FINAL FANTASY W 〜豊穣の国のクリスタル・7〜
ギルバートの元を後にしたセシル達は、改めてクリスタル奪還の報告すべく、八人の神官に面会した。
「まあ! それは土のクリスタル!」
「取り返して下さったのですね!」
クリスタルを目にした神官達は一様に目を輝かせ、顔を喜びで一杯にする。とてもではないがこのクリスタルを貸して下さいと頼めるような雰囲気ではない。
「……どういたす、セシル殿?」
そっと耳打ちしてくるヤンに、セシルは困って眉をしかめた。
「……ど、どうしよう……」
ローザを助けたい。けれどクリスタルを渡すわけにもいかない。なら、セシル達の取る作戦は決まっている。
一度クリスタルを渡し、ローザを救出。そして、隙を見てクリスタルを奪い返す。ローザの命を握られている以上、方法はそれしかない。
けれど、そのクリスタルを持ち出せなければ意味がないのだ。
その時だった。
『……クリスタルを無事に取り返したようだな』
どこかから聞こえるカインの声に、セシルはばっと顔を上げる。
「カイン!?」
姿も見せずにいきなり響いた男の声に、神官達は騒然となった。
『約束を果たそう。クリスタルを持って飛空艇に乗るがいい』
一方的にそれだけを告げて、カインの声は聞こえなくなった。困り果てて立ち尽くすセシルに、八人の神官の中でも最高位の神官が声をかける。
「何やら、お困りのご様子ですね」
そう言って前に進み出た神官はじっとセシルを見つめる。正確には、セシルの瞳だ。セシルはその視線から決して目を逸らさずに、頷いた。
厳しい顔つきでセシルを見つめていた神官の表情が、ふと和らぐ。
「……分かりました。あなた方にはクリスタルを取り返していただいたご恩があります。……土のクリスタルをお貸しいたしましょう」
その申し出に、セシルは目を見開く。予想外の申し出だった。
「ただし、あくまでお貸しするだけです。……全てが終わったら、土のクリスタルはこのトロイアへお返し下さい。これはこの地を支えるかけがえのないものです」
神官の言葉に異議などあるわけがない。セシルは両足をそろえ姿勢を正すと、騎士の礼を取った。
「お心遣い感謝致します。全てが終わった時、クリスタルの返却と……改めて御礼に伺います」
神官は微笑んで、頷く。
そうして、土のクリスタルを抱えたまま白亜の城を出て飛空艇に乗り込む。そうして離陸をすると、先日と同じように赤き翼の飛空艇が接舷してきた。
甲板に、カインが姿を現す。
「……久しぶりだな、セシル」
笑みさえ含んでそう言ったカインを、セシルは睨み付けた。
「……ローザは無事だろうな?」
セシルの低い声にも、カインは笑みを崩さない。
「当然だ。大事な人質だからな。丁重に扱っているさ。……さあ、クリスタルを渡してもらおうか」
「ローザの姿を見せんかい!」
シドがセシルの背後で叫ぶ。だが、カインの返答は冷たい。
「クリスタルが、先だ」
セシルは眉をひそめた後、クリスタルをカインに手渡した。カインは土のクリスタルを受け取ると一つ頷く。
「確かにクリスタル、だな」
「ローザはどこだ!」
叫ぶセシルに、カインは低く笑う。
「ローザ? 何のことだ?」
「……ふざけるな!」
本気で怒気を見せるセシルに、カインは肩を竦めた。
「冗談だ。……ついて来るがいい」
そうしてセシル達がカインに案内されたのは、空中に浮いた機械仕掛けの塔だった。