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    FINAL FANTASY W 〜巨星堕ちる・3〜

     その扉を抜けた先に。その男はいた。その斜め後ろに、カインを従えて。
    「ゴル、ベーザ……!」
     そう呟いたセシルの声は微かに掠れていた。その呼びかけを受けて、ゴルベーザは一歩前に進み出る。
    「メーガス三姉妹も倒したか。……腕を上げたな、セシル」
     その時、応えようとセシルが口を開くより先に、セシルの前に進み出た人影があった。――テラだ。
    「ようやく会えたな! ゴルベーザ!!」
     テラの瞳は、ただ一人しか見えていない。だが、それに対するゴルベーザの反応は冷ややかだった。
    「何だ、貴様は。……貴様のような老いぼれになど、用はない」
    「貴様になくても、わしにはある! 娘の……アンナの仇……! わしが、この手で討つっ!!」
     テラの気迫と、びりびりと感じる魔力の気配は凄まじく、手出しが出来るような状況ではなかった。それに、テラの背が手助けを拒否しているのは明白だ。セシルは、唇を噛み締め一歩引いた。
    「紅蓮なる業火よ! 全ての不浄を滅す灼熱の炎よ! 我が前の邪悪を灰燼と化せ! 彼の者に等しき滅びを与えよ! ファイガ!!」
     炎系最上級魔法が発動し、ゴルベーザを包み込む。だが、ゴルベーザはマントを払っただけで、その炎を打ち消した。
    「絶対零度の烈風よ! 全てを閉ざす氷柱の剣よ! 我が前の厄災に降り注げ! 彼の者に無慈悲なる断罪を与えよ! ブリザガ!!」
     先端の鋭い氷柱が、ゴルベーザに降り注ぐ。セシルも初めて見る。氷系最上級魔法・ブリザガだ。しかし。
    「ふん! この程度か!!」
     ゴルベーザはその氷柱を片手であっさりと弾いた。シドが息を呑む気配がした。
    「白銀に輝く閃光よ! 怒れる神々の矛よ! 我が前の穢れし魂にその神威を示せ! 彼の者に大いなる裁きを与えよ! サンダガ!!」
     テラの放った雷系最上級呪文のサンダガが、ゴルベーザに直撃した。ゴルベーザの身体が一瞬震える。
    「……はあっ!」
     その気合一つで、ゴルベーザは白銀の雷を相殺してしまった。
    「……ふん。こんなものか……」
     ゴルベーザが嘲るような視線をテラに向ける。しかし、テラはにやりと口の端を上げた。その瞳の強さは、変わらない。
    「やはり……メテオでないと、倒せんか」
     テラのその言葉に。初めてゴルベーザが動揺の色を見せた。
    「……この命全てを魔力に変えて……! ゴルベーザ! 貴様を倒す!!」
     セシルは血相を変えた。テラは本当に命を投げ出してゴルベーザを倒すつもりだ。駆けつけて止めたかったが、テラを中心に巻き起こる魔力の奔流が凄まじく、近づくことさえ出来ない。
    「果てなき宙を駆けゆくもの! 永遠を彷徨う放浪者よ! 我ここに汝の力を示さん! 我が声に応えよ! 我が魔力の輝きに応えよ! 我が魔力を導にこの地に来たりて、彼の者へと降り注げ!!」
     隣でヤンが何かを叫んだ気がした。でも、それはセシルの耳にはっきりした音としては届かない。遠く、耳鳴りがする。
    「――メテオ!!」
     空間を歪め、虚空より出現した隕石が、ゴルベーザに降り注ぐ。
    「ぐっ……! 馬鹿な……貴様、メテオを……!?」
     がくりとゴルベーザは床に膝をついた。テラの渾身のメテオは、確かにゴルベーザに効いている。しかし、致命傷ではない。それを見届けたテラは悔しげに眉をひそめ――そのまま力なく床に崩折れた。
    「テラ!!」
    「ふっ……命と引き換えにメテオを使ったか。だが、それもこれで終わり……くぅっ」
     ゴルベーザは苦悶の声を上げ、小さく舌打ちした。
    「今回はここで引いてやろう! いくぞ、カイン!!」
     そう言うゴルベーザに、しかし応える声はない。カインもまた床に倒れ伏していた。メテオに巻き込まれたのかと青ざめるセシルに、ゴルベーザの舌打ち交じりの声が届いた。
    「今のダメージで術が解けたか。……まあいい。どちらにしろ、もう用済みだ」
     そしてゴルベーザはセシルに背を向け、扉の向こうへと立ち去ろうとする。セシルは反射的に地面を蹴っていた。
     テラが命を懸けて倒そうとしたこの男を、ここで逃すわけにはいかない。
    「ゴルベーザ!!」
     だが、手負いでもゴルベーザは強かった。
    「舐めるな! 貴様にやられるような私ではない!」
     そう叫んだゴルベーザはセシルに向けて魔力の塊を放つ。それに弾き飛ばされたセシルは息を詰まらせて床に転がった。ゴルベーザは更に攻撃を加えようと手を振り上げ、硬直した。
     身体を固くして攻撃に備えていたセシルは、訝しんでゴルベーザを見上げた。ゴルベーザは、静かにセシルを見つめている。
    「……お前は……」
    「……え?」
    「お前は……何だ?」
     そう、言われた瞬間。心の奥で何かが弾けた気がした。魂が何か大切なことを告げている、そんな気がする。だが、それもゴルベーザの声であっさりと霧散する。
    「……この勝負、今は預ける……!」
     そう言って身を翻すゴルベーザを、セシルは黙って見送ることしか出来なかった。

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