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    記憶のうた 第二章:めぐり逢う世界(5)


    「ママーーッ!」
    「エルナッ!!」
     飛竜の背から飛び降りた少女が母親の腕の中に飛び込み、それを囲む村人達が歓声を上げる。そんな感動的な光景を背景に。
    「ふっふーん。どうだっ! 凄いでしょ〜っ!」
     召喚した飛竜をいずこかへ還し、ぬいぐるみを抱え胸を張る少女は、色々と台無しだった。
    「……ぎりぎりだったな」
     得意げなリアは半ば無視して、ウィルは先程まで少女がいた中洲が濁流に呑まれていくのを見ていた。
    「よかったです……」
     ウィルの隣でソフィアがほっと安堵の息を吐いた。
    「ちょっとウィルちゃんっ! 聞いてる!?」
    「あー、はいはい。すげーすげー。びっくりしたなぁ」
    「うあ、超棒読みっ心こもってないし!」
    「気のせいじゃねぇ?」
     凄いとは思っている。感心もした。それを素直に表すかどうかはともかくして。
    「凄かったですよ! リアさん! 私、召喚術初めて見ました!」
     ソフィアが若干興奮気味なのは、召喚術を目の当たりにしたのと少女が助かった安堵感によるものだろうか。
    「えっへへ〜。ありがと、ソフィアちゃん」
     にこにこと笑い合っている二人の横で、ウィルは腕時計に視線を落とした。
    「……予定より遅れちまったな。そろそろ行くぞ。今日中にウェードに到着したい」
    「あ、そうですね。それじゃあ、リアさん。またいつか」
     頭を下げ、歩き出す二人にリアが後をついて歩きながら首を傾げた。
    「ウェード? あそこ何にもないよ? 何しに行くの?」
    「古代術を探しているんです」
    「古代術? 何で?」
     さらに首を傾げるリアの疑問に、ほんの一瞬、ソフィアの表情が翳った。
    「……こいつ、古代の呪いのアイテムを装備しちまってな。解呪方法を探してるんだ」
     さらりと横から口を出すと、リアはそっかなるほどと小さく呟く。ソフィアは目を丸くしてウィルを見上げたが、ふと仄かに微笑んだ。咄嗟にウィルは視線を逸らす。慣れない事などするものじゃない。そんな二人の様子を見ていたリアがにたぁっと笑った。
    「もしかしてー……二人って恋人同士?」
    「は、はいいぃっ!?」
     ソフィアが珍妙な声を上げて顔を真っ赤にし、ウィルはがっくりと肩を落とす。
    「……どうしてそうなる」
    「だってー、今何か目と目で通じ合ってたし〜。ねぇ、ぽち?」
    「むぅ」
     妙な鳴き声とともに、ぬいぐるみがこくりと頷いた。
    「……今、ぬいぐるみが鳴かなかったか?」
    「う、動いたような気もしますね……」
     恋人発言も吹き飛ぶような現象を目の当たりにし、二人の注目はリアの腕の中でもぞもぞとしているぬいぐるみに落ちる。
     何でぬいぐるみが動くのかと突っ込むべきか、くまと思わしきぬいぐるみの鳴き声が「むぅ」でいいのかと突っ込むべきかをウィルは真剣に迷った。動揺しているらしい。
    「ねぇ〜。で、どうなの?」
     そんな二人が受けた衝撃などどこ吹く風で、リアはきらきらした瞳でウィル達を見上げている。恋に恋するお年頃、というやつだろうか。
    「……どうも何も俺、こいつの保護者みたいなもんだし」
    「あ、あはは〜。た、確かに……」
    「え〜!?」
     リアは何故か不満そうに口を尖らせ、それからにっこりと笑った。
    「よっし決めた〜! あたし、ウィルちゃん達について行くっ!」
    「「は?」」
    「修行中って言っても、目的地とかあるわけじゃないし! あたしが手伝ってあげる!」
    「待て! 何勝手言って……」
     そこでウィルは言葉を切った。まじまじとリアを見つめる。
    「ウィルさん?」
    「ウィルちゃん?」
     二人の視線を感じながら、ウィルは口元に小さく笑みを浮かべた。
     動転していた気が落ち着いて、ようやく気付いたのだ。これで魔跡に入れるかもしれないということに。
    「リア。ついて来る云々は別にして、協力してもらいたいことがある」
    「え? 何々〜?」
     ウィルの意図に気付いたらしいソフィアが、あっと声を上げた。
     魔跡に入るという最難関の問題は、どうやら思わぬ形で片付きそうだ。

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