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    FINAL FANTASY W 〜地底世界で・3〜

     むっつの影は、輪になって踊っていた。警戒しつつ近づけば、それが人形だということに気付く。青い男の子の人形が三体に、赤い女の子の人形が三体だ。
    「キャーホッホッホッ」
     人形が口をカタカタと鳴らしながらしゃべりだした。正直、不気味な光景だ。
    「僕らは陽気な人形、カルコブリーナ」
    「ゴルベーザ様の手下さ!」
    「闇のクリスタルは僕らがいただいていくよ!」
     男の子の人形の方が口々にしゃべる。その言葉に、セシル達はそれぞれ身構えた。
    「やる気だね」
    「なら、君たちを倒して」
    「ゴルベーザ様への手土産にしてあげる!」
     次に口を開いたのは女の子の人形なのだが、声が同じため聞いているだけだと一人でしゃべっているようにしか聞こえなかった。
    「ローザ!」
    「我らに聖なる守護と盾を与えたまえ! プロテス!!」
     セシルの声に応える代わりに、ローザは防御の呪文を紡ぐ。魔法が発動するのと同時に、カインとヤンが床を蹴った。
    「私は青い人形に!」
    「なら、俺は赤い方だな! ……はっ!」
     カインとヤンがほぼ同時に攻撃を仕掛けた。カインの槍が、あっさりと赤い人形の胸板を貫き、その動きが止まる。一方、ヤンが手刀で攻撃した青い人形は、若干手刀が当たった部分がへこんだものの、大きなダメージを受けた様子はない。
     その青い人形が、倒れた赤い人形を見て叫んだ。
    「ああ、ブリーナがー!」
     どうやら青いほうがカルコで、赤い方がブリーナ。合わせてカルコブリーナという名前らしい。
    「青い方、手強い!」
    「なら、赤い方を一気に叩く!」
    「了解した! 私が引き付けている間に!」
     セシルとヤンのやり取りを聞いたカインが槍を握りなおし、ブリーナに突進する。僅かに遅れて、セシルも剣を片手に続いた。
     ヤンがカルコの攻撃を防御する傍らで、セシルとカインの攻撃が閃く。攻撃を受けたブリーナ二体は、あっさりと崩れ落ちた。
    「あああ、よくもブリーナを!」
    「こうなったら!」
    「本当の力をみせてやる!」
     叫んだカルコ達と、床に倒れたブリーナ達の身体が、光を放った。
    「な、何!?」
     目を閉じて光をやり過ごした一行は、目の前の光景に息を呑んだ。目の前にはカルコ達もブリーナ達もいなかった。その代わりにその場にいたのは、ツインテールの髪型の、巨大な女の子の人形だ。
    「この姿になったからには、もう負けないよ!」
     どうやら、彼らが合体してこの姿になったらしい。カルコブリーナはその巨大な腕をヤンに振り下ろす。ヤンは咄嗟に腕を交差し防御した。しかし。
    「ぐうっ!」
     プロテスがかかっているにも関わらず、その攻撃力に耐え切れず、ヤンは吹き飛んだ。
    「ヤン! 真白き光よ、優しき祝福よ! 彼の者を癒したまえ! ケアルラ!!」
     即座に反応したローザが、ヤンに回復魔法をかける。
    「かたじけない! セシル殿、カイン殿! 気をつけられよ!」
    「ああ!」
    「分かった!」
     カインが勢いよく地面を蹴る。セシルは剣の間合いに入ろうと、カルコブリーナに接近した。ふと、頭上に影がさす。セシルは反射的に全身を使って盾を構えた。
     物凄い重圧が盾全体にかかり、セシルは歯を食いしばる。カルコブリーナがセシルを踏み潰そうとしているのだ。
    「……くっ!」
     その時、鳴弦がクリスタルルームに響いた。そして重圧が一瞬だけ弱まる。セシルはその隙を逃さずに、全身で足を押し返した。カルコブリーナがバランスを崩し、セシルから離れる。見ると、セシルを押し潰そうとしていた右足の間接に、矢が深々と刺さっていた。
     バランスを崩しつつも体勢を立て直そうとするカルコブリーナの左足に、ヤンが足払いをかけた。カルコブリーナはあっさりと地面に転倒する。そこに、槍を構えたカインが上空からカルコブリーナの頭を貫いた。
    「よくもやったな!」
    「痛いよー」
    「でも、ここのことは報告済み!」
    「仇は取ってもらうよ!」
    「ゴルベーザ様ー!」
     そうして、人形は動かなくなる。同時に、高い足音が響いて、セシルは息を呑んだ。大きな重圧感を、背後に感じたからだ。
     そのまま振り向くと、一ヵ月半前にテラのメテオで重傷をうけたゴルベーザの姿が、そこにあった。
    「……ゴルベーザ」
     小さく、カインが呟く。しかし、ゴルベーザはカインを見向きもせずに口を開いた。
    「先日は世話になった。……しかし、あのメテオの使い手ももういまい。あの時の礼に、何故私がクリスタルを集めるのか教えてやろう。光と闇、合わせてやっつのクリスタル……それは封印されし月への道、バブイルの塔を復活させる鍵なのだ」
    「月……」
     小さく繰り返すセシルに、ゴルベーザは笑ったようだった。
    「月には、我々の人知を超えた力があるという。私は、それが欲しいのだよ。このクリスタルで、ななつめ。残り後ひとつになったわけだ」
     そう言ってゴルベーザはしばし考え込んだ。セシルは再び息を呑む。ゴルベーザが発する気配が、恐ろしい程に冷ややかだ。
    「これも君達のお陰だな。こおの礼もしなければ失礼だろう。……それでは私から、君たちに最後の贈り物だ」
     そう言ってマントを払ったゴルベーザから、にじみ出る殺気に、圧倒されそうになりながらもセシルは身構える。
    「……どうした? こないのか?」
     嘲笑うようにゴルベーザが言うが、セシルも仲間達も動けなかった。まったく隙が見当たらないのだ。
    「はっはっはっ。ならばこちらからいかせてもらおう。しばらく、大人しくしていてもらうぞ。……呪縛の冷気!」
     芯も凍るような冷気に包まれて、セシル達は途端に身動きひとつ取れなくなる。
     唯一自由になる瞳でゴルベーザを睨み付けると、ゴルベーザは楽しそうに笑った。
    「動けぬ身体に残された瞳で、真の恐怖を味わうがいい! ……参れ、黒竜!」
     その呼びかけに応じて、黒い竜が現れた。ダークエルフが変化したドラゴンとはまた違うドラゴンのようだ。竜が高く鳴き声を上げる。
     すると、ローザが床に倒れた。さらに鳴き声を上げるごとに、ヤンが、カインが倒れていく。
     肩が上下しているからまだ息はあるようだが、体から魂が離れかけているのが、手に取るように分かる。早くフェニックスの尾を使わなければ、死に至るだろう。
    「次はお前だ! セシル!! 絶望の中で死ぬがいい!」
     セシルはゴルベーザを睨み付ける。それしか出来ることはなかった。黒竜が口を開き、鳴き声を上げようとした。
     瞬間。
    「――我が呼び声に応えて出でよ! 霧の化身……ドラゴン!」
     高い、澄んだ声音が、闇を切り裂くようにクリスタルルームに響いた。

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