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    FINAL FANTASY W 〜PRELUDE・2〜

    「それにしても、さすが『赤き翼』の部隊長・セシル殿ですな。魔法国家のミシディアからこうも簡単にクリスタルを持ち帰られるとは。…ミシディアがクリスタルを保有し続けるのは危険ですからな。お見事でした」
     バロン城の堅牢な城門をくぐった先で、ベイガンがそう声をかけ笑った。
     バロン有する八つの部隊の一つ、近衛兵団を率いる彼は、セシルよりも十以上年嵩だが、誰に対しても丁寧な態度を崩さない。この城で忌み嫌われがちなセシルとも穏やかに接してくる数少ない人物のうちの一人である。…それが、上辺だけだったとしても。
    「……しかし、ミシディアの人々は……まるで無抵抗だった……」
     セシルの微かな呟きに、ベイガンは軽く眉を上げた。
    「何をおっしゃっているのです?……さぁ、陛下がお待ちです。参りましょう」
    「……ああ」
     セシルの声は未だ覇気もなく、暗い。城内を歩き進めた二人は、最奥の大きな扉の前で立ち止まった。
    「セシル殿のご帰還は王の耳まで届いているとは思いますが……私が取次ぎをしてまいりましょう。ここでお待ち下さい」
    「ああ、頼む」
     お任せ下さい、とベイガンはにこやかに言うと、扉の奥へと姿を消した。
     いくらセシルが王と近しいといっても、これは任務の報告なのだ。公私の分別はつけなければならない。
     セシルは小さく俯いた。目を閉じれば、蘇る光景がある。脳裏を過ぎる言葉がある。それらはすべて幼い頃に陛下の膝の間で聞かされた言葉だ。
     ――…よいか、セシル。むやみに争ってはならぬぞ。争いは悲しみを生み、悲しみは憎しみを生み、憎しみは争いを生む。それはとっても苦しい世界だ。…だから、セシル。むやみに争うでないぞ。
     分からないながらもセシルが大真面目に頷くと、陛下は優しい笑顔でセシルの銀髪を撫でてくれた。
     幼い心に刻み付けたその言葉は、今も鮮明に輝いているのに。
     なのに、何故。陛下は争いの発端となりかねない命令を下すのか。
    「セシル殿、陛下がお呼びです」
     ベイガンの声に、セシルははっと我に返った。小さく息を呑み、重々しく開かれた扉を潜る。
     玉座に、バロン王は姿勢正しくかけていた。鋭い眼光がセシルを射抜く。セシルは王の前で膝を突き、深々と頭を垂れた。
    「……『赤き翼』ただいま御前に戻りました」
    「うむ。セシル、よく戻ったな」
     低く、威厳のあるバリトンの声が、広間に響く。
    「……して、クリスタルは?」
    「はっ、こちらに!」
     セシルは取り出した水のクリスタルを、ベイガンが恭しく差し出した赤い布の上にそっと置いた。こういった公式の場で王に近づけるのは、近衛体長のみだ。ベイガンがバロン王にクリスタルを差し出した。
    「おお……これは、まさしく水のクリスタル」
    「何と眩い……!」
    「ご苦労だったな、セシル。もう下がってよいぞ」
     形ばかりの労いだ。任務をこなすごとに向けられた厳しい中にも穏やかな視線。それを感じなくなったのは、いつからだろう。
     世界に感じる異変。だが、異変はセシルの身近なところで既に起こっていたのだ。
     セシルは静かに立ち上がり、王に背を向けた。そして数歩歩みを進めた場所で、立ち止まる。唇をかみ締め、手を硬く握り…決意を持って振り返った。
    「……陛下!」
     クリスタルに魅入っていたバロン王とベイガンの肩がびくりと震える。
    「な、何ですか、セシル殿!?無礼な!」
     セシルはベイガンの言葉を無視した。話をしたいのはこの者ではない。
    「恐れながら、陛下。お伺いしたいことがございます!」
     セシルの言葉に、王の眉がぴくりと動いた。セシルは勢いそのままに声を上げる。
    「此度のミシディア侵攻に何の意味があるのでしょうか!?兵士達の間でも不信の声が上がっております!!」
     セシルの言葉に、バロン王は目を細める。その視線のあまりの冷たさに、セシルは背筋に悪寒が走るのを止められなかった。
    「……お前をはじめとして、か?」
    「!?…っそのようなことは!」
    「私が何も知らぬとでも思ったか。……お前ほどの者が私を信頼してくれぬとはな。……お前に『赤き翼』を任せておくことは出来ぬ。これより、『赤き翼』の部隊長の任を解任する。…代わりに幻獣討伐の任に就くがよい」
     王のその言葉に、セシルは後頭部を鈍器で殴られたような、強い衝撃を受けた。
    「そんな……」
     掠れた声で紡ぐことができたのは、その一言だけだ。
     その時だ。
     王の間の扉が、けたたましい音ともに開いたのは。
    「お待ち下さい!陛下!!」
     青い竜を模して作られた甲冑に身を包んだ男が、セシルの横に並び立つ。
    「セシルは決して、そのような……」
     その言葉に、王は小さく笑みを浮かべた。その笑みが爬虫類めいて見えて、セシルは思わず息を呑む。
    「……そんなに友が心配か?カイン。……ならば、お前もセシルと共に行くがよい」
    「陛下!?」
    「バロンの北西に洞窟があるのは知っているな?その洞窟の奥に幻獣が出るらしい。その幻獣を退治し、このボムの指輪を洞窟の先のミストの村に届けるのだ。出立は明朝、任務遂行まで両者の城内立ち入りを禁ず!よいな!?」
     一方的に言い放つと、バロン王は控えていた近衛兵に命じ、セシルとカインを無理矢理退出させた。セシルの手の中に、ボムの指輪の入った箱だけが残った

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