優しき祝福よ! 我らを癒したまえ! ケアルラ!」
     セシルの放つ魔法よりも遥かに力強い癒しの光が、セシル達全員を包み込む。魔力を解き放ったポロムの横で、ヤンが目を閉じ、精神を集中させ始めた。
    「ミシディアの天才児をなめんなよ! 亀もどき! 凍てつく烈風よ! 全てを閉ざす氷塊よ! 彼の者をその無慈悲な腕で包み込め! ブリザラ!」
     強がりなのか本心なのか微妙に分からないセリフの後全霊を込めて放ったパロムの魔法が炸裂する。その威力に、カイナッツォは反射的に水のバリアを張るが、しかし。
    「無駄じゃ! 輝ける光よ! 彼の者に裁きを! サンダー!」
     待機していたテラの魔法があっさりと打ち砕く。
    「はああああああっ!」
     飛び上がった勢いと重力で更に力を増したであろう、ヤンの研ぎ澄まされた踵落しがカイナッツォの固い甲羅を砕き、そして。
    「終わりだっ! カイナッツォ!」
     セシルの薙ぐような攻撃が、この戦いを終わらせる最後の一撃となった。

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