FINAL FANTASY W 〜試練の旅路・4〜
驚きに目を見張りつつも振り返った賢者は、セシルの姿を認めると目を細めた。
「おお、セシルではないか! ん? リディアと……あの男はどうした?」
セシルが連れている面子が違うことに即座に気付いたテラが、疑問のをあげる。ギルバートの名を呼ばない辺り、まだ彼に抱く感情は複雑らしい。
「それが……バロンに向かう途中、リヴァイアサンに襲われて……」
その言葉に、テラが目を見開いた。
「死におったか!」
はい、と言いたくはなかった。現にセシルはこうして生きている。彼らが無事である可能性も皆無ではない。
「……ローザも、ゴルベーザに捕まって……」
「何と!?」
セシル達の背後で微かに双子の話し声がする。
「……きっと恋人だぜ!」
「しっ」
その会話に小さく苦笑を零して、頭を軽く振り気持ちを切り替える。
「それにしても、おぬしはどうしてここに? まさか、おぬしもメテオを求めて……」
テラの言葉に、セシルは首を傾げた。
「メテオ? 違います。僕は、パラディンになるためです。暗黒の力では真の闇には立ち向かえないと言われましたし……。出来るなら僕も、この力と決別したいんです」
「パラディン……。なるほど。やはり、この山には何かあるのか……」
納得したように頷くテラを見つめていたパロムがあっと声を上げた。
「メテオを知ってるってことは……じっちゃん、あのテラか!」
「テラ様とおっしゃい! 失礼な!」
素直に驚きを表すパロムを、ポロムがきっと睨み付ける。二人に視線を向けたテラがそういえば、と口を開く。
「この二人は?」
「ミシディアの双子の魔道士で、男の子が黒魔道士のパロム。女の子が白魔道士のポロムだ」
「そういうこと! オイラ達長老の命令で、セシルの見張……」
何やら言いかけたパロムの頭を、ポロムが思い切り殴る。今までで一番鈍い音がした。
「うふふ。長老様のお言付でセシルさんをこの試練の山にご案内しておりますの。テラ様、お目にかかれて光栄ですわ」
何だか素敵な笑顔を浮かべるポロムを、セシルは曖昧に笑って見下ろした。
女の子って怖い。
先程の言葉は礼儀正しく聞かなかったことにしよう、とセシルは思った。自分は、この地で贖えないほどの罪を負った。幼いとはいえ、彼らにも色々あるのだろう、きっと。
「……メテオ、とは?」
あからさまな話題変換だったが、ポロムが小さく安堵の吐息を吐いたのが聞こえた。
「禁断の黒魔法じゃ。手持ちの魔法ではゴルベーザに勝つのは難しい。それで、封印されし伝説の黒魔法・メテオを探しておったら、この山から強い気配を感じてな。しかし……パラディンか……。聖騎士の力が封じられていると言うのなら、やはりメテオも……」
「いけません! テラ様はお年を召されております! メテオを使えば、命が!」
ポロムの言葉に、テラは目を見開いた。
「確かに老いぼれておる! しかしな、私は命に代えてでもゴルベーザを倒さねばならんのだ! アンナを殺した、あやつを……!」
その瞳は激しい復讐心に燃えている。テラの気迫にポロムは小さく息を呑み、パロムは舌打ちした。
「ちっ……これだからめんどくさいんだよ。大人ってやつは」
怯えた様子を見せるポロムに、我に返ったテラが小さく謝る。ポロムは小さく首を横に振った。
「……テラ、ここからの道は一人では険しい。一緒に行きませんか? 僕も、ゴルベーザを倒さなければならないんだ」
「うむ。そうじゃな。メテオとパラディンの力があれば、ゴルベーザに勝てるかもしれぬ。……共に行こう」
――ふしゅるるる……。
頂上付近まで来たセシルはそんな声を聞いた気がして、周囲を見回した。しかし、特に何も起こる様子はない。
「パロム! あんた、何か言ったでしょ!」
「言ってねーよっ!」
二人の掛け合いを聞きながら、テラが前方をロッドで指し示す。
「結界がある。ここから先、何があるか分からんからな。あそこで態勢を立て直すこととしよう」
「そうですね。……ほら、二人とも」
四人は改めて結界の中で装備を整える。とはいっても、暗黒騎士であるセシルが装備できるものは限られているし、パロム・ポロムの装備品は今、持っている中では一番よい物だ。どちらかといえば、道具整理と休息の時間というほうが正しいだろう。
「あ。三角帽子。……テラ、装備しますか?」
「うむ。……おや」
帽子を受け取ったテラが柔らかく目を細める。その視線を追ったセシルも、小さく微笑んだ。
パロムとポロムが、小さく寝息を立てて眠っている。
「……剣の手入れでもしようかな」
「うむ。私もロッドでも磨くかの……」
二人は穏やかに笑みを交わすと、それぞれの武器を手入れし始める。
「……テラは休まなくても大丈夫? 一人であそこまで来たのなら、魔力もだいぶ消費してるのでは……」
「心配後無用じゃ。ロッドに込められた魔力だけで事足りたわ」
「さすが。……僕は、あの二人がいなかったら間違いなく途中で死んでたよ……」
ははは、と乾いた笑いを浮かべるセシルの横で、ポロムの身体がぴくりと動いた。
「う……。あ、セシルさん! パロム! ちょっと起きなさいっ!」
真っ赤になって慌てふためくポロムは可愛らしい。セシルは穏やかに微笑んだ。
「うえ? 何、ポロム……。もう、朝?」
「朝どころか、昼間よ! もう、起きてっ!」
寝ぼけ眼のパロムはむくりと上半身を起こすと、不思議そうにセシルを見た。
「あれ? ……あんちゃん。……オイラ、寝てた?」
「ちょっとだけね。二人とも、身体の調子はどう? 動けるかい?」
子供の回復力は大人よりも強い。少しの睡眠でも、事足りることは多いのだ。
「はい! すみませんでした。セシルさん、テラ様」
「気にしないで。僕らも疲れてたんだ。ねえ、テラ?」
セシルの言葉に、テラは腰を幾度か叩いて、頷いた。
「そうじゃな。老いぼれにこの険しい道は辛いわい」
そう言いつつ、よっこらせと掛け声を上げながら、テラは立ち上がったのだった。