Sweet planへ INDEX オマケその2へ

    記憶のうた 番外編:Sweet plan・オマケその1


     ピンクのリボンで可愛くラッピングされた箱を持って、リアはガジェストールの城内を元気良く走る。
     だが、広い城内を当てもなく走るにはやはり限界がある。リアは立ち止まると眉を八の字にして、首を傾げた。
    「う〜ん……どこから探そう。すっごい広いんだもん。どこにいるのか想像つかないよぉ。ねえ、ぽち?」
     リアの言葉に同意するように、ぽちが頷く。
    「むぅ!」
    「……お嬢は何を探してるのかな〜?」
     ぽちの鳴き声と被せるように頭上から降ってきた声に、リアは飛び上がらんばかりに驚いた。
    「うみゃっ! ユ、ユートちゃんっ!?」
    「むうううっ!」
     自分を見上げるリアと抗議の声を上げるぽちに、ユートは気の抜けた笑みを浮かべる。
    「驚いた〜? ごめんごめん。許してよ、お嬢、くまごろ〜」
     この前はぽちのことをくまのすけと呼んでいた気がするのだが。
     少しだけそう思ったリアだったが、それを突っ込むことなくまあいっかと片付けた。
     リアは良くも悪くもアバウトな少女だ。
    「も〜う。レディに対する声のかけ方がなってないよ? ユートちゃん」
     代わりにそう言えば、ユートは肩をすくめる。
    「おわ、怒られちゃったよ。こりゃ、坊やをからかってる場合じゃないね。俺様も修行不足だわ」
     ユートの口調がおかしくて、リアはくすくすと笑う。
    「……で? お嬢は何を探してたの? 俺様も手伝おっか?」
     珍しく親切なユートに、しかしリアは首を横に振った。
    「ううん、いい。大丈夫。……だって、ユートちゃんのこと探してたんだもん」
    「そうなの?」
     リアは大きく頷くと、持っていた箱をユートに差し出した。
    「はい! ユートちゃん」
    「ん? 俺様に? 何かな?」
    「ティアちゃんに教えてもらってあたしが作ったチョコレートボンボン」
     リアの言葉に、ユートは首を傾げた。箱はまだ、リアの手の中だ。
    「チョコレートボンボン? 何で? 誕生日プレゼント? あれ、俺様誕生日いつだっけ?」
    「知らないよぉ、聞いてないもん。……えっとね、今日はバレンタインなの。バレンタインにね、感謝の気持ちを贈る人達もいるんだって、ティアちゃんに教わってね」
     そう言って、リアはもじもじした。
     ソフィアの言うとおりだ。改めてお礼を言うって、物凄く照れくさい。
     それでも、伝えたかった。
    「でね、でね。……この前、ユートちゃんに色々聞いてもらったりしたでしょ? だから、そのお礼」
     そう言って、再度ユートに向けて箱を差し出す。
     何だか恥ずかしくて、照れくさいけれど。感謝の気持ちが伝わるように、まっすぐにユートを見る。
    「ありがと、ユートちゃん。聞いてくれて。あたし、ずっとお姉ちゃんのこと誰かに言いたかったから……言えて、すっきりしたの」
     リアの言葉に、ユートは珍しく曖昧でも何でもない自然な笑みを浮かべた。
    「お嬢の気持ちだね。……じゃあ、遠慮なく」
     ユートの手に渡った可愛らしいラッピングの箱に、リアはほっと息を吐く。
     受け取られなかったらどうしようと思っていたのだ。
    「食べてい〜?」
     聞きつつも、ユートの手はすでに箱の包装紙をはがし、中に納まったチョコレートを摘みあげている。
    「いいよ〜。ユートちゃんにあげたんだもん。……ただね、あたし味見はしてないの。ティアちゃんが教えてくれたから大丈夫だとは思うけど……まずくても怒んないでね?」
    「あはは。お酒の入ったチョコだもん。そりゃ、味見できないよねぇ。……だーいじょうぶ。お嬢の愛を残すような真似はしないから〜」
     いつもどおりの曖昧な笑みを浮かべてそんなことをのたまうユートに、リアは一瞬で顔を真っ赤にした。
    「あああああ愛〜〜っ!? なななな何言っちゃってるの!? ユートちゃんっ!?」
    「あっはは〜。お嬢ってば真っ赤〜。照れなくってもいいのに〜。……あ、うまーい」
     照れるという言葉にさらに顔を赤くしたリアだったが、最後の言葉を聞いた瞬間、顔を輝かせる。
    「ほ、本当? おいしい?」
    「ほんと、ほんと」
    「やったぁ! あのねあのね、お夕飯にはチョコケーキもあるんだよ! ソフィアちゃんとティアちゃんと三人で作ったの!」
     今度は興奮に顔を赤くするリアに、ユートは相槌を打ちながらもチョコレートを頬張る。
     ガジェストールの城内の片隅に、明るい少女の声が弾けた。

    Sweet planへ INDEX オマケその2へ

    Designed by TENKIYA
    inserted by FC2 system