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    記憶のうた 番外編:魔法のステッキ!?


    「ん〜? 何かな? 坊や」
    「……っだからっ! 坊やって言うなぁっ!!」
     既に日常茶飯事と化したそのやり取りに、ウィルは小さくため息をついた。
    「……飽きないな、あいつら」
    「一日一回はあのやり取り聞くよねぇ。ねっ、ぽち!」
    「むぅっ!」
     そのやり取りを見ていたティアが小さく首を傾げた。
    「……何でリュカは、背が低いことをあんなに気にするのだろう……」
    「「「えっ!?」」」
     ティアとしては些細な疑問だったのだろう。何の気なしに呟かれた言葉に、ウィル、ソフィア、リアの声が綺麗に重なった。
     その問いへの答えは簡単だ。リュカのティアへの想いを考えれば、リュカが身長にこだわる気持ちも理解できる。
     問題は、もっと根本的なところにある。ティアが、あんなに分かりやすいリュカの好意をまったく理解していない、ということだ。
    「あのままでいいと思うのだが。……可愛いし」
     ティアの言葉に、リアがうわぁと悲壮感漂う声を上げた。慌てたソフィアがちらりとリュカ達の方に視線を送る。リュカとユートは相変わらずのやり取りを続けていて、ティアの発言が聞こえたような様子はない。
     ほっとソフィアが安堵の息をつくのを見ながら、ウィルはティアの肩をぽんっと叩いた。
    「ティア。頼むからその言葉、リュカには言うなよ」
    「……何故だ?」
    「何でもだっ!」
     リュカは基本的に、ティアに褒められれば喜ぶ。喜ぶが……小さくて可愛いと言われて、あの男は果たして喜ぶだろうか。……多分、とりあえずは喜ぶだろう。けれど、同時に物凄く落ち込む。そして、後でウィルが愚痴の相手をするはめになる。
     その相手は延々と時間がかかるので結構面倒くさいし、さすがにリュカが哀れだ。
    「よく分からないが……分かった。言わない」
     こっくりと頷くティアに、ウィルははーっと息をついた。当面の危機は回避された、気がする。どうしてこんなに深刻になってるのかは分からないが。
    「だが……もしかして皆は、リュカが大きくなりたい理由を知っているのだろうか?」
     知っているも何も、と思ったが。ティアは気付いていない、というか理解していないのだ。そうなると非常に答え辛い質問である。
    「……男には色々あるんだよ」
     苦肉の策でそんな言葉で濁してみると、ティアはそうかとあっさりと頷いた。
    「そんなものかもしれないな」
     あっさりと引いてくれたのは助かるが、もうちょっと気にしてやれよ、と思わなくもない。矛盾だ。分かっている。
    「リュカちゃん……哀れ……」
    「春が来るといいですよねぇ……」
     ふっとリアとソフィアが同情の視線を向けると、その先ではまだ言い争いが続いていた。
     言い争いというよりも、リュカが一方的につっかかっているだけなのだが。
    「でも、本当に毎日あんな感じだよね。リュカちゃんとユートちゃん。……仲良くないのかなぁ?」
     リアがぽちをぎゅっと抱きしめて首を傾げる。その言葉を否定したのはソフィアとティアだ。
    「……違うと思いますよ?」
    「そうだな。少なくとも、リュカはユートを嫌っていない、と思う」
    「そうなの?」
     更に首を傾げるリアに、ウィルは半ば呆れた視線をリュカ達に向けつつ頷いた。
    「……だろうな。ユートは反応を楽しんでるだけだし。リュカは……うらやましいんだろ、背の高いユートが」
     今いるメンバーの中で、ティアより身長が高いのはユートだけだ。対抗意識やら何やらを燃やしているだけに違いない。
    「……そっか、ユートちゃんおっきいもんねぇ」
     納得したようなリアの言葉に被るように、リュカの声が響く。
    「だいったいな! 何をすればそんなに背が高くなるんだよっ! 僕なんて早寝早起き偏食なしを心がけてるのにっ!」
    「気にしすぎるのも良くないんでない? ……そうだ、そんな坊やに俺様が背が高くなる魔法をかけてあげよう」
     にんまりとしたその笑みも言葉も胡散臭いことこの上ない。この上ないのだが。
    「えっ!? 本当!?」
     リュカはあっさりと信じた。それだけ、身長に対する憧れがあったのかもしれない。
    「……おいおい」
    「え、えーと……」
    「リュカちゃん……」
     それぞれが頭を抱える一方、ティアが納得したようにひとつ大きく頷く。
    「確かに、色々とあるのだろな。すごい熱意だ……!」
     突っ込みたいが、もはやどこから突っ込めばいいのかすら分からない。疲れた表情をするウィルの前で、胡散臭いやり取りは続く。
    「ほんと、ほんと〜。何せ俺様魔力あるし!」
    「そっそうか! そうだよね!」
    「そうそう。んじゃ、目を瞑って〜」
    「うん!」
     普段のリュカはここまでアホではない。だが、恋は盲目というか、それほどに想いが強いというか、何も見えていない現状では、アホそのものだ。
    「はーい。魔法のステッキ〜」
     そう言ってユートが手をかけたのは――背中の、大剣。
    「……あれはステッキだったのですか!」
    「んなわけねーだろがっ! ……てか、あの剣……キメラぶっ潰してなかったっけ……」
     ソフィアのボケた発言にウィルが突っ込みつつも冷や汗を流すのと。
    「ぱられるぱらそる〜、ぱらりらちゃらりら〜っ」
     極めて適当な呪文らしきものを唱えて、ユートが大剣を振り下ろしたのは同時だった。
     ごーん、と景気の良い音が響く。
    「よしっ!」
    「よしっ! じゃねぇっ! 何やってるんだお前はっ!」
    「だってほら、ちゃんと伸びたよ?」
     そう言ってユートが指し示した先には、地面に伸びたリュカとその頭に出来た巨大なたんこぶ。
    「有言実行! 俺様やれば出来る子! 凄くない? 凄くない!?」
    「アホかぁぁぁぁっ! 何にも凄くないわっ!」
     絶叫するウィルの足元で、リュカが何だか満足そうに気を失っていた。 

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