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    FINAL FANTASY W 〜地底世界で・6〜

     地底世界は地上と比較するとかなり狭い。飛空艇があれば、半日ほどで回ることが出来るくらいの広さだ。
     だが、それはあくまでも、飛空艇があればの話である。
     セシル達の目的はバブイルの塔への潜入とクリスタルの奪還だ。よって出来るだけ秘密裏に進めねばならず、バブイルの塔の主戦力をひきつける事が目的のドワーフ戦車隊に便乗して向かうことも出来ない。
     よって、セシル達は徒歩でバブイルの塔へと向かわなければいけないのだ。
     その塔はドワーフの城から二日程北西に歩いたところにあるとのことで、今、セシル達は灼熱のマグマが囲む大地を、ただひたすらバブイルの塔に向かって歩いていた。
     人間であるセシル達にとっては、マグマの熱の中の旅は自殺行為に等しいもののはずである。  だが、彼らは今平然と地底世界を歩いている。燃え滾るような暑さを物ともしない理由は、今のセシル達の格好にあった。
     五人とも、頭からすっぽりとフードつきの特殊なローブを羽織っている。ドワーフ特製の耐熱服とのことだ。バブイルの塔に向かうにはこれが必要だとジオット王が支給してくれたものだった。
    「凄いね〜。この服。全然じりじりしないよー」
     リディアがローブの裾を摘まんで、自身の格好を見下ろす。
     確かに、とセシルは頷いた。気温が高いので暑さは感じるが、これは仕方がない。肌が焼けるような熱が完全に遮断されているだけでも、ありがたいことこの上ない。
     マグマの熱の中に何も持たずに放り出されていたら、セシル達は全身に火傷を負っていたことだろう。
     特に全身を鎧で覆っているセシルとカインは悲惨なことになるはずだ。間違っても試したくはない。
    「本当ね。何を使って織っているのかしら」
     ローザはリディアと並んで、首を傾げながら歩いている。
     この二人は前にも増して仲が良くなったようだ。リディアはローザを姉のように慕っているし、ローザもリディアが可愛くて仕方がないのだろう。一時期はその生存が絶望的だったのだから、尚更だ。セシル自身もそうであるのだが。
     セシルは柔らかな笑みを浮かべて、笑いあいながら歩くローザとリディアを見ていた。
     ふと隣を歩いていたヤンが片眉をぴくんと上げ、足を止める。彼がこういった行動をするのは敵の気配を察知した時だと、この場の誰もが理解している。全員が足を止める。
     いち早く槍を構えたのはカインだ。セシルは剣の柄に手をかけながら、横で鞭を片手に身構えるリディアを見た。リディアの隣で、ローザも矢を番えている。
    「リディア、僕達が引きつける。一気に頼む!」
    「うん!」
     地底の魔物は強い。無駄な体力の消耗を避けるためにも、セシル達男性陣が出来るだけ魔物ひきつけ、それをリディアの召喚魔法で叩くという戦法を取っていた。
     その方が各個撃破するよりも結果的にダメージも少なく、早く片付くのだ。リディアの負担が大きい、ということが問題点ではあるのだが。
    「来るぞ!」
    「はぁっ!」
     カインの声に、ヤンの短い気合が応える。セシルも剣を抜いて、魔物の群れを見据えた。黒とかげと言う名の昆虫を大きくしたような魔物が三匹。
     この魔物は攻撃力はさほど高くはない。しかし、時々こちらを石化状態にしてくるという厄介な魔物である。
     腕を大きく振りかぶった黒とかげを、ローザが放った矢が牽制する。  カインが槍で攻撃を受け止め、まっすぐに突進してきた黒とかげをヤンは軽々とかわす。
     セシルはリディアの前に立って、剣を構えた。リディアの詠唱が阻まれないよう、誰かが盾になる必要がある。その役目は一番防御力の高いセシルの役目だ。
    「我、リディアの名に於いて命ず! 来たれ、寡黙なる地の覇者。母なる大地の代弁者よ! 大いなる大地の怒りに触れし者たちを喰らい尽くせ!! 我が呼び声に応えて出でよ、石の巨人、タイタン!!」
     リディアの朗々とした呪文が響き、魔力の風が舞う。そうして現れたのは、石の巨人・タイタンだ。
     セシルとカインには軽くトラウマの残る相手ではあるが、味方としてこれほど頼もしい者はない。
     巨人がその巨大な拳を地面に叩きつけると、地割れが起こる。黒とかげの群れは一瞬で大地の亀裂に飲み込まれる。
     決着は、一瞬だった。リディアは小さく安堵の息を吐くと、タイタンを見上げて、にっこりと笑う。
    「ありがと、タイタン。また、よろしくね?」
     寡黙な巨人が笑ったような気がしたのは、気のせいだろうか。タイタンは無言で頷くと、ふっとその姿を消した。
     ふと、リディアの顔に疲労の色が浮かぶ。それに気付いたカインが、ちらりとセシルに視線を向けた。
     無愛想なカインだが、彼もリディアを気遣っている。元々世話好きな性格ではあるのだが、カインもセシルと同じく彼女を守ることで罪を償おうと決めたようだ。妹のように思っているようなふしもある。
     カインの視線を受け、セシルは小さく頷いた。
     セシルもリディアが疲れていることは見抜いていたし、実際リディアの負担が一番大きい上、マシとはいえこの暑さだ。リディアの体力と魔力は限界に近いだろう。
     そしてリディアよりも負担は軽いとはいえ、ローザもそれは同様であるはずだ。
    「……さて、ちょっと休憩しようか。今の戦闘で喉が渇いちゃったし」
     セシルはあえてそう口にした。リディアに疲れているかを聞けば、大丈夫と返答するだろうと予想してのことだ。こう言えば、彼女は大人しく休憩するだろう。
    「そうだな。……この暑さだ、水分はこまめに取ったほうがいい」
    「ですな。そこの岩のところが陰になっていますぞ」
     ヤンも女性陣を休ませたいようで、話に乗ってくる。そんな男性陣を、ローザはにこにこと笑って見ている。
     きっとローザにはセシル達の思惑など全てお見通しだ。その上で微笑ましく思っているに違いない。
    「じゃぁ、あそこで休憩だね〜」
     疲れを押し隠した顔でリディアが笑う。人を疑わない彼女を騙していることにはなるわけだが、まぁこれくらいは許して欲しいものである。
     そんなことを思いながら、セシル達は岩陰に向かい、腰を下ろした。
     セシルは岩陰でジオット王からもらった地底の地図を広げた。北西の方向には、城を出た時から塔が見えているのだが、一向に近付いている気がしない。
    「……今、この辺かな」
     セシルはとんっと地底の陸地のほぼ七割を占める大きさの大陸の中央部分を人差し指で指した。
    「そうですな……。太陽が出ていないから、時間の流れと距離が把握しづらいが……。そんなところでしょう」
     ヤンが頭上を振り仰いで、呟いた。彼らの上に広がるのは空ではなく、岩の天井だ。あの外側に更に大地があるのだと思うと、不思議な気持ちになる。
     カインがヤンの言葉に同意しつつ、麻袋に入った水をカップに注ぎ、セシルとヤンに手渡した。この水もジオット王が与えてくれたものだ。さらに地図には水が確保できる場所が事細かに書き込まれている。
     人間よりも熱に強いドワーフ族にも、水は大切なものであるらしい。
     ローザとリディアは水を飲んだ後、少し離れた場所の岩に寄りかかり、二人並んで座っている。目を閉じているようで、話し声はない。やはり、二人とも疲れていたようだ。
     女性には厳しい環境だろう。
     セシルはふと目的地の方角に視線をやった。ここからでも見えるバブイルの塔は、最上階がどこにあるのかというほど、高い。
     天井である大地を突き抜けているようにも見える。
     ふと、セシルの脳裏を地上で見た光景が過ぎる。
    「ねえ、二人とも……。エブラーナを通りかかったとき、大穴から突き出た塔があったの、覚えてるかい?」
     カインが微かに間を置いてから頷いた。
    「ああ……あったな」
    「最初、あの塔は土台の部分が掘り下げられているんだと思っていたけど……あの塔って、実は、あのバブイルの塔なんじゃないかな……」
     ヤンが目を見開く。
    「何と!? あの塔は地底から伸びていると?」
     カインはしばらく考え込んでから、荷物から地上の地図を取り出し、広げた。
    「……ありえん話じゃないかもしれんな。……ここが、アガルト。ここが、エブラーナ。……縮尺が違うから比較しづらいが、距離は同じようだ」
    「む。確かに……」
     ヤンが唸る。だが、地底から伸びる塔など尋常ではない。ゴルベーザの本拠地、バブイルの塔。封印されし月への道だというあの塔は一体何なのだろうか。
     セシルは今一度バブイルの塔を見やって、眉をしかめたのだった。

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