FINAL FANTASY W 〜試練の旅路・3〜
結局、試練の山に辿りついたのは、ミシディアを発ってから四日後のことであった。五歳の子供を連れている上、魔物の数も多いとなっては致し方ないことだろう。
「……炎?」
試練の山の入り口は、何故か炎に包まれていた。何かが燃えている様子はないのに、炎は衰える様子もなく燃え続けている。
「パロム! 出番よ!」
「分かってらい!」
パロムは炎の前に進み出ると、すうっと息を吸った。
「凍てつく風よ! 我が前に吹き荒れよ! ブリザトォッ!!」
冷気の風が吹き荒れ、炎は瞬く間に静まった。まさしく、ボブスの山逆バージョンだ。
「へっへーん! どーんなもんだいっ!」
胸を張るパロムを、ポロムがぽかりと殴りつける。
「おごり高ぶってはいけないと、いつも長老様がおっしゃっているでしょうっ!?」
最早見慣れた風景に、セシルは苦笑を浮かべた。
だが、自称するだけあってパロムは優秀だ。黒魔法の威力は確実にリディアよりも上である。そしてパロムを諌める姉のポロムも白魔道士として類まれな資質を秘めている。彼女が使う回復魔法の恩恵は、ローザの魔法と比べても遜色ない。
二人とも五歳でこれなのだ。なかなかに末恐ろしいお子様たちである。
「さ、参りましょ。セシルさん」
セシルは苦笑を浮かべたまま頷き、気を引き締める。この山からは聖なる気と同時に、魔物の気配も色濃く感じた。
この世のものとは思えない無機質な材質で作られた部屋の中で。目を閉じていたゴルベーザはゆっくりとまぶたを持ち上げると、薄く笑った。
「……いかがなさいました?」
後ろに控えていたカインがゴルベーザの様子に気付き、声をかける。カインの横には、柱に縛り付けられたローザがいた。
「セシルが……試練の山に入ったようだ」
その言葉に、カインの兜の下の表情が変わった。
「試練の山……?では、奴はパラディンに!?」
「そうらしい。なかなかに面白い展開だが……奴にパラディンになられては厄介だ」
ゴルベーザは僅かに思案する素振りを見せた。
「スカルミリョーネを向かわせる」
その言葉に、カインは顔を上げると、身を乗り出した。
「四天王の土のスカルミリョーネを!? そんなことをしなくても、奴はこのカインが!」
「この間、止めを刺し損ねたのは、どこの誰だ?」
静かな、けれど強い覇気をゴルベーザから感じ、カインは口を噤み、頭を垂れる。
「……申し訳、ございません」
その様子にゴルベーザは凍てつくような覇気を消すと、小さく笑った。
「さすがのお前も、セシルのことが心配か?」
「いえ。そのようなことは……」
「セシルの暗黒剣はスカルミリョーネには効かん。必ずや、奴がセシルを倒すだろう。……悔しいか? カイン」
「……」
カインの様子に、ゴルベーザは笑う。冷ややかに。
「だが、お前の今の役割はその女……ローザの見張りだ。怠るなよ?」
「……はっ」
その言葉を聞いて、ローザは微かに唇を震わせる。カインにすら聞こえないようなか細い声で、ただ祈る。
「……セシル。気をつけて……」
その頃。当のセシルはと言うと。
「あんちゃん、役に立たねーなぁ」
「うっ。……すみません」
五歳児に駄目出しされていた。ここ、試練の山に出没する魔物のほとんどがアンデット系の魔物だったのだ。そして、アンデット系に暗黒の力は効かない。
そんなわけで、主戦力となっているのはこの山に来るまでの旅路で、めきめきと魔法の腕を上げたパロムとポロムの両魔道士であった。
セシルが戦闘で出来ることといえば、派手に動いて魔物の気を引き付け、双子の呪文詠唱の時間を稼ぐことくらいである。情けないことこの上ない。
そして、何だか前にもこんなことがあった気がするのは、悲しいことに全く気のせいではない。
「ふふーん。おいら、さっきバイオ覚えちゃったぜ! さすがミシディアの天才児! さいきょーだね!」
「あら、私だってテレポを覚えたわ! それに私達が安心して呪文を唱えられるのは、セシルさんが敵をひきつけてくださっているからでしょう! パロムはすぐに調子に乗るんだから!」
ポロムは腰に手をあて一息にそう言うと、セシルに近づいてくる。
「セシルさん、おけがは大丈夫ですか?」
「ああ。大丈夫だよ」
セシルはにこりと笑った。先程までの怪我はポーションで回復させた。ポロムの白魔法はアンデット相手には有効な攻撃手段になるため、主な回復はアイテム頼りとなる。
「さて、進もうか。……ん?」
前方を見やったセシルは、先に佇む人影に眉をひそめる。今いる場所は、試練の山の三合目を過ぎた辺りである。簡単に人が訪れられるような場所ではない。
魔物かという考えが一瞬頭を過ぎったが、人影が放つ気配は人そのものだ。若干警戒しつつ近づいたセシルは、その人影が見覚えがあることに気付き、息を呑む。
その人物の名を、セシルは呼んだ。
「――テラ!」