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    FINAL FANTASY W 〜PRELUDE・4〜

     兜を取り、銀の髪を風に晒しながら。セシルはベッドの上から、夜空に輝く二つの月を眺めていた。
     暗闇の中で白く輝く月は、不思議とセシルの心を落ち着かせてくれる。幼い頃から、セシルは月に不思議な感覚を覚えてた。懐かしさにも似た、不思議な感覚。
     月明かりが差し込むだけの薄暗い部屋で、セシルは物思いに耽る。
     陛下は、一体どうしたというのだろう。身寄りのない自分を、まるで我が子のように優しく厳しく育ててくれた、陛下。まるで人が変わってしまったかのようだ。
     クリスタルのある地は、その恩恵を受けるとは聞くが、このような惨事を起こしてまでバロンに必要だとは、どうしても思えない。
     高く響く靴音に、セシルは顔を上げた。ローザが部屋の入り口に立っていた。
    「セシル……」
     ローザが静かに部屋に足を踏み入れる。
    「一体、何があったというの?急にミシディアに行ったと思えば、次は幻獣討伐だなんて……。ミシディアで何かあったの?」
     セシルを案じる彼女の声も、今のセシルには辛いものでしかない。ローザに心配される資格など、自分にはありはしないのだ。
    「……いや。何もないよ」
     ローザの真摯な瞳から逃げるように、セシルは視線を窓の外に移す。
    「だったら……こっちを向いて!」
     セシルは小さく項垂れた。自分が情けなくて、ローザを見ることは出来なかった。
    「僕は……ミシディアで罪もない人々から、クリスタルを奪った……。この暗黒騎士の姿同様、闇に染まってしまったんだ。……僕の、心も」
    「……あなたは、そんな人じゃないわ」
     ローザの労るような、優しい声音が心を抉る。
    「いいや、違う!僕は……僕は、陛下の命令には逆らえない臆病な暗黒騎士なんだ」
    「『赤き翼』のセシルは、そんな弱音は吐かないはずよ!」
     凛とした声が、暗い部屋に響く。しかし、その後に続けられた言葉は、消え入りそうなくらいに儚かった。
    「……私の好きなセシルは……」
     儚く紡がれた言葉は、もちろんセシルの耳に届いていたけれど、セシルは聞こえなかった振りをした。それは、叶わない夢だから。
     ローザが小さくため息を零す。
    「……明日はミストへ幻獣討伐に行くんでしょう?あなたに何かあったら……私……」
     不安そうに肩を震わせるローザに、セシルはベッドから立ち上がると笑いかけた。
    「大丈夫。カインも一緒だ」
     その言葉に、ローザが目に見えて安堵したのが、暗い中でも分かった。ローザとカインは幼い頃から家族ぐるみでの付き合いがあり、ローザはカインを実の兄のように慕っているのだ。
    「さ、もう遅い。君も休むんだ」
     優しくそう促すと、ローザは形の良い眉をきゅっと寄せ、それから仄かに微笑んだ。
    「気をつけてね」
    「ああ」
     ローザは名残惜しそうにセシルを見ると、そのまま踵を返し、セシルの部屋を後にする。
    「……ありがとう、ローザ。だが……今の僕は、君の気持ちには……」
     闇に身を委ねる自分に、光の道を歩む彼女の気持ちに応える資格など、ありはしない。
     ……どんなに、望んでも。

     セシルは暗黒の装備一式に身を包み、空を見上げた。
     抜けるような青空。旅立つには絶好の日和だ。
    「……行くか」
     隣に並び立ったカインに、セシルは頷く。
    「頼りにしてるよ、カイン」
     そうして左手を拳を握って上げれば、カインが楽しそうに口元に笑みを浮かべ、右手拳を打ちつけた。
     高い金属音が、早朝の城内に響く。
    「フッ、任せておけ」
     セシルは、一度だけバロン城を振り返った。
     これが全ての運命の始まりだと知る由もないまま……。
     二人は一歩を踏み出した。

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