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    FINAL FANTASY W 〜巨星堕ちる・1〜

     塔の入り口に降り立ったセシル達は、慌てて周囲を見回した。辺りにカインの姿もなければ、クリスタルと交換とされたローザの姿もなかったからだ。
    「カイン!? どこだっ!」
     声を張り上げるセシルに、カインが声を返す。その姿は見えないままだ。
    『まあ、焦るな。……ゴルベーザ様がお前たちに礼を言いたいそうだ』
    『……久しいな、セシル。ゾットの塔へようこそ。……約束を守ってもらって嬉しい限りだ』
    「ゴルベーザ!?」
     テラは声を上げ、周囲を見回す。その瞳には復讐の炎が燃え上がっている。
    『ちゃんと礼をしたいと思ったのだが、私も何分忙しい身。君たちにご足労願いたいと思っているのだよ』
     穏やかとさえ言えるようなゴルベーザの声音が、響く。
    『……私は、この塔の最上階にいる。そこまで来て欲しい。もちろん、来る来ないは君達の自由だ。……だが』
     姿は、相変わらず見えない。だがその瞬間、ゴルベーザがにやりと笑ったのだと、セシルには分かった。その姿が見えたような気さえした。
    『君の愛しいローザは私と共に最上階にいる。そして……彼女の命は風前の灯だということを理解しておくといい』
     悪意のこもったその言葉に、全員の顔色が変わる。
    『では、待っているぞ』
     その言葉を最後に、ゴルベーザの声もカインの声も聞こえなくなった。
     セシルは悔しさに唇を噛み締める。クリスタルは敵の手に渡り、ローザの命も危うい。為すこと全てが裏目に出ている気がする。
    「……くそ!」
    「悪態ついとる場合かい! セシル!!」
     シドの言葉に、セシルははっと我に返った。
    「そうじゃ! ゴルベーザはこの塔におる。奴を倒せば全て丸く収まる。それだけの話じゃろうが!」
     テラが息巻いてそう言い切った。そして、ヤンが何かを思い出すように目を細めた。
    「……セシル殿。約束を、守らねば」
     その言葉にセシルは目を丸くした。
    「……約、束?」
    「さよう。……ファブールで、リディアと」
     その言葉に、セシルはくっと目を見開いた。確かに、約束をした。
     ――……あの人も、助けよう? あたし、頑張るから。
     心中は複雑だろうに、そう言った少女に、セシルは確かに頷いたのだ。
     ――……うん、助けよう。ローザも、カインも。
     あの時からそんなに時間はたっていないのに、全ての状況が変わってしまった。
     セシルは暗黒騎士の姿ではなく、心優しい召喚士の少女もいない。それでも、約束は息づいている。
    「そう、だった……。ありがとう、ヤン」
     セシルの瞳に、冷静さが戻る。ヤンは気にするなと言うように、無言で首を横に振った。
     一度だけ目を閉じて、セシルは小さく息を吸った。
     脳裏に、いくつもの面影が浮かぶ。
     リディア、約束は必ず守るよ。ローザ、もう少しの辛抱だから、待っていてくれ。そして……カイン。君も取り戻してみせるから。
     決意を新たに目を開き、仲間達に大きく頷いてみせる。
    「いくぞ! みんな!! ゴルベーザを倒して、ローザとカインを取り戻す!!」
     覇気も十分なセシルの声に、仲間達も大きく頷き返し、ゾットの塔攻略は始まったのだった。

    「……それにしても、この塔、何で出来とるのか……」
     周囲を警戒しつつ進んでいたシドは、ふと壁をぺたぺたと触りだすと、そう言って首を傾げた。技師として気になるらしい。
    「シド殿でもご存知ないのですか?」
    「うむ。……見たこともない材質じゃ。どうやら、未知の技術で出来ておるらしい、としか……」
     その言葉に、セシルが思い浮かべたのは、バロンとミシディアを繋ぐ次元の道だった。
    「……それって、デビルロードと同じ……?」
     シドがうむ、と頷く。
    「似ておる。まあ、あの道も研究して分かったのはよく分からんということぐらいじゃからな。この塔もよく調べても、やっぱりよく分からんだろうな」
     よく分からない場所を歩く不安がないわけではないが、だからといってどうしようもないのも確かだ。バロン一の技師でもお手上げなのだから。
     ふと、セシルは目を細めて視線を横に滑らせる。同時に、ヤンが低く身構えた。
    「敵だ!!」
     剣を抜き放ちながら叫ぶと、シドがハンマーを構え、テラがロッドを掲げる。
     現れた魔物は三匹。人の上半身に馬の下半身を持つケンタウロナイトだ。その太い腕や、馬の足から繰り出される攻撃は強力に違いない。出来れば素早く各個撃破を狙いたいところだ。
    「……ふむ。セシル! 念の為にプロテスじゃ!」
     考えがあるらしいテラの言葉に、セシルは瞬時に従った。
    「我らに聖なる守護と盾を与えたまえ! プロテス!!」
     魔力の守りがセシル達を包み込む。テラは満足げに頷いた。
    「よし! ヤン! 受け取れ!! 時を駆け抜く疾風の翼、彼の者に与えん! ヘイスト!」
    「む!?」
     魔法を受けて地面を蹴ったヤンの動きが、いつも以上に素早い。セシルは目を丸くした。
     テラは少しだけ得意げに鼻を鳴らした。人の反応速度を高める魔法・ヘイスト。それを仲間内でも一番素早さと攻撃力が高いヤンに使ったのは、さすがの判断だろう。
     この場合のセシルの役割は、何かあったときの保険だ。ヤンが攻撃を受ければ、すぐさま回復に入れるよう。攻撃が外れたり、倒しきれなかった場合はすぐさまフォローに入れるよう。
     シドがケンタウロナイトを一匹倒す間に、ヤンは二匹を仕留めている。
     これならば順調に最上階まで進めそうだ。
     頼もしい仲間達が戦闘を終わらせるのを見届けて、セシルは結局振るうことのなかった剣を収めながら、そう思った。

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