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第三話

 広場を見渡せる所にあるカフェのテラス席についたウェルチとジーナの前に、それぞれの飲み物が運ばれてくる。
「……もうだいぶ暑いのに、よくホットなんて飲めるよね」
 ウェルチの前に置かれたホットティーのティーカップをまじまじと見つめ、ジーナが感心したように呟く。
「うん。ホットが好きだもの」
 祖母が生前お茶を淹れてくれた時は、ホットの事が多かった。そのせいかウェルチはどちらかというとホットの方が好きだ。よっぽど喉が乾いていなければ、アイスよりもホットを選ぶ。
 今日は気持ちを落ちつけたいから、なおさら温かい飲み物を飲みたい気分だった。
「ジーナ。話ってなぁに?」
 首を傾げつつホットティーに口をつけるウェルチを、ジーナは緑色の瞳でまっすぐ見つめて真剣な声音で言った。
「あんた……ティオに告白されたでしょ!」
「っ!?」
 質問ではなく断言したジーナの言葉に、ウェルチは思わずお茶を噴きそうになったが、何とか堪えて飲み込む。しかしどこか変なところに入ったのか、鼻の奥がつんと痛くなり思わず咳込んだ。
「……お〜、動揺してる動揺してる。……だいじょぶ?」
「だ、いじょぶ……」
「……で、そんだけ動揺してるってことは……やっぱりそうなのね! ティオってば、ついに言ったのかぁ! ようやくヘタレ返上ね!!」
 そう言って顔を輝かせるジーナに、ウェルチは頬を赤く染める。
「な、何で……」
「何で……? ああ、何でティオが告白したか分かったのって聞きたいのね?」
 付き合いが長いせいか、ジーナはウェルチの表情だけで、ウェルチの内心を言い当てる。ウェルチはこくこくと頷いた。
「……なんか、随分と前からティオのこと避けてるような気がしてたのよね。前は月二回くらいはここで顔会わせてたのに、ここのところそれもないし。でも、あの人もあれでなかなか忙しいみたいで、そうしょっちゅう町を出歩けるわけでもないみたいだし、気のせいかなぁと思ってたのよ。でもね」
 そこでジーナの瞳がきらりと輝いた、ような気がした。
「この前あんたが来たとき、偶然ティオと会ったでしょ?」
 言われて、ウェルチはゆっくりと頷いた。そう、確かに会った。何をしゃべっていいのか分からなくって、妙に気まずく、ぎくしゃくしてしまったのだ。
「様子が変だったじゃない。……だから、もしかして告白されたかなぁって」
「え、ちょ、ちょっと待って……? それで、何で、告白って結論が……」
 確かに、ウェルチとティオの様子はこの間、おかしかった。けれど、なぜその理由を告白と断定しているのか。喧嘩とか、それ以外にも関係が気まずくなるようなことはあるだろうに。
 そう思ったのに、なぜかジーナは小さく苦笑した。
「……ウェルチって、本当にまったく気づいてなかったのね」
「え?」
「ティオって、小さい頃からずぅっとあんたのこと、好きだったのよ。しかも、ティオ自身はそれをちゃんと隠してるつもりだったみたいだけど。町で知らない人はいないんじゃないかってくらい、バレバレだったわ。……ま、想い人には知られてなかったから、いいのかしら」
 首を傾げるジーナの言葉を瞬きを繰り返しながらぼんやりと反芻したウェルチは、その意味を理解するとかっと目を見開いた。頬の熱はひかないままだ。
「ええええええっ!?」
 びしりと硬直したウェルチを、ジーナは面白そうに眺めている。ジーナの注文したアイスコーヒーの氷がたてたからんという音に、ウェルチは我に返った。
「ずずずずず、ずっと?」
「そう、ずーっと」
「え? バ、バレバレ……?」
「そうよ〜。気づいてなかったのは当人達のみってやつ?」
「ええー……」
 呆然とするウェルチに、ジーナはずいっと身を乗り出す。
「で? いつ、告白されたの? 教えなさいよっ」
「お、教えなさいって……えっと……」
「どーせ、一人で抱え込んだってぐじぐじするだけでしょ? あんた、その手の経験値低そうだし。だったら、ここで整理しなさいよって言ってんの。……面白そうだし」
「面白そうっ……・」
 ウェルチは苦笑している。面白がっているというのは確かにあるだろうけれど、ジーナの声にウェルチを案じる色が強い。
「えっと、ね……あの……。春、に……」
「はぁっ!? 春ぅっ!? 今、夏よ!? そんな前に告白されたの!?」
「う、うん……」
 そうしてウェルチはぽつぽつと語りだした。春の気配が日に日に強くなっていく、あの日。ティオがウェルチの家に勇気の出る薬を求めて訪れた日のことを。

 

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