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    FINAL FANTASY W 〜試練の旅路・5〜


    「ふしゅるるる……」
     今度ははっきりと聞こえたその音に。
    「な、何だぁ!?」
     パロムが驚きの声を上げ、セシルは警戒心も露わに周囲を見回しながらも、前に進む。そうして、山頂にかかるつり橋の袂まで来たとき、低い声が響いた。
    「ふしゅるるる……。待ちくたびれたぞ、セシル……」
     そうしてセシル達の前に突如出現したのは、黄色いローブを目深にかぶった男だ。
    「な……何者だ!?」
     男が放つ酷い瘴気と腐臭に、セシルは眉をしかめつつデスブリンガーを抜き放った。男はねっとりとした笑みを浮かべる。
    「ゴルベーザ様四天王。死の水先案内人……土のスカルミリョーネ」
    「ゴルベーザ、じゃと!?」
     テラがロッドを構え、パロムとポロムも戦闘態勢に入る。
    「嬉しい、嬉しいぞ、セシル。……お前を葬り去ることが出来て……クカカカカ」
     スカルミリョーネは不気味に笑うと、ばっとローブを広げた。同時に、スカルミリョーネの前に四匹のスカルナントというアンデット系の魔物が現れる。
    「死霊使いか!?」
     テラの言葉に、セシルは息を呑む。なるほど、確かにセシル一人ならば簡単に殺されていたに違いない。しかし。
    「ポロム! 四天王にサイレス!」
     スカルミリョーネに魔力の気配を感じたセシルの指示に、即座にポロムが従った。
    「彼の者を静寂の帳に封じん! 来たれ、無言の時よ! サイレス!」
    「な……!?」
     何、とでも言おうとしたのだろうか。それ以上の言葉を声にすることも適わず、スカルミリョーネは口をぱくぱくとさせた。
    「よし! 一網打尽だ! パロム! テラ!」
    「「赤き業火よ! 不浄を滅す炎よ! 渦となりて、我が前の敵を焼き尽くせ! ファイラ!!」」
     魔道士二人の唱和により、赤い炎の渦がいくつも生まれる。スカルミリョーネとスカルナント達はその渦にあっさりと呑まれた。
    「こっ……こんなっ!」
     サイレスが切れたのか、短い言葉を残して。スカルミリョーネは灰になった。
    「やぁぁったー。さっすがオイラだぜ!」
    「セシルさん! 見事なご指示でしたわ」
     それぞれに歓声を上げる双子だが、セシルはどうにも腑に落ちないものがあった。
     あっさりとし過ぎている。仮にも四天王を名乗るものが、この程度の力量しかないのだろうか。
    「確かに、的確な指示じゃった。パロム、ポロムもよくやったな」
     賢者の言葉に、パロムとポロムは嬉しそうに笑う。
    「さ、行くとするか」
     そう言うテラの表情も、どこかすっきりとしない。セシルは釈然としないものを感じつつ、立ち止まっているわけにもいかず、剣を収めると歩き出した。
     足元に気をつけながら、つり橋を渡る。セシルの後にテラ、ポロム、パロムと続いた。そうして、全員がつり橋を渡りきった、その時だった。
    「ふしゅるるる……。よくも私を殺してくれた。死してなお恐ろしいスカルミリョーネの強さ……。とくと味わいながら死ねぇっ!」
     背後に突然現れたおぞましい気配に、セシルは反射的に振り返る。そして、大きく目を見開いた。そこには二本の巨大な角を持った大きな獣型のアンデットの姿があった。
    「我が正体を見たものは生かしてはおけぬ! 崖から突き落としてくれるわ!」
     別に見せてくれと頼んだわけでもない。そんなことを心の中で毒づきながら、セシルはデスブリンガーを引き抜いた。
     バックアタックのため。本来ならば後衛のはずの魔道士三人組が前衛のポジションにいる。セシルはとりあえず下がるように指示を出そうとした。その前に。
    「見たくてみたんじゃねーよ! 気持ちわりぃ! 赤き火花よ、彼の者を焼き尽くせ! ファイア!」
     最後尾にいたパロムが仕掛けた。炎がスカルミリョーネを包み込む。しかし。
    「クカカカカ! その程度では効かん! 効かんぞぉ!」
     スカルミリョーネは炎を振り払うと高く笑い、その太い腕をパロムに向かって振り下ろした。
    「パロム!!」
     ポロムの悲鳴のような声を聞きながら、セシルは剣と盾を投げ捨て、パロムに飛びつく。そのすぐ後に響いた大きな音と衝撃に、セシルは息をつめた。腹の辺りから鉄の味がせり上がってくる。
    「あ、あんちゃん!」
     いつもは生意気そうな顔を泣きそうに歪め、自分を見上げるパロムを見て、セシルはほっと息をついた。この一撃を、パロムが受けなくてよかった。
     だが、安堵したのがよくなかった。セシルは己の体重を支えることが出来ず、地面に倒れ伏してしまう。口から、生暖かいものがごぼりと零れた。
    「セシルさん!」
    「セシル!」
    「クカカカ! あっけない。あっけないなぁ。そんなガキを庇うからだ。馬鹿め」
     倒れたセシルを泣きそうな顔で見ていたパロムは、その言葉に顔を上げ、ぎっとスカルミリョーネを睨み付けた。
    「あんちゃんを馬鹿にすんな! この腐りかけの死に損ない!」
    「その死に損ないに殺されかけているのはどこのどいつだ。クカカカ」
    「見てろ……! 目に物見せてやる!」
     パロムは立ち上がった。そして、テラを見上げる。
    「じっちゃん! あんちゃんを頼む!」
    「おぬし……分かった。任せておけ」
     何事か言おうとしたテラだったが、パロムの瞳を見て口を閉ざす。この少年は、子供である前に魔道士なのだ。
    「ポロム!」
     そして、パロムは呼ぶ。己よりもほんの少しだけ先にこの世に生を受けた、己の片割れを。ポロムは倒れたセシルを見て、ぼろぼろと泣いていた。
    「パロム……」
    「ポロム! オイラに力を貸してくれ!」
     ポロムは零れる涙をぐいっと拭い、力強く頷いた。
    「うん!」
     その間に、テラはセシルに駆け寄った。スカルミリョーネもそのことには気付いているだろうが、邪魔をしようとはしなかった。死に掛けの暗黒騎士よりも双子の行動に興味があるらしい。
     双子を力ない子供だと侮っての行動ともいえる。
    「油断大敵と言う言葉も知らんようじゃな、四天王は。……これは、酷い」
     予想以上に傷の深いセシルに、テラは眉をしかめ、精神を集中させる。
    「……彼の者を死の淵より呼び戻さん。聖なる御手よ、死の鎖を断ち切りたまえ……レイズ!」
     テラがセシルに施した魔法は回復魔法ではなく、蘇生の魔法だ。ただし、実際に死者を甦らせるようなものではなく、体から離れかけた魂を繋ぎとめる魔法である。
    「う……テ、ラ……」
     青い顔でしゃべろうとするセシルを、テラは視線だけで制する。まだ、完全に危機を脱したわけではない。
    「真白き光よ、優しき祝福よ。彼の者を癒したまえ! ケアルラ!」
     白い光がセシルの身体を包み込む。まだ、しゃべるのも辛いだろうに、セシルは青い顔のまま、双子の身を案じる言葉を口にした。
    「テラ……。あの、二人は……!」
     テラは笑って頷いてみせる。
    「案ずるな。あの二人は……一人前の魔道士じゃ!」

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