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    記憶のうた 番外編:ぽち曰く

     我輩はぽちである。ここで重要なのは発音なのである。
     ポチではない。ぽちである。名は体を表すが故、これは譲ることができないのである。
     我輩、リアという愛らしい召喚士の少女にお仕えするくまのぬいぐるみなのである。
     リア殿の仲間の一人、ウィル殿は我輩のこの姿を見て「くまというには違和感がある」などと言っておったが、失礼な話である。
     このふわもこの茶色い毛並み、つぶらな瞳。すっと高い鼻にピンと伸びた三本のヒゲ、さらにくるりと上向に丸まったしっぽとくれば、立派なくまのぬいぐるみではないか!
     ……む? ウィル殿ではないか。……何々?
     ……何だと!? このしっぽの形状は豚であると申すか!?
     そ、そんなことはないのである! 我輩がくまであることに間違いはないのである! 茶色いふわもこの豚などいないのである!
     あぁ、ソフィア殿! いいところに! この頭でっかちの男に何か言って……。
     ソフィア殿!? 貴女まで我輩がくまではないと申すか!? くまさんのぬいぐるみにヒゲが生えているものは見たことがない、であるか!? い、犬!? 我輩の鼻が犬に似てると申すのか、ソフィア殿!?
     ……リア殿。「ぽちはぽちだよ〜」とのお優しいお言葉も、今の我輩には虚しく響くのみである……。
     我輩、何者であるのか……。

     いや、今日は我輩のことはよい。我輩、リア殿とそのお供について語ろうと思うのである。
     まずはリア殿。我が主。召喚士一族の少女である。可愛いものとコイバナが大好きなのだそうである。今はある事情により実家を離れ、修行中の身なのである。
     事情については、我輩も存じてはおる。
     しかし、我が主が心痛める故、おいそれと語ることは許されぬのだ。……幼いのに健気な少女なのである。むぅぅ……。
     我輩! 誠心誠意お仕えすることをここに改めて誓うのである!!
     他にも、リア殿は実は魚介類がお好きだとか、猫がお好きだとか、旅の行く先々でリボンを買い集めるのが趣味だとか語り始めればたくさんあるのであるが……。
    キリがない故、これくらいにしておくのである。リア殿の愉快な仲間についても少々語らなければならぬ故。
     そして、リア殿の旅のお供、その一。ウィリアム殿。皆、ウィリアムの愛称であるウィルと呼んでいる青年である。
     銀髪の顔立ちの整った青年ではあるが、目つきが悪いのである。口も悪いのである。愛想もないのである。我が主を見習うといいと常々思っているのである。
     機械が得意で頭が良いらしく、時々リア殿を馬鹿にしているのである。確かにリア殿は勉学が得意ではない。……が、しかし!
     我が主をいじめるなど、我輩が許さんのである!
     だが、この青年。不思議な雰囲気を持っているのも事実なのである。動きが洗練されているのである。我輩の目はごまかされんぞ!
     ちなみに、リア殿はウィル殿とソフィア殿がいつ「お付き合い」に発展するかを見届けたいそうなのである。
     ソフィア殿……。この少女も不思議な少女である。いつもは穏やかな少女であるが、異常に気配に聡い方である。ソフィア殿のおかげで、奇襲を受けたことは一度もないのである。
    そして、身に宿している魔力が桁外れなのである。我輩、リア殿お仕えしているが故、魔力に敏感であるのだが……。
     呪いの指輪を装備してしまい、その解呪方法を探しているとの事であるが、僭越ながら指輪の呪いが魔力を不安定にさせているようにも見えるのである。
     ソフィア殿も我が主と同じように、健気なのである。
     うむ。我輩、出来る限り力になろうぞ!
    強く強く、夕日に誓うのであるっ!!
    ……と、む? リュカ殿とティア殿である。このお二方は、最近加わったばかりなので、語れるほどに観察が出来ていないのであるが……。
     リュカ殿は、小さい方である。しかし、本当は成人しているらしいのである。……つまり、今のこの姿は仮の姿ということなのであろうか?
     見た目は子供であるが、頭脳は大人……にも見えないのであるが……。
     ううむ。不思議なのである。
     ティア殿は、とても綺麗な女性なのである。白い髪と赤い瞳がとても印象的な女性で、可愛いものと甘いものが大好きなのだそうである。
     一緒に旅することになった時、ウィル殿と険悪なムードになりかけたであるが……。
     ティア殿も、色々と謎が多い女性なのである。
     我輩、さらに観察を深め、リア殿がお供と友好的な関係を築けるよう、努力するのである!

    「……さっきから、ぽちがひったすら鳴いてて、いいかげんうっさいんだが」
    「それに何だか手をぱたぱたさせていますけど……。何かあったんでしょうか?」
    「うーん。何か、力説してるっぽいよ?」
    「……何を訴えたいんでしょうか?」
    「俺に聞くなっ」

    「やはり……可愛い……」
    「だよね! 僕もそう思うよっ! ティア」
    「むぅぅぅっ」

     惜しむらくは、我輩の真意が届くには道のりが険しいことである!
     まだまだ、訴えたいことがあるのであるからしてっ!

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