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    FINAL FANTASY W 〜再会と真実と・3〜


     宿屋に戻ると、主人が満面の笑顔で迎えてくれた。
    「いやあ! あんた達、強いんだねぇ! 気に入ったよ! タダで泊まっていきな!」
    「え……? でも……」
     戸惑うセシルに、主人は意味ありげな笑みを浮かべる。
    「セシル様」
     そう呼ばれて、セシルは息を呑んだ。この宿屋の主人は、気付いている。忌み嫌われていたあの暗黒騎士が自分だと。
    「……私に出来るのはこれくらいです。私は何も見てないし、聞いていない。だた、近衛兵をのしちまうほど強い旅の方々を気に入って泊めたってだけです。……他に客はいませんので、ご自由にお使いいただけますよ」
     そう言って笑う主人に、セシルは小さく頷く。
    「それでは、奥の部屋へどうぞ〜」
     彼らは通された部屋で、それぞれ椅子を持ち寄ると、輪になって座った。唯一、パロムだけがその輪を外れて、ベッドの上に胡坐をかいて座る。
    「それにしても、ヤン……。何で、君はバロンの兵士たちと……」
     セシルの問いに、ヤンは小さく俯いた。
    「分からぬ……。リディアを追って海に飛び込んで……その後の記憶が朧気なのだ……」
     久々に耳にするその名に、セシルは思わず立ち上がった。
    「そうだ! リディアとギルバートは!?」
    「リディアは……リヴァイサンに呑み込まれてしまった。ギルバート殿は……分からん」
     その言葉に、セシルは血の気が引く音を聞きながら、掠れる様な小さな声で、そうかと呟いた。
    「……察するに、意識が混濁しておるところを、利用された。そんなところじゃろう」
     テラの落ち着いた声音に、セシルは何とか気を落ち着かせると、席に座りなおした。
    「……こちらの御仁は?」
    「賢者のテラだ。それからあの子がパロム。この子がポロム」
     紹介を受けたパロムは口を尖らせる。
    「利用されちゃって情けね〜」
    「……面目ない」
     俯いて落ち込むヤンの横をすり抜け、パロムの隣に移動したポロムは、ぽかりとパロムの頭を殴った。
    「生意気ですみません。ポロムと申します。以後、お見知りおきを。ヤン様」
     ヤンは数度瞬いて、パロムとポロムを見比べる。
    「……双子の、魔道士なんだ」
    「ああ……。なるほど」
     ヤンが納得したように頷く。その横で、テラが身を乗り出した。
    「それで、セシル。明日はどうする?」
    「まず、シドに会わなくてはいけないけど……家にいるかどうか」
     あの飛空艇技師は飛空艇を愛するあまり、自宅に戻らないこともしばしばだ。
    「……シド殿? 飛空艇技師の……。もしかしたら、その御仁。城内に囚われているかもしれぬぞ」
     ヤンの言葉に、セシルは目を丸くした。
    「どういうことだ!?」
    「いや……。朧気な記憶で申し訳ないが……。そのような話を聞いた気がする。新型の飛空艇を隠してしまったとか……」
     シドならやりかねない。セシルは腕を組んで小さく唸った。
     もしそれが真実ならば、城内に潜入しシドを救出しなければならない。けれど正面から乗り込むわけにはいかないのだ。どうすればいいのか。
     その時、セシルの視界に銀の輝きが入った。ヤンの腰辺りだ。
    「……ヤン、それは?」
    「うん? ……鍵、だな」
     ヤンは腰紐に下げていた鍵を外すと、セシルに手渡す。セシルはそれを見た瞬間、驚きに目を見開いた。バロンの紋章が刻まれた古びた鍵。これは。
    「これは……バロンの町から城に続く地下水路の鍵!? そうか! ヤンに近衛兵を従わせていたから……!」
    「まあ! これで、お城に潜入できますわね!」
     顔を輝かせるポロムに、セシルはこくりと頷いた。
     無論、シドが無事であることに越したことはないのだが。
    「まあ、明日はまず城下町で情報収集をしなきゃね。それで、シドが囚われているようなら、城に潜入して救出する。みんな、よく休んで体調を整えておいてくれ」
     セシルの言葉に、全員が頷く。
     己の手の中の銀の輝きをセシルはぎゅっと握り締めた。
     これを使うような事態になっていなければいいのだが。

     翌日、セシルはシドの家を訪ねた。シドの一人娘であるレミはセシルを見ると、喜びに顔を輝かせた。
    「セシルさん! 無事だったのね!」
     彼女は、セシルよりも三つ年下の少女だ。幼い頃はローザやカインも含め四人で一緒に遊んだりしていたこともあり、レミはセシルを実の兄のように慕っていたし、セシルもレミを妹のように愛していた。
    「レミ」
    「よかった……みんな、あなたが亡くなったって……」
    「大丈夫、無事だよ。ちょっと色々あって、戻れなかったんだ。心配かけてごめんね」
    「いいの、そんなの。無事だったんですもの」
     そう言って瞳を涙で湿らせたまましっとりと笑うレミはお世辞抜きに美しい。
     レミの母親、つまりシドの妻はレミが幼い頃病死してしまい、レミはシドが手塩にかけて育てた一人娘だ。そしてその気立ての良さと優しさで、バロンでもローザに並ぶ評判の良い娘だったりもする。シドが一人で育てたとは思えない、とまで言われていたりするのだ。
     だが、一度決めたら曲げない頑固な面があったり、世話焼きだったり、物作りが好きだったりと、これは明らかにシドの血だよなぁと思わせるような一面もレミにはあったりするのだが、それは近しい者しか知らない部分だろう。
    「……ということは、セシルさんも知らないですよね。……父がどうしているのか」
     その言葉に、セシルは表情を変えかけたものの、何とか平静を保った。いたずらにレミを不安にさせたくはなかった。
    「……戻ってないの?」
    「ええ。セシルさん達が出立して、数日後に城に行って、それっきり」
     それは、軽く見積もっても一月以上戻っていないことになる。作業に没頭して一週間近く城に篭っていたことなら幾度かあるシドだが、さすがに一月は長すぎる。
    「普段なら、ここまで心配しないんです。けど……お城の様子もおかしくて。城門に兵士がいて、通してくれないんです」
     それは確かにおかしい。バロンは軍事国家という性質上立ち入り禁止の場所は多々あるけれど、基本的には万人に開かれた城であるのだ。
    「分かった。僕のほうでも調べておくから。だから、待ってて、レミ」
    「はい。よろしくお願いします。セシルさん」
     そう言って、レミは少しだけ安堵したような笑顔を浮かべたのだった。

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