オマケその1 INDEX

    記憶のうた 番外編:Re:Sweet plan・オマケその2


     ティアは例によって例のごとく、厨房へと続く廊下を歩いていた。ふと、顔を上げ首を傾げる。
    「……甘い、匂い……?」
     この時間にパティシエが厨房を使っていることはあまりない。だからこそ、ティアも自由に使わせてもらえているのだ。たまに、試作品を作るパティシエが使っていることもあるけれど、そう言う場合は十中八九ティアに声がかかる。
     だが、今日は特に誰と約束した覚えもない。
    「……誰だ?」
     ちょっとした興味を覚えつつ、厨房を覗き込む。すると、そこにいたのは。
    「リュカ?」
    「わあああああっ!? ティ、ティア!?」
     ピンクの布地にフリルのエプロンをつけたリュカの姿だった。
     色んな意味で驚いて瞬くティアの姿に、硬直していたリュカの顔色が赤くなる。
    「どどどどうしたの!?」
    「……お菓子を、作ろうかと思って。……リュカ、その姿」
     その言葉に。赤かったリュカの顔色が一瞬で青くなった。
     何だか、リトマス試験紙のようだ、と思いつつティアは目元を和ませる。
    「よく似」
    「ああああああああっ! 言わないでっ!!」
     ティアの表情から、彼女が言おうとした言葉を察したリュカは大声を出して続きを遮る。ティアは不思議そうに瞬いた。
    「……何故?」
    「何でも! 男の沽券に関わるの!」
     どこの男が好きな女性にふりふりピンクのエプロンが似合うとか可愛いとか言われたいものか。
    「……なら、何でそんな格好を……」
     男の沽券云々の意味は分からずとも、ピンクのエプロンがリュカにとっては不本意なものだということは理解したらしい。ティアの問いに、リュカはうっと声を詰まらせる。
    「僕、エプロンとか持ってないし。それで、クレメンテ様に相談したら……物凄い笑顔でこのエプロン渡された……」
     拒否出来なかったんだよぅ、とリュカは呟くが、この場にウィルがいたら絶対にこう突っ込むだろう。「相談する相手が悪い」と。
    「……事情は分かった。だが、何故エプロンを着る必要がある?」
    「え? 料理しようと思って。それ以外にエプロンってあんまり着ないよね?」
     しかも、ピンクのふりふりエプロンを。
    「リュカが料理をしようなんて、珍しいから。何をしてるんだ?」
    「それは、ホワイト……!?」
     あっさりと答えかけ、リュカは慌てて口を紡ぐ。さすがのティアも言葉を拾えなかったらしく、首を傾げた。
    「ホワイト……?」
    「えええっと……。教えるから! ……だから、ティア。ちょっとここに座らない?」
     そう言って、カウンターの席を指差せば。ティアはこくんと頷いた。
    「……分かった」
     そうしてかたんと椅子に腰掛けたティアの前にリュカが差し出したのは、少々不恰好なチーズケーキと紅茶だった。
    「……リュカが、作ったのか?」
     こくこくとリュカは無言で頷く。
    「……食べても?」
     その問いにもリュカはこくこくと頷くのみだ。ティアは、そんなリュカの様子を不思議そうに見つめたがややって、フォークを手に取った。
    「いただきます」
     一口サイズに切って、口に運ぶ。それをリュカは物凄く緊張した面持ちで眺めている。
    「……おいしい」
     ティアの小さな感想に、リュカはばっと顔を上げた。
    「ほ、本当に!? 無理してない!?」
    「してない。本当においしい」
     そう言ってもう一口運ぶと、リュカは安心したようにカウンターテーブルに伏せた。
    「良かったぁぁ〜……」
    「……そうか、今日はホワイトデーだったな」
     その言葉に、リュカはばっと起き上がって、頷く。
    「……色々、迷ったんだけど。ティアが手作りの物をくれたから……僕も手作りで返そうかなって思って」
     照れくさそうに言うリュカに、ティアは珍しくそうと分かるほどに微笑んだ。
    「確かに、受け取った。……ありがとう、リュカ」

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