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    FINAL FANTASY W 〜再会と真実と・4〜


     セシルは、一度ドアノブを回して鍵がかかっていることを確認すると、ヤンから受け取った鍵を鍵穴に差し込んで回した。何かがかみ合ったような感触に、再びノブを回せば、扉はあっさりと開いた。
    「……よし、行こうか」
     セシルの言葉に、全員が頷く。そして、セシルを先頭にパロム、ポロム、テラと続き最後にヤンが扉の中に身を滑り込ませた。
    「うっわ……! カビくせ〜!」
     パロムが叫んで、鼻をつまんだ。その隣でポロムも眉をしかめている。
    「……魔物の気配がしますわ」
    「うん。長年放置されてる場所だからね。みんな、気をつけて」
     そうして彼らは、広く張り巡らされた地下水路を歩き出す。
    「……それにしても、凄い水路じゃな」
     テラがたちこめる臭気に辟易しながらも、周囲を見回して呟いた。
    「確かに。これほどの規模のものが城や町の地下にあるとは……」
    「ずっと昔は水路として利用されていたんだ。今は、王族や重臣たちの緊急脱出用の通路として残してあるだけだけれど」
     ヤンの感嘆の言葉にそう答えながら、このことを教わったのはどこでだったろうと考える。兵士学校だったか、それとも陛下に教えてもらったのだったか。
     どちらにしろ、当時のセシルはここを自分が使う日が来るなど、思ってもみなかったことは確かだ。
    「なるほど。……む?」
     殿を勤めていたヤンの表情が険しさを帯びる。僅かに遅れて、セシルも表情を改めた。セシルの手が剣の柄に伸びると同時に、魔道士達三人も身構える。
    「用心されよ! 来る!!」
     叫ぶと同時に、ヤンは気を集中させだした。同時に水中から飛び出してきた魔物の群れに、セシルは息を呑む。鰐のような魔物のアリゲイターが一匹、ギガースゲイターが二匹。そして貝型の魔物のファングシェルが一匹にデスタネットが二匹の計六匹だ。
    「数が多いですわ!」
     セシルは唇を噛んだ。この魔物の群れのうち、アリゲイターとファングシェルはカイポからダムシアンに向かう途中の地下水脈で戦ったことがあるから、たいした敵ではないと分かっている。
     問題は、その他の四匹だ。その強さをひしひしと感じる。その攻撃を食らえば、重装備のセシルや鍛え上げた身体が武器であり防具であるヤンはともかく、魔道士三人は耐え切れないかもしれない。
    「ポロム! プロテス! パロム、テラ! ブリザラ!」
     セシルの指示は、短い。だが、ここまで一緒に戦ってきた彼らにはこれで十分だ。
    「我らに聖なる守護と盾を与えたまえ! プロテス!」
     プロテスは一時的に物理防御力を向上させる白魔法だ。セシル達全員の身体が、淡い光を放った。
    「「凍てつく烈風よ! 全てを閉ざす氷塊よ! 彼の者達をその無慈悲な腕で包み込め! ブリザラ!!」」
     二人が同時に放った魔法が、敵全体を冷気の内に閉ざす。アリゲイターとファングシェルはこの攻撃で一溜まりもなく倒れた。そして、爬虫類であるがゆえに冷気が弱点のギガースゲイターもその動きを鈍らせていた。そこに。
    「はあああっ!」
     ヤンが渾身の跳び蹴りを放つと、ギガースゲイターは断末魔の声を上げた。
     だが、敵も黙ってやられるのを待っているわけではない。生き残っているデスタネットの内一匹が、パロムに向かって飛び掛ってきた。貝の中に鋭い牙が見える。
    「させるかっ!!」
     セシルはパロムの前に躍り出ると、剣でその攻撃を受けた。手が痺れるほどの一撃だったが、それで剣を取り落とすような真似はしない。
    「輝ける閃光よ! 裁きの雷よ! 彼の者達に断罪の刃を与えよ! サンダラ!!」
     背後で、幼い声の詠唱が響いた。魔力の発動とともに、白い雷の刃が、デスタネット二匹を貫く。デスタネットの悲鳴が水路内に響き、戦闘は終わりを告げた。
     誰からともなく、ふうっと息をつく。
    「パロムもポロムも、すばらしい腕ですな」
     何かを思い出すかのような遠い目をして、ヤンが呟く。彼が脳裏に誰を思い描いているのか、セシルには手に取るように分かった。
     宝石のような髪と瞳が、セシルの脳裏にちらつく。リヴァイアサンに呑みこまれたという少女。最早、生存を望むことすら許されないのだろうか。
     そんなセシルの心境など、エスパーでもない限り読めるわけがない。パロムはヤンの言葉を受けてえへん、と胸を張る。
    「あったりまえだい! ミシディアの天才児、パロム様とはオイラのことよっ!」
    「パロム! 調子に乗るなって何度言えば分かるの!?」
     もう慣れてしまった二人の掛け合いに、セシルはふっと笑みを浮かべた。
    「さ、先はまだ長い。行こう」
     その言葉に、全員が頷いたのだった。

    「おかしい。城内に……」
    「まったく人の気配がありませんな」
     地下水路を抜け、外堀からバロン城内に潜入した一同は、城内のあまりの静かさに首を傾げた。見つかることを望んでいるわけではないが、これはあまりに静か過ぎる。
     セシルは空を見上げた。彼らが水路に入ったのはお昼前のことだったが、空はすでに茜色から藍色に染まりかけている。体力のないテラや子供達の疲労の色が濃い。
    「……左の塔に僕の部屋がある。行こう」
     セシルはそう言って、左の塔に向かって歩き出す。途中赤き翼の隊員室を覗いてみたが、やはりそこにも誰の姿もなかった。
    「様子がおかしい。水の中を歩いて、体力も消耗しているし、今日は僕の部屋で休もう」
     そう言って入ったセシルの部屋は、多少埃っぽいものの、バロンを出立した当時と何も変わっていなかった。
    「だ、大丈夫でしょうか……?」
     ポロムの不安は当然のことだ。ここは敵地であるし、シドの安否も気にかかる。
     だが、前者はまだ体力に余裕のあるセシルやヤンが警戒をしていればいいし、後者もシドを助けるために子供達に無理をさせたとあれば、当のシドからお叱りを受けることは確実である。
    「大丈夫。今は身体を休めることを優先しよう。……ね?」
     そう言ってポロムの頭を撫でると、ポロムはセシルを見上げて頷いた。
     そうして双子をセシルのベッドに横にさせると、二人は数秒とたたないうちに、小さな寝息をたて始めた。
     セシルはそれを見届けると、ふと窓の外を見上げた。視界に映るのは、空に淡く輝く二つの月。セシルの脳裏を過ぎるのは、ローザの心配そうな表情と声音だ。セシルは、その面影を振り払った。今は感傷に浸っている場合ではない。
    「……ヤン、君はどう思う?」
    「……正直、分からぬ。だが、どこかから……不吉な気配を感じる……」
     ヤンの言葉に、セシルは頷いた。この空虚な城のどこかから不吉な気配が漂っている。だからこそ、セシルは万全の体勢をとることを重視したのだ。
    「どちらにしろ、明日は城内を探索するしかないじゃろう。飛空艇技師も探さねばならん」
     ソファに横になりつつ呟いた賢者の言葉に、セシルとヤンは同意したのだった。

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